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【連載】『都市伝説』の真相に迫る①

公益法人は「守りの器」から、社会をアップデートする「成長する器」へ

2025年4月、日本の公益法人制度は大きな転換点を迎えました。長年、公益法人の成長を阻む「壁」とされてきた財務規律や煩雑な手続きが、抜本的に見直されました。この改革は、日本の社会貢献をどう変えるのか。改革を主導した内閣府の高角健志公益法人行政担当室長と、実務者の視点を持つPA Inc.難波が、本制度の背景に迫ります。

【語り手】 髙角健志氏 (内閣府公益認定等委員会事務局長 兼 公益法人行政担当室長)

【聞き手】 難波宏隆 (PA Inc. 執行役員)

なぜ今、公益法人の「大改革」が必要だったのか

難波: 2025年4月から新制度が施行されました。まずは率直に伺いたいのですが、なぜこのタイミングで、これほどまでに踏み込んだ改革が必要だったのでしょうか。

髙角: 直接的なきっかけは、2022年当時、政府内で進められていた「新しい資本主義」の議論です。経済界からも「民間の公益活動を活性化させ、成長と分配の循環を実現すべきだ」という強い問題提起がありました。

これまでの制度は、どちらかと言えば法人の「信頼性」を確保することに重きを置いていたものでした。
例えば、公益法人の公益目的事業に関する収入は「費用を超えてはならない」という法律の規定がありました。「収支相償」と呼ばれていたこのルールは、公益目的事業のために使われるべき財源を最大限に活用してもらうことを促す趣旨で設けられたものですが、結果として「赤字を出してはいけないが、黒字も出してはいけない」という、身動きの取れない状態を生んでしまっていたと思います。
将来の事業拡大のための積立てや、不測の事態に備えた余裕資金を持ち、法人の経営判断で計画的に使う、あるいは災害や不景気の時に思い切って使うというような機動的な資金の活用ができるようになれば、民間が本来持っているダイナミズムを伸ばしていくことができるのではないか。
今回の改革は、公益法人を単なる「規制」の対象というよりは社会変革の「パートナー」として後押しする方向にパラダイムシフトしていくものだと捉えてもよいかもしれません。



難波: まさに「成長のための改革」ということですね。現場からは「ようやく息ができる」という声も聞こえてきますが、具体的に何がどう変わったのか、深掘りしていきたいと思います。

収支相償の「単年度主義」からの脱却——5年スパンで描く成長戦略

難波: 最大の変更点は、やはり「収支相償」の捉え方ですよね。これまでは「単年度で収支をゼロに近づける」ことに事務局が奔走し、年度末に駆け込みで使い切るような光景も見られました。

髙角: おっしゃる通りです。これまでも、実際には単年度ではなく黒字が発生したら原則2年以内に解消するように制度運用していたのですが、新制度では、この収支相償を「中期(5年程度)」で見る(中期的収支均衡)ように改め、法令上明確にしました。5年のスパンで収支が均衡すればいい。その際、これまで認められていなかった過去の赤字を通算することも可能としました。

難波: 5年というのは大きいですね。例えば、最初の3年で大胆に投資をして赤字を出しても、その後の2年で事業を軌道に乗せて回収するという、一般企業のような「戦略的運営」が可能になるわけですね。

髙角: その通りです。「黒字を出してはいけない」というのは、実は大きな誤解です。黒字を次の大きな公益目的事業に投資する。これは今までの制度の下でも可能ではあったのですが、新しい制度は、5年という期間の中で法人の経営判断でこのサイクルを回していくことを促す効果があると考えています。これからは、短期的な数字合わせではなく、「5年後にどのような社会的インパクトを出したいか」というビジョンが問われることになります。

「公益充実資金」と「予備財産」—— 未来への投資が可能に

難波: 財務面では、「公益充実資金」「公益目的事業継続予備財産」という新しい器も用意されました。これらはどう活用されるのでしょうか?

髙角: 簡単に言えば、法人の「貯金」に正当な意味合いを与えたものです。

まず「公益充実資金」は、従来の特定費用準備資金などをより柔軟にしたもので、将来の大きな事業展開や設備投資のために、計画的に資金を積み立てられる「攻めの資産」といえます。 一方の「予備財産」は、感染症の流行や災害、あるいは寄付金・配当収入の急減といった不測の事態に備えるためのものです。これまでは使い道が定められていない「遊休財産」について一律の保有制限があったものを緩和し、法人の持続可能性を高めるためのいわば「守りの資産」を持つことが可能になりました。

難波: 確かに、奨学財団など株の配当を原資にしている法人は、これまで株価変動に常に怯えていました。この予備財産があることで、安定して奨学金を出し続けられる。これは受益者にとっても大きな安心材料ですね。

髙角: ええ。ただし、自由度が増す分、「説明責任」はより重要になります。なぜこの資金が必要なのか、どう活用するのか。ガバナンスと透明性が、法人の信頼を担保する鍵となります。

