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【語り手】
生野考司 氏(公益認定等委員会 委員/元さいたま家庭裁判所所長)
黒田かをり 氏(公益認定等委員会 委員)
湯浅信好 氏(公益認定等委員会 委員/公認会計士)
【聞き手】小柴優子(PA Inc. / 内閣府公益認定等委員会事務局 上席政策調査官)

内閣府公益認定等委員会は、「公益法人としてふさわしいか」を審査・判断するための機関です。一方で、公益化を目指す方々の間では、「実態がブラックボックスである」「○○でなければ認定されない」「審査が厳しすぎてなかなか認定されない」といったイメージが先行し、必要以上に身構えてしまうケースも少なくありません。
こうしたイメージが生まれてきた背景には、これまで審査の論理が外からは見えにくく、「どこを見られているのか」が十分に共有されてこなかったという事情もあります。
しかし、実際に委員が向き合っている問いはとてもシンプルです。
それは── 「その事業は本当に社会のためになるのか」、そして、「公益法人である必要性があるか」。
本稿では、実際に審査に関わる委員の方々へのインタビューを通じて、「何が見られているのか」「どこが本当のハードルなのか」を整理していきます。
小柴: 前回は高角室長に制度改革の背景を伺いましたが、今回は実際に公益性を判断される皆さんにお話を伺います。公益認定等委員会は、何を見ているのでしょうか。
湯浅委員: 制度として細かい条件はありますが、見ているポイント自体はそれほど特殊なものではありません。多くの方がイメージする「社会のためになる活動か」から大きく外れるものではないと思います。
生野委員: 公益法人になると一般法人にはない制約が増えるので、ハードルが高く感じられるのは当然かと思います。ただ、私たちが向き合っている問いはシンプルで、「それは本当に社会のためになるのか」という一点です。
小柴:公益認定等ガイドラインは整備されましたが、あの専門用語の多い255ページを、財団を運営する方々が読みこなすのは難しいと思います。実際には「見えない基準」のようなものがあるのでしょうか。
湯浅委員: 全く逆です。一番大きいのは、ガイドラインが細かく整備されたことで、委員、行政官、そして申請される法人さんが同じ目線でものが見られるようになったことです。これまでは、審査する側とされる側の「見ているポイント」がズレていたことが、お互いの不幸を生んでいた部分もありました。以前は「そんなことまで言ってくるの?」という予測がつかない反応がストレスだったかもしれませんが、今はその手数感がかなり減少したはずです。
生野委員: 前のガイドラインは「留意して審査しましょう」というもので、留意点として具体的に書かれている部分もありましたが、必ずしも網羅的なものではありませんでした。今回は「こことここは問題になります」「必要なものはこれを出してください」と明記されています。逆に言えば、そこに書いてないところは原則問題にならないことになり、プロセスがかなり明確になりました。
今回のガイドラインは、「ここがポイント」「これは必要」と明確に書かれています。逆に言えば、そこから外れた見えない基準は基本的にありません。
黒田委員: 以前は「担当者の主観に左右されるのではないか」という不安もあったかもしれませんが、今は客観的な基準が示されています。ガイドラインを毎年改善し、それを公にしていくことも含め、審査の予見可能性は格段に高まりました。
小柴: 審査期間の中央値が52.5日まで短縮されたと伺いました。ものすごい短縮ですね!ただ、あまりに早いと、逆に「審査が緩くなったのではないか」という印象を持つ方もいると思うのですが、その点はいかがですか。
湯浅委員: 決して基準が緩くなったわけではありません。審査の方針が変わったのです。以前は「入口で厳しく確認する(事前規制)」仕組みでしたが、現在は「事後に確認をする(事後チェック)」仕組みへ大きく舵を切り替えたのです。 この方針転換のおかげで、4月以降の申請はほぼ100%、標準処理期間内に対応できています。
黒田委員: 「緩い」というと全体が柔らかい感じに聞こえますが、そうではありません。入口のハードルを下げる代わりに、事後の監督や各法人のガバナンスの強化がセットになっています。強化するものと柔軟化したものをセットで考えているので、本体の厳しさは変わっていない、むしろ明確になったと言えるでしょう。
生野委員: 認定後の確認でいい項目を大幅に増やしたことで、申請にあたって準備していただく資料もかなり減りました。緩くなったと思われるのは、以前のように「本当にやっているのか、あれ出して、これ出して」と入口で細々言わなくなったからでしょう。認定する以上は失敗がないようにという強い意識が制度発足時からあったようですが、今はそこはある程度割り切っています。「こうやると言っているからには、ちゃんとやってるよね」と、法人の自律とガバナンスをまず信頼するスタンスに変えたのです。
小柴: 形式的な縛りが減った分、より「中身」を見るようになったということでしょうか。以前、ある分野の奨学金で、対象人数が非常に少ないケース(保守的にみると公益性の判定基準である「特別の利益」に抵触すると判断されかねない)でも委員の皆様が「この状況なら妥当だ」と判断されていたのが印象的でした。
湯浅委員: 字面を読んでいるだけだと「これ、公益事業じゃないのでは?」と一見思えるものもあります。でも、よくよくお聞きすると、特定の困っている方にきちんと寄与する事業だとわかってくる。申請書に書ききれていない「思い」や「理由」があるはずなんですね。
生野委員: 事業が分かりにくいものは、私たちは問いかけを重ねます。問いかけを通じて「あ、そういう事業なんだね」と我々が理解を深め、納得した上で判断を下す。画一的な基準に当てはめて機械的に判断しているわけではないのです。
黒田委員: たとえば、人数が少なくても公正中立な選考基準が明確であれば認められる、といったガイドラインの書き込みも増えています。公益法人の事情や社会のニーズを無視することはありません。
小柴: 委員の皆さんが、申請書で最も重視される点は何でしょうか?
