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【連載】『都市伝説』の真相に迫る③

公益法人で「社会を変える」ー 公益認定担当官に聞く

「公益認定は大変」「手続きが複雑すぎる」――

そんな声を、どこか“当たり前”のように聞いてきました。
これまで2回にわたり、その“都市伝説”の正体を探るべく、制度の見直しの背景や実態を内閣府の方々に伺ってきた結果、見えてきたのは、むしろ「変わろうとしている制度」の姿でした。

そして最終回。舞台はいよいよ「現場」です。
日々、新規の認定申請と向き合う担当官・伊藤憲一氏に、複数の財団事務局運営を担うPA Inc.の藤田が迫ります。

【語り手】伊藤 憲一 氏(公益認定等委員会 事務局 公益法人行政担当室)
【聞き手】藤田 淑子(PA Inc.  Co-CEO)

公益認定にかかる日数(中央値)は、今や2か月未満!

藤田:伊藤さんは、新規の公益認定申請の手続きを担当されておられますが、まずは、認定のプロセスを教えてください。

伊藤:まず、書類のチェックから始まり、その後、中身をじっくり審査します。
お金の計画は大丈夫か、ちゃんと実行できる体制があるか、事業は本当に社会の役に立つのか。
途中で「ここはどういうことですか?」とやり取りを重ねながら、申請される財団の方と一緒に形を整えていきます。そして最後に委員会が「これは公益性あり」と判断すれば認定される――そんなプロセスです。

藤田:2025年4月の公益法人制度の改正から、公益認定にかかる日数が劇的に短くなったようですね。

伊藤:はい、がんばっています(笑)。内閣府の標準処理期間は4か月と設定されていますが、実績は52.5日となりました。
※申請してから認定が下りるまでの日数の中央値。内閣府における2025年12月末時点での試算値

ちなみに、これらの数値には申請者側の準備でこちらがお待ちしている日数も入っています。



藤田:ということは、申請者側が、すごい勢いで伊藤さんの質問に答えると、かかる日数はもっと短くなる訳ですね。

伊藤:その通りです。

藤田:どんな申請が、認定されやすいのでしょうか?

伊藤:財団の事業内容や財務面において、不確実な点が多いほど私共との往復が増え、時間がかかるといえます。審査は 「手引き」や「ガイドライン」に基いて行われるので、それらに即していれば認定は早くなります。初期段階で論点を明確にし、必要書類が整えられている申請の審査は早く終わります。その意味でも、「事前相談」を活用していただくことは有効ですね。

公益化に向いているのは、「社会価値を“仕組み”として継続させる意志」がある法人

藤田:そもそも公益化したほうが良い法人とは、どういうところだと思いますか?
「税制優遇が受けられる、安定株主になりうる」などと営業を掛けられる…という話を、よく富裕層の方から聞くのですが。

伊藤:大切なのは、社会価値を“仕組み”として継続させたい意志があるか?だと思います。
そして、透明性・説明責任・ガバナンスを組み込む覚悟があること。
さらに、寄付や他者との協働を“公共性の拡張”として捉えられることではないでしょうか。

藤田:公益法人は、寄付者に税務メリットがあり、定期的な審査があることで信頼性も高いため、資金(寄付など)を集めやすくなるので、自分の財団も公益化をめざしたい、という声もフィランソロピストからは聞きます。

伊藤:そういう動機もありえるでしょう。ただ、税務メリットだけで寄付を集められるとは思いません。財団が寄付を集めていくには、「私たち(財団)は、どんな社会課題に、どのように取り組むことで、どんな成果を、長期的に出していくのだ」というセオリーオブチェンジ(変化の理論)※と意思を明確に持ち、きちんと言語化することが大切だと思います。

Theory of Change(ToC:セオリー・オブ・チェンジ/変化の理論)とは、ある社会的な課題に対し、「なぜ」「どのように」活動が成果(ゴール)につながるのか、その因果関係を可視化し、計画・評価・改善に活用する手法です。

都市伝説は、やっぱり「都市伝説」だった?

藤田:ではここからは、お客様の財団法人の公益化や運営をお手伝いする立場として、これまで私がものすごく気になってきた、公益認定における「都市伝説」に切り込んでいきます。

まず一つ目。
「コンサルタントの方などに、『奨学金か研究助成じゃないと認定が下りない!』と言われたので、そうした」という声をフィランソロピストの方から聞くことがあるのですが、やはり、奨学金と研究助成は圧倒的に認定がとりやすいのでしょうか?

伊藤:そういうわけではありません。「奨学金事業や研究助成事業を行っていないと公益認定されない」という制度上の要件は存在しません。公益認定の要件は、公益目的事業が不特定多数の利益を増進するものか、適正な運営が確保されるかなどで、奨学金・研究助成はその中の「一例」であって、必須ではありません。要件に合致することは必要ですが、自由な発想の公益事業が申請されてくることを期待しています。

藤田:そうですか。公益認定は前例のない事業には後ろ向きのイメージがありましたが、これで払拭されました。


では2つ目。
「選考委員をおかなければならない」これもよく耳にするのですが、そうなのでしょうか。財団の事業の根幹にあたる「選考」を外部の方々に任せなければならないという考え方に違和感を感じているのですが。



伊藤:はい。答えはNOです。ガイドラインでは、「事業に求められる専門性や公正性が確保されると判断できる場合、選考委員会の設置は不要」と明記しています。また、「外部の有識者を委員とすることは、選考等の公正性・客観性確保の観点から有益であることも多いが、法人自治を尊重し、特段の理由がある場合を除き、法人外部の者を選考に関与させることを求めない。 」とも記載しています。