 行政手続きの劇的な高速化——変更届出範囲の大幅拡大へ

難波: 手続き面でも大きな変化がありました。これまでは事業を少し変えるだけでも「変更認定」が必要で、行政とのやり取りに数ヶ月を要することもありました。これが「スピード感のある経営」のボトルネックになっていたと感じます。



髙角: そこは我々も真摯に受け止め、行政手続を簡素化する見直しを行いました。まず、認定申請書における事業内容の書き方について、詳細な記載の「一言一句」を精査するようなやり方を改め、事業の趣旨や合目的性など、公益性を判断する上で必要な「大義」の要素を軸にした概略的な記載へと転換します。

そして、公益目的事業について、その概略の範囲内での変更であれば、事前の「認定」は不要で事後の「届出」だけで済むよう、変更届出の範囲を大幅に拡大しました。また、公益目的事業以外の収益事業等については、すべて変更届出で対応できるようにしました。

難波: 「まずはやってみて、改善する」というトライアンドエラーが可能になるわけですね。実際に、新規認定のスピードも上がっていると伺いました。

髙角: 運用実務においても実績が出ています。内閣府では、新規の公益認定申請については、標準処理期間を4ヶ月と設定していますが、2025年4月以降の受付分については、全件が4ヶ月以内で処理されています。中央値で見ても、2024年度に処理した案件は127日要していたものが、2025年度分は52.5日にまで短縮されています。(※内閣府における2025年12月末時点での試算値)

さらに、これまで「重複入力が多すぎる」と不評だった申請システムも、2028年度に向けて改修を進めています 。UIの改善やフォーム入力の拡充など、現場のストレスを徹底的に軽減するつもりです 。皆さんには事務作業ではなく、事業のインパクトを最大化することに時間を使ってほしい。そのための業務・システムの改善に、今後も取り組んでいきます。

難波: 手続きの高速化は目を見張りますね。システム改修については、私たち実務者も積極的に改善への声を届けていかなければなりません。

「都市伝説」を打破せよ——パターン化された申請からの脱却

難波: 一方で、現場にはまだ「旧制度の呪縛」が残っています。「公益法人は自由度が低い」という思い込みや、コンサルタントによる「この書き方でないと通らない」といった画一的な申請パターンに頼ってしまう現状もあります。

髙角: それは我々が最も打破したい「都市伝説」です。公益目的事業のチェックポイントとして「19類型」をお示ししていますが、それらはあくまで典型的な事業類型の例示に過ぎず、それ以外の活動ができないわけではありません。新しいガイドラインでは、公益目的事業に該当するかどうかの考え方や判断要素を整理してお示ししており、社会課題解決に資する多種多様な活動を読み込むことが可能です。

特定の「合格パターン」に自分たちを合わせる必要はありません。大事なのは「自分たちは何を成し遂げたいのか、そのためにどんな活動をしていくのか」を言語化することです。入口で時間がかかる最大の要因は、実は書類の不備などよりも、法人の「目的・計画を明確に説明できていない」ことが多いのです。

難波: なるほど。専門家に頼り切るのではなく、自らの言葉で「公益事業」を明確に定義する。そのプロセス自体が、公益法人としてのガバナンスに繋がるのですね。

結びに——5年後、10年後。成長できる公益法人が大きな社会的インパクトを創出する世界へ。

難波: 最後に一つお聞かせください。今回の改革を経て、5年後、10年後の日本の公益法人は、どのような姿になっていてほしいとお考えですか。

髙角: 今までの多くの公益法人には、正直なところ「発展」や「成長」というビジョンが乏しい面があったかもしれません。前例を踏襲し、資産を守ることが優先されてきたのではないか。

しかし、ますます変化が激しくなっていくこれからの時代、法人の意識も変わってくるのではないでしょうか。新制度の下で、社会課題に対して大胆に挑戦し、成長していく法人が一つでも二つでも増えてほしいと思います。

難波: 「成長できる公益法人」。その新しいコンセプトを、私たちも事例紹介や記事を通じて発信し続けたいと思います。本日は、公益法人の未来が明るくなるようなお話をありがとうございました。

【PA Inc's View:編集後記】
今回のインタビューを通じて強く感じたのは、当局の「本気度」です。特に収支相償の5年平準化と、認定プロセスの迅速化は、劇的な変化だと感じます。
また、自由度が上がった分、説明責任は伴いますが、「公益法人は手足を縛られて身動きが取れない」という話は、単なる「都市伝説」に過ぎないことをあらためて痛感しました。 従来「安定的」とか「守り」のイメージだった公益法人が、新制度という武器を携え、「戦略的」に「進化・成長」していける。そんな「攻めの公益法人運営」の道筋が垣間見えた対談でした。

難波宏隆
大手金融機関にてマーケット業務や法人営業を経験後、超富裕層ビジネス戦略企画を統括。長年の実務を通じ、顧客のフィランソロピー活動支援に注力。2025年よりフィランソロピー・アドバイザーズ株式会社(PA Inc.)に参画。現在は金融の知見を活かし、非営利組織の運営支援や社会的インパクトの拡大に向けた活動を展開している。

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