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進化を続ける財団シリーズ vol 3. フォード財団 BUILDプログラム

本連載では、長く活動を続ける世界の財団の活動と進化について解説していきます。

世界には数々の財団が存在します。
その中でも、世の中の変化に機敏に対応し、組織として進化し続ける財団があります。そのような財団の活動と工夫について本連載で解説していきます。

第一弾は、アメリカ・ニューヨークに本部を構えるフォード財団について紹介します。
   
こちらの2本の動画では、フォード財団の成り立ちや現在に至るまでの進化と、持続的な財団運営に向けた戦略と取り組みについて代表の小柴が動画で解説しました。

こちらの記事では、フォード財団が長期的に取り組むユニークなプログラムについてご紹介します。

※小柴が2024年6月にフォード財団を訪問した際の写真を使用しています。

より良い助成の形を目指して ~フォード財団のBUILDプログラムに学ぶ~

助成のあり方を考える
財団やフィランソロピーに関わる皆さんは、助成金がどのような影響を生んでいるかを考えたことがあるでしょうか?
短期的な成果だけでなく、助成先の組織が持続的に成長し、より大きな社会的インパクトを生む仕組みになっているでしょうか?

多くの助成金は、短期的なプロジェクト支援にとどまり、助成先の組織が自立的に成長するためのリソースを提供できていません。
この課題を解決するため、フォード財団は2015年にBUILD(Building Institutions and Networks)プログラムを立ち上げました。
BUILDは、従来の助成の枠を超え、「組織基盤そのもの」を強化することを目的としています。

組織基盤そのものを強化する必要性
社会課題に取り組む団体は、継続的な資金調達が難しく、また寄付や助成金も社会情勢や経済情勢に影響を受けやすいため、安定した運営がしづらい現状があります。
そのため、長期的に活動を続けるためには、予期せぬ事態に対応できる体制を作っておくことが不可欠です。
BUILDプログラムは、こうした課題を克服するために設計されました。


BUILDプログラムの概要
BUILDの目的は明確です。

助成を単なる資金提供ではなく、組織が持続可能な体制へと成長し、社会を変える担い手として発展するための支援としています。
そのため、以下のような特徴があります。

1. 長期的な資金提供

BUILDプログラムでは、通常5年間の一般支援(unrestricted support)を提供します。
これにより、助成先は短期的なプロジェクトに縛られることなく、組織の戦略的成長を見据えた運営が可能となります。
助成を受けるのは、過去にフォード財団から助成を受けたことのある組織のみであり、既存の助成関係を基盤にしながら継続的な支援を行います。

2. 組織強化への投資

BUILDプログラムの最大の特徴は、助成が単なるプロジェクト支援ではなく、組織全体の基盤強化に焦点を当てていることです。
助成資金は、以下のような領域に投じられます。

  • 人材育成(リーダーシップと役員の育成、Diversity, Equity and Inclusion (DEI)の促進、組織文化の醸成)
  • 戦略強化(ミッションの明確化、組織としての学習、ネットワーク構築)
  • 財務基盤の強化(財務管理、資金調達)
  • システム強化(デジタルセキュリティの浸透、IT体制の整備及び強化)

また、各助成先には2人のプログラムオフィサー(PO)がつき、長期的な視点から組織を支援します。

3. OMT(Organizational Mapping Tool)による組織診断

BUILDプログラムでは、助成先の組織が自らの強みや課題を可視化し、戦略的成長の方向性を明確にするためにOMT(Organizational Mapping Tool)を活用します。

助成団体は、助成期間の始めにOMTを活用し、戦略、リーダーシップ、財務、システムなどの重要分野での課題を深く理解し、優先的に取り組むべきポイントを明確にします。
診断後、フォード財団は助成先の自主性を尊重し、事業の方向性に口を出さず、助成先が自身の判断で戦略を見直せるようにしています。

4. CCTA(Cohorts, Convenings, and Technical Assistance)による能力強化とネットワーキング

BUILDプログラムは、助成金の提供だけでなく、助成先の能力強化とネットワーキングの機会を提供することにも力を入れています。
これを支えるのがCCTA(Cohorts, Convenings, and Technical Assistance)という仕組みです。

  • Cohorts(コホート):類似の課題を持つ助成先同士をグループ化し、学び合いの機会を提供。
  • Convenings(カンファレンスやミーティング):助成先が集まり、情報共有やコラボレーションを促進。
  • Technical Assistance(技術支援):サイバーセキュリティ、財務管理、リーダーシップ開発などの分野でトレーニングを実施。

特に、サイバーセキュリティ対策としてCAT(Cybersecurity Assessment Tool)を導入し、助成先のデジタル環境の安全性を高める支援も行っています。

5. 持続可能な成果の創出

BUILDプログラムは、単なる短期的な成果ではなく、組織の長期的な成長と影響力の強化を目指します。
助成期間終了後も、組織が持続的に成長し続けることを重視し、助成の枠を超えて組織が本当に必要としている支援を提供することで、より強固で持続可能な社会変革を推進する画期的な取り組みです。

実績とインパクト

2016年~2021年の最初のBUILD助成金
助成対象:30か国以上、約350の団体(草の根運動、政策分析団体、訴訟団体)
合計助成金額:10億ドル

BUILDプログラムは、これまでにない包括的な助成プログラムとして、多くの組織の長く活動を続けられる体制を強化する、
つまり、持続可能性を高めることに貢献してきました。

今後も、このような長期的な視点を持つ助成が広がることが期待されます。



以上、いかがでしたでしょうか。
世界の財団の事例が、日本の財団やフィランソロピストの皆様の参考になることを願っております。


PAでは、財団のミッション・ビジョンなどの戦略策定や未来を見据えた事業検討のお手伝いもしています。
お気軽にお問い合わせください。

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