藤田:なんと。そこまではっきりと書かれているのですね。

伊藤:はい。過去、選考委員会の構成は、チェックポイント③(助成の選考が公正に行われることになっているか)及び④(専門家など選考に適切な者が関与しているか)を満たす観点から、法人外部の専門家等を委員として選任することが一般的となっており、内閣府では、選考委員の半分以上が法人外部の者で構成されることが望ましい旨の指導を行ってきました。
ただし、これは、選考委員会ありきで指導を行っていたことの裏返しでもあり、制度改正に伴い、新しいガイドラインでは、先のように記載されることになったのです。

藤田:なるほど、よくわかりました。


では3つ目。「支援の対象となる団体が30もない事業は、不特定多数の利益を増進することにならないので認定されない」という噂です。ですので、対象団体が最低でも30くらいにはなるように支援の範囲を広げるようにと、私自身、コンサルタントから指導を受けたこともあります。

伊藤:これも答えはNOです。そのような法的要件は存在しません。
認定には、「不特定かつ多数に対する公益性」が求められます。そのため、事業が極端に限定的である場合、「公益性が十分とは言い難い」という審査指摘が出ることがあります。ただし、これは「件数の義務」ではなく、事業の趣旨や対象があまりに狭すぎないかを審査する観点にすぎません。この文脈で、審査関係者やコンサルタント等が「最低でも 20〜30 件くらいの実績は欲しい」といった 目安を助言したケースが噂として独り歩きした可能性があります。また、特定の助成財団の自主的な基準との混同された可能性もあり得ます。

藤田:3つの都市伝説が「伝説」に過ぎないことが確認でき、とても安心しました。体裁ではなく、実態で見られていることが良くわかります。やはり、直接審査をしておられる方に聞いてみるものですね。

ではここで、声を大にして、読者の皆さんに伝えたいと思います!

「奨学金事業や研究助成事業を行っていないと、公益認定されない」
「選考委員は置かなければならない」
「支援の対象となる団体が30もない事業は認定されない」
 ・ ・ ・ は、全て、都市伝説です!


新規認定担当は公益法人を「推進する立場」。いわゆる「関所」ではない。

藤田:では、話を戻して。
改めて、公益認定審査における、伊藤さんの立場を教えてください。

伊藤:私は、皆さんが公益認定申請を行うときに、皆さんと最初に向き合う立場です。そして、申請書をチェックし、「この事業を行うと、どのように社会のためになるのか?」をできるだけ明確に言語化するサポートをして、公益認定等委員会へ諮問し、認定が取れるようにと、公益法人を推進する立場です。前例にこだわるつもりはありません。新しい事業や解釈は、新たな社会的意義や新たな世界をもたらしてくれると考えており、歓迎します。

藤田:とても前向きな姿勢に感動します。

伊藤:私が日々心がけていることだからです。行政の立場にいると、「これで大丈夫なのか?」「こういうことが起きたらどうするのか?」という守りの姿勢になりがちです。もちろん、それらも大事なことですが、それで新しい発想に蓋をすることになっては、公益法人を統括する私たちの存在意義はありません。

社会を変えてくれる公益法人がたくさん生まれてほしい

藤田:最後に、伊藤さんが公益法人に期待することを教えてください。

伊藤:私は、正しい組織か?を超えて、社会をより良く変える組織であるか?という点を見ています。
そういう公益法人をたくさん生み出したいと思っています。最近は、若い起業家さんによる、自由な発想を持った公益法人が出てきており、こういう法人が増えると「社会は変わるな」と感じます。



例えば、児童養護施設の子供たちに大学に進学する機会を与える財団があるとします。子どもの時の難しい環境は、その子供たちが親の世代になったときに引き継がれてしまう、すなわち負のループに陥りがちです。これを自分で断ち切るチャンスを提供することは、社会を変えることにつながりますよね。そして、その成果を検証し、より一層、良い事業を作り上げていく努力をする。こういう財団が増えると社会は確実に変わっていくのだろうと思います。

藤田:お話を伺って、公益認定は、「通す/落とす」というプロセスではなく、申請者と行政が対話しながら、社会的価値を形にしていくプロセスであると感じました。
この記事を読んで、公益化に前向きになる財団関係者の方々もおられるのではないでしょうか。
伊藤さん、本日はありがとうございました。



【PA Inc's View:編集後記】
新規の公益認定担当の伊藤さんが、申請書を手に、内閣府のオフィスで頭を悩ませながら、委員や上席の方々に、申請者の代弁者として説得に回る姿が目に浮かびました。そして、それらの公益法人の活動の先に、よりよく社会が変わっていくことを強くイメージされていることを実感しました。
自ら「公益法人を推進する立場」と言っていただけたことは、私たちにとって心強い限りです。
公益認定のプロセスが、「申請する人」vs「ふるい落とす人」ではなく、申請者と認定者が協働して新しい世界を作っていく作業であることを確認できた対談でした。

藤田淑子
シティグループ、UBS、クレディスイスのプライベートバンキング部門/ウェルスマネジメント部門において、個人富裕層の資産運用・管理、商品開発に20年以上従事。その後、山口県にて地域活性化支援、障碍者就労支援施設(B型)のマーケティング支援、子ども食堂・居場所の運営に携わる。また、一般社団法人社会変革推進財団(SIIF)にて、フィランソロピー事業の立ち上げや社会起業家支援を経て、2023年にフィランソロピー・アドバイザーズ株式会社を共同創業。 

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