湯浅委員: 一番大事なのは、やはり「どういった事業をやってらっしゃるか」という点です。隅っこをつつくというわけではなくて、真正面から「どんな対象に対し、どのような事業を行うのか」ということを具体的に見ていくのです。たとえば奨学金事業を例に挙げると、「困っている学生を助けたい」とだけ書かれていても、実は何も伝わらないのです。
生野委員: 強い思いがあるのはいいのですが、強い思いだけをいっぱい書いてもしょうがないというところなんです。大事なのは、それで具体的に「何をどういう目的でどのようにやるのか」がちゃんと書けているかどうか。もし、強い思いの延長線上で自分たちの好きなように事業のやり方をコントロールしたい、ということになれば、「公益性に問題はありませんか?」と問わざるを得なくなります。
湯浅委員: 公益に対する強い思いがあるのなら、しっかりそれを事業として具体化していただきたい。それができていれば、特に前例がなくたって構わないわけですから。
小柴: 起業家の方々と接していると、既存の枠に収まらない新しい解決策が本当に多いと感じます。行政の場では、これまでの例にない取り組みには慎重な姿勢がとられることもありますが、公益認定のプロセスでも同じように新しい挑戦は難しいのでしょうか。
黒田委員: 前例がないからといって否定することもあり得ません。むしろ、今の社会には見たこともない解決策こそが必要です。
ただ、ここで一つ難しい議論になるのが、「営利企業との線引き」です。今は営利法人であっても、非常に社会貢献的な事業をビジネスとして展開しているケースが増えています。そうなると、世の中における公益法人としての特殊性や存在意義をどこに見出すのか、という判断で迷う場面はあります。
生野委員: そこで問われるのが、その事業に「公益法人として取り組むべき特徴」があるかどうかです。中身を聞いてみて、他の民間企業が行っているサービスと全く同じであれば、それはわざわざ税制優遇のある公益法人がやるべきことなのか、という議論になります。
黒田委員: だからこそ、新しい取り組みであればあるほど、「なぜ非営利の器でなければならないのか」というロジックが必要になります。市場原理では解決できない価値がそこにあるのか。そのロジックがしっかり説明されていれば、私たちは新しい挑戦をむしろ歓迎し、好奇心を持って向き合いたいと考えています。
小柴: 内閣府に相談に行くと、かえって細かく詰められて動けなくなる、といった不安を耳にします。これはコミュニケーションのすれ違いでしょうか?
湯浅委員: 素晴らしい思いはあるものの、それが文章として十分に表現しきれていないからかもしれません。行政の担当官としては、そこを確認するために問いかけを重ねざるを得ないのですが、それが申請者側には「厳しく詰められた」という印象に繋がってしまっているのではないでしょうか。
黒田委員: 私自身、一般法人時代に「公益認定は仕事が増えるだけだ」と議論した経験があります(笑)。しかし、中身があるならば、プロセスが長くなることはあっても大きな問題ではありません。対話を通じて自分たちの事業を突き詰めていく、良い機会になります。
生野委員: 「申請を通すための作文」に腐心する前に、本当は自分たちが何をやりたいのかを明確にしてください。そこがはっきりしていれば、その内容を、公益認定の要件や基準に向けて整理し、文章化できるはずです。その際の行政のアドバイスは強力なサポートになるはずです。
小柴: これからの公益法人には「成長」が期待されていると高角室長のお話でもありましたが、これは具体的に何を期待されているのでしょう。
湯浅委員: 社会的課題もその重要性もどんどん変わっていくので、環境の変化に対応して、新しいチャレンジを積極的にしていただきたい、ということです。どんどん発信し、世の中に活動を知っていただくことで、それに触発される人が増えてほしい。
黒田委員: その事業が社会課題解決にどう役に立ったのかという「インパクト」を測る姿勢ですね。プラス面だけでなく、良かれと思ってやったことが逆にマイナスの効果を生んでしまったといったことも、きちっと出していくことが重要です。自分たちを「開いていく」、その情報開示の姿勢こそが信頼性の向上に繋がります。
小柴: 「良いこと・正しいことをしている」というアピールだけでなく、うまくできなかったことも開示していく。それが周りの学びになり、結果として自分たちの団体を発展させていくことにも繋がるということですね。
生野委員: 創業者のマインドが代替わりしても継承されるガバナンスを確立し、行政に口を出されないような「自律した団体運営」を当たり前にやってほしい。その中で社会的な効果を拡大させていく「発展」を期待しています。
