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フィッシュ厚子さんインタビュー「日本の女性の力を社会へ 非営利セクターの女性リーダー育成を支援」

厚子・東光・フィッシュさん 

フィッシュ・ファミリー財団(本部・米ボストン) 創設者兼理事

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背景と動機

20年ぶりの日本で、女性の「現状」にショック

「日本の女性は、教養のある傍観者。知性や実力があるのに謙虚すぎて行動に移せていない。日本の女性の力をもっと社会に生かしたい」

2006年、フィッシュさんがそんな思いから立ち上げたプログラムが、「Japanese women’s Leadership Initiative」(JWLI)である。1999年に米ボストンで設立したフィッシュ・ファミリー財団の主なプログラムの一つとして、日本社会に良い変革をもたらす女性リーダーの育成を目指している。

JWLIの活動のきっかけとなったのは2004年、米国人の夫ラリーさんと結婚したフィッシュさんが約20年ぶりに帰国したときのことだ。アジアの女性をテーマにしたシンポジウムに参加する中で、多くの参加者から「なぜ日本では女性の地位が低いのか」「どうすれば変わるのか」といった現状を嘆く質問が相次いだ。

フィッシュさんはショックを引きずりながら、米国に戻った。「私が日本を離れてから四半世紀近く経っているのに、女性の地位や立場がほとんど変わっていないことに驚きました。何とかしなくてはと思い、日本の女性たちのためのプログラムを始めることを決意したのです」と振り返る。

アプローチ

社会課題に立ち向かう非営利セクターの女性を育てたい

フィッシュさんはJWLIの活動を通じ、社会に与えたいインパクトを主に2つ挙げている。一つは、日本の女性の精神的なエンパワーメントだ。米国で長年暮らすうちに、日本の女性には意見や活躍をする機会があまりにも少ないことを実感した。

「日本の女性には教養があって能力も高いのに、その力が十分に生かせていない。女性一人ひとりが強い心を持って自分の力を信じ、その可能性を生かす一歩を踏み出してほしい。間違っていることには声にあげ、勇気を持って行動してほしいんです」

もう一つの目標は、NGOやNPOなどの非営利団体で活躍する女性を増やすことだ。財団はJWLIの他に、ボストンを中心とする米国の様々な非営利団体の活動をサポートすることを通じ、シングルマザーなどの貧困家庭や移民の市民権獲得なども支援している。

「支援する人がいなければ、誰も救うことはできませんから、その熱意を現場に届けるサポートすることも私たちの役目だと思っています。だからこそ、社会変革に取り組む非営利団体の女性を増やすことが大事だと考えています。社会の一員として自覚を持ち、自分の可能性や力を生かして、社会課題に立ち向かう女性を育てたい。人口減少や少子化など不安定な世の中だからこそ、女性の力が必要です」

様々な分野で活躍するJWLIの修了生たち

JWLIが実施するプログラムの柱が、非営利団体などで働く女性たちを対象とした2年間の研修である。研修生はまずJWLIの活動拠点ボストンで4週間、資金調達や組織運営などについて学ぶ。米国の起業分野で有名な大学などで女性リーダーを対象とした研修に参加したり、様々な分野で活躍するリーダーたちと交流したりしてリーダーとしての自信を養う。帰国後はメンターの伴走を受けながら、研修中に計画したアクションプランを自身の団体で実行していく。フィッシュさんは、プログラム内容が学術的にも効果があると裏づけできるよう、ボストンの2大学と協力して設計したという。

「参加者にはNPOやNGOで働いている人以外にも、企業のCSR担当者、女性の活躍推進を担当している行政関係者、起業を考えている方もいます。近年は毎年2回、計8人ほどに参加いただいており、滞在費、研修費まで全て私たちの団体で負担するので、研修生の人選には力を入れています

JWLIの活動開始から15年以上が経ち、JWLIをはじめ4つのプログラムからはこれまで100人以上の卒業生が巣立った。いま、その多くが様々な分野で活躍している。東日本大震災直後から   女性の経済的自立の支援や女性リーダーの発掘・育成に取り組んだり、移民支援や多文化共生を推進する株式会社を設立したり、卒業生4人で女性のエンパワーメントを目指す団体を立ち上げたりしたケースもある。

「卒業生同士のコミュニティ形成「JWLIエコシステム」にも意識して取り組んでいます。JWLIエコシステムは安心、安全、信頼ができるコミュニティです。活動のテーマや分野が違っても意見や経験を共有し連携することで社会課題を解決できるケースもあります。卒業生たちにオンラインのワークショップの開催なども、企画してもらっています」

JWLIを含む財団の様々な功績が認められ、フィッシュさんは2012年に外務大臣表彰を授与。翌年には女性のエンパワーメントに貢献したとして米国ホワイトハウスからChampion of Change賞を受賞し、さらに2018年には秋の叙勲で旭日小綬章も受章した。

「思いついたらまずチャレンジ」 スピード感を重視

フィッシュ・ファミリー財団は、どんなメンバーで活動しているのか。「小さな家族財団なので、信頼関係がとても重要」といい、スタッフの公募はせず、フィッシュさんと夫のラリーさんがともに信頼できる人に声をかける形でリクルートしてきた。財団全体では、現在は、家族を含めた理事7人とスタッフ7人の計14人で活動しているという。「JWLIの活動の戦略や計画は私が考えることが多いですが、意思決定においては、スタッフの意見とインプットを大事にしています」と語る。

また、様々なプログラムを展開していく上で、重要視しているのが行動力とスピード感だ。「うまくいかないこともよくあります。でも失敗を恐れずまずはチャレンジ。失敗は進歩の始まりです。想定外が起きても次に改善すればいい、というマインドセットをもってやっています。それが新たな発見や気づきにもつながります」

2021年9月には、移民・難民支援に取り組むJWLIの卒業生と協力して日本に住む移民や難民の大学進学を支援する奨学金事業を始め、すでに今年入学の4人が決まっている。

これまでとこれから

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活動20年、人の役に立てる喜びと出会いが支えに

財団の設立から約20年。全ての活動資金を個人資産からまかないながら、様々な社会課題と向き合ってきた。フィッシュさんの活動の原動力となっているのは、「人の役に立てる喜びと出会い」だという。JWLIの研修を経て巣立っていく女性たちの頼もしい姿、市民権を獲得して抱き合って喜ぶ移民の家族、日本文化を学んで寿司職人になった貧困地域の教え子――。

「いつも新たな出会いや学びがあり、それが人生を豊かなものにしてくれます。そして人の役に立てるというこの喜びは、生きがいになります。自分の人生が意味のあるものだと教えてくれます。この20年間で、私が活動を通じて与えたものよりも、たくさんのものを関わった人たちからもらっています。だから続けられるし、これからも続けていきたいと思えます」

2022年には、JWLIの卒業生たちが一堂に会するハワイサミットを計画中だ。「卒業生の中には、コロナ禍で事業が停止したり、活動規模を縮小したりするなど精神的に参っている人たちもいます。ハワイでサミットを開催して、世界の女性問題に取り組む団体から様々なスピーカーを招き、卒業生たちに新たな学びや刺激を受け取ってもらう機会にしたいと考えています。それをきっかけに、卒業生たちがさらに世界に羽ばたいていってくれればうれしく思います」。

SIIF藤田淑子、小柴優子

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