KNOWLEDGE
プロフィール
井上 高志(いのうえ たかし)
1968年、横浜市生まれ。リクルートコスモス(現コスモスイニシア)を経て1995年に独立。1997年に株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。現在は代表取締役会長を務める。
特定非営利活動法人PEACE DAY 代表理事、一般社団法人ナスコンバレー協議会 代表理事、一般社団法人新経済連盟 理事、公益財団法人Well-being for Planet Earth 評議員。
株式会社LIFULL創業者・井上高志さん。
26歳の時に稲盛和夫氏の著書と出会い、「利他主義」を生き方と経営の軸に据えてきました。
2023年、社長を退任し会長へ。その精神はビジネスの枠を超え、フィランソロピー活動へとさらに広がっています。
現在は「PEACE DAY」や「ナスコンバレー協議会」などを通じて、世界平和や生活の負担軽減といった社会課題の解決に取り組んでいる井上さん。
今回のインタビューでは、フィランソロピーの課題と展望についてお話しいただきました。
井上高志さんの過去(2022.3.15)のインタビューはこちら
(出典:ナスコンバレー協議会)
― フィランソロピーが直面する3つの壁は、「資金」「人材」「インパクト」
主な課題は3つ。「資金」「人材」「インパクトの出し方」です。特に「世界平和」を目指す活動では、それが難しいと感じています。
資金面では、「まるごと高専」のような一般社団の基金制度を活用した仕組みを構想していますが、大企業から億単位で資金を調達するには高いハードルがあります。
ナスコンバレー協議会は、21世紀型社会に求められるソリューション(エコシステム、サービス、製品)の共創を目指しており、企業側にメリットが見えやすく、協力や参画も得やすい。一方で「世界平和」を掲げるPEACE DAYのような活動は、「平和や外交は国の仕事」と見なされ、企業の理解が得づらいのです。
人材面では、フィランソロピーにおいては、社会を動かす啓発や行動変容につなげられるプロフェッショナル人材が必要です。しかし、見つけるのが難しい。優秀な人材は、民間にいれば高給が見込めるため、非営利活動への参加はハードルが高いのです。
SDGsやウェルビーイングに関しては、昨今、企業からお金が出やすいテーマになってきていますが、「世界平和」と言うと、「国がやる外交の話であって企業は関係ない」と思っているので、みんな途端に思考停止してしまいます。
ただ実際には、戦争で輸送ルートが止まると、企業にも大打撃になります。だから、「平和を維持する」ということに企業はもっと能動的に働きかけたり、お金を使うべきと考えます。このような課題認識の基、アカデミアと一緒に、平和が壊れたときに企業が被る損失額をシミュレーションしたデータを研究し企業に伝える準備をしています。
― 100万人の署名なら、国を動かせる
(出典:PEACE DAY)
今、100万人のメルマガ会員集めようとしています。会員の方々に署名活動に参加していただくためです。
PEACE DAYは、2018年にスタート。代々木公園での平和イベントには、年に数千人もの人が集まってくれます。イベントは大変盛り上がります。でも、1週間後、みんなが何か行動を起こせるかというと…たぶん難しいですよね。
そこで、社会を動かす仕組みとして考えたのが「署名活動」でした。
2023年、イスラエルとハマスの戦闘が始まった直後。 2万6,000人の署名を集め、外務大臣と首相に届けました。返答は、「受け取りました、検討します」という形式的なものでした。でも、「このやり方は重要かもしれない」となんとなく感じたのです。100万人だったら、きっと景色は変わるはずです。自民党員も今は約100万人。それと同じ数の市民が声を上げたら、政府も無視できないのではないでしょうか。
100万人のメルマガ会員を集め、メディアが報じない世界の紛争情報を伝え、署名の連携ネットワークをつくる。行動のインフラとしての「署名」を、本気で仕組み化しようと試行錯誤しています。
― 「フィランソロピストとしての歩き方」や相談できるコミュニティがあれば
日本におけるフィランソロピーは、ナレッジシェアが進んでいない領域だと感じています。歴史が浅いこともありますし、フィランソロピストの多くが起業家で、各々が単独で課題解決に取り組んでいるため、このような状況になっているのではないかと。
ですので、これから日本でフィランソロピーの裾野を広げていくなら「フィランソロピストとしての歩き方」のようなものがあると良いと思います。
例えば、私は、公益財団、一般財団、一般社団、認定NPO、NPOと5形態の法人を作りました。どの組織形態が活動に最適かは重要なポイントです。
活動の始め方、組織の作り方、相談先。そういうものが明確だと、皆さんのフィランソロピー活動がスムーズに立ち上がるのではないかと思います。
そして、「フィランソロピー」という志を同じくする人たちが、率直に話し合ったり知識を共有したりするコミュニティが出来てくるといいですね。
「成功するかどうかわからないです。でもやってみよう!って」
「起業家なんで、色々試して効果見ながらやるんです。試行錯誤して、ここに今、行きついてるっていう感じです」
理想だけを語らず、仕組みを考え、数字で語り、仲間を巻き込み、現実と闘う。
井上さんの姿勢は、私たちに、希望と行動する勇気をあたえてくれます。
インタビュアー:Co-CEO 藤田淑子
TOP