小柴: 作る側は純粋な思いで臨む一方で、「こう言うと指導を受けるのでは」と、実は瑣末なところで気遅れしているケースも多いんです。でも今のお話を伺うと、委員の皆様はもっと本質的なところ、つまり「国民の納得」や「社会の信頼」を担保するためにそこにいらっしゃるのだと感じました。具体的に、皆様は何から公益法人の地位を守ろうとされているのでしょうか。
湯浅委員: 一番大事なのは、公益法人に対する「社会の信頼性」を守ることです。
やっぱり1000あったうちの1つ2つでもとんでもない公益法人があると、公益法人全体の評価がそこに引っ張られてしまいます。ですから、しっかりとルールに則り、公益目的事業を嘘偽りなく行っていく。そこを厳しく見ていくのが我々の役割です。
小柴: 不適切な意図を持った参入を防いでいるということですね。
湯浅委員: 申請者の裏側の意図までは分かりませんが、たとえば単に寄付や税制優遇のメリットだけを享受したいとか。とりあえず形だけ作ってみたけれど事業をうまく回せない、といったケースに公益法人としての器を使わせる意義はありません。
黒田委員: 悪意はなくとも結果として役割を果たせていないこともあります。そういう事態を防ぎ、信頼される団体として自立していただくことが、公益セクター全体の価値を守ることに繋がるのだと思います。
小柴: 今回の制度改革で、公益法人が「できること」が変わったというよりも、圧倒的に「やりやすくなった」のだと感じます。これからの公益法人に対し、委員としてどのような役割を期待されますか。
湯浅委員: どんどん活動を発信していただきたいですね。世の中に公益活動が広く知られれば、「自分も、自社も、こんなことができるかな」と触発される個人や組織が増えていく。社会的課題は常に変化しています。その重要性の変化に対応して、新しいチャレンジを積極的に続けてください。こちらもスピーディーに対応します。
黒田委員: 加えて、自分たちの事業が社会にどう役に立ったのかという「インパクト」を可視化する姿勢も、ますます求められるでしょう。これは大組織だけでなく、小規模団体でも身の丈に合ったやり方で取り組むことができるのではないでしょうか。実際取り組まれている法人の好事例などは参考になると思います。繰り返しになりますが、プラス面だけでなく、失敗やマイナスの効果さえも隠さずに出していく。そのような姿勢が、公益法人の信頼性をさらに高め、周囲の学びにもなります。
生野委員: そこで重要になるのが、組織としての「発展」です。創業者の熱いマインドが、代替わりしても組織として承継されるガバナンスを確立してほしい。同じことをやり続けるのも悪くはありませんが、やはり行政に口を出されないほど自律した運営を当たり前に行い、そのうえで社会的な効果を拡大させていく「発展」を期待しています。
湯浅委員: 公益事業をやり抜く覚悟を持って、ビジネスの経営感覚をぜひこちらにも持ち込んでほしい。
生野委員: 公益法人は、もう「あれこれ細かく言われる不自由な箱」ではないのです。今回の改正で事前規制から事後チェックにシフトした部分は、皆さんの自律したガバナンスをまず信頼するというスタンスに変えたからです。つまり、ここからは公益法人の「展望」や「力量」がそのまま試されることになります。社会的な効果を大きく発展させていきたいと願うなら、公益法人は使い甲斐のある器です。そのような方の挑戦を、私たちは心からお待ちしています。
【PA Inc's View:編集後記】
今回のインタビューを通じ、公益認定のあり方が「行政による一方的な判断」から、実態に即した「建設的な対話」へと進化していることを実感しました。 特に印象的だったのは、委員の皆様が形式的な前例にとらわれず、社会に与えるインパクトや現場の妥当性を重視されている点です。 これは、法人が現場の知見を伝えることで当局の視野を広げ、公益の可能性を共に更新していけることを示唆しています。 公益法人が「お上」に従うだけでなく、当局と共に社会の変化へ適応し、挑戦を続ける。 それを歓迎する委員会の柔軟な姿勢に、新たな時代の公益の形を見ました。
公益認定等委員会は「志を裁く門番」ではない。

公益の挑戦者を支えるサポーターである。
小柴優子
日本GEを経て米国コロンビア大学院を修了。Rockefeller Philanthropy Advisors等での経験を通じて、米国のフィランソロピーの最前線で知見を深める。 帰国後は社会変革推進財団(SIIF)にて社会的投資・インパクト評価等に従事。 2020年に日本人初の米国フィランソロピー・アドバイザー資格(CAP©)を取得し、2023年にフィランソロピー・アドバイザーズ株式会社を共同創業。 現在は内閣府の上席政策調査員も兼務。
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