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ゲストスピーカー:
特定非営利活動法人シングルマザーズシスターフッド 代表理事 吉岡マコ氏
モデレーター:
一般財団法人社会変革推進財団(以降、SIIF)
フィランソロピー・アドバイザー インパクト・オフィサー 小柴 優子
産後ケアの普及に貢献した認定NPO法人マドレボニータ創業者である吉岡マコ氏が、次なるミッションとして取り組むシングルマザー支援。困難な状況に陥りやすいひとり親の女性に、シングルマザーのピアネットワークを通じたセルフケア講座、ICTやマネーリテラシートレーニング等を提供することで、その方が本来持つ力を発揮して、活きいきと暮らしていける社会を目指す。
<団体概要>
団体名 :特定非営利活動法人シングルマザーズシスターフッド
代表理事:吉岡マコ
所在地 :186-0002 東京都国立市東1-15-11 448ビル3F
URL :https://www.singlemomssisterhood.org/
冒頭、シングルマザーを取り巻く社会課題や困難について、いま現場では何が起きているのか、吉岡氏に話をきました。世間ではシングルマザーが抱える課題について、経済的な問題が取り上げられることが多いですが、そのほかにも心身の負荷が大きい問題、チャレンジがしにくい問題があると言います。
ー まず、離婚までに経済的負担が大きいとは、どういうことですか?
通常、別居を経て離婚をする人も多いのですが、別居中はひとり親世帯向けの支援が受けられず、給付金等がもらえません。子どもを保育園に通わせている場合、保育料は世帯収入で決まるためパートナーが稼いでいると比較的高い金額をシングルマザーが負担し続けることになってしまいます。
ー 経済的に厳しくても生活保護が受けにくい問題もあるようですが、これはなぜでしょうか?
私たちが支援する女性で生活保護を受給している人は極わずかです。
受給へのハードルが非常に高く、例え実質的に生活に車が必須の地域に住んでいても、車を持っていると受給要件に当てはまりません。また、申請を通じて両親や兄弟など家族に連絡が届いてしまうことを嫌がる方もいます。
人口の少ない地域だと学生時代の同級生が役所で働いていて、自分の境遇を知られたくないケースもありますね。
ー 苦しい状況にいても周りの人に知られたくないという思いを抱えているのですね。次に、離婚後に養育費がもらえないのはどういうことでしょう?継続的に養育費がもらえる人は24.3%しかいないというデータもあります。
裁判所が用意する養育費算定表(養育費を月々いくら払うのが適切なのか定めたもの)がありますが、必ずしも算定表に定められた金額で合意できるわけではありません。中には、数千円にしか払われず養育するには全く足りないケースもあります。あとは、そもそも元パートナーが働いておらず払えないケースも存在します。
ー 経済的な問題以外にも、シングルマザーは心身の負荷が大きい問題があると言います。そのプレッシャーはどこからきているのでしょうか?
子育ての責任を一手に担うこと、加えて経済的に自立するため仕事と育児を両立しなければならないことが挙げられます。毎日を生きることに精一杯で、自分をケアする時間が取れなかったり、自分が休息をとることに罪悪感を感じている場合も多いですね。自分をいたわることができずに、さらに負荷をかけてしまうというループがあります。
ー 心身ともに疲弊している状態ですね。そのような状況下で、元夫との関係性が引き起こす問題とはどんなことがあるのでしょうか?
目に見える身体的暴力だけでなく、モラハラと呼ばれる精神的暴力を受けてダメージを受けている方も多いです。具体的には、別居した後も無言電話がかかってきたり、職場に嫌がらせの手紙が来てPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症してしまう場合もあります。シングルマザー支援をしていると団体宛にも匿名で嫌がらせのメールや手紙が来ることもあります。
ー シングルマザーの精神的な不調は元パートナーによるものだけでなく「実親など家族との関係」の中からも引き起こされるデータがあります。これは、なぜでしょうか?
いわゆる出戻りという言葉があるように両親や家族が離婚をよく思わず、家族の恥と捉えられる場合があるためです。もちろんサポートをしてくれる親御さんもいますが、関係が良好な場合ばかりでないのが現実です。
ー 最後に、シングルマザーにはチャレンジがしにくい問題があるといいます。世間では、あまり取り上げられない課題だと思いますが、実際どのようなことが問題なのでしょうか?
シングルマザーに対する偏見として、気の毒である、自分がわがままだか離婚することになったんじゃないのか、という世間の目がまだあります。
たとえ本人が前向きに頑張っていこうと思っていても、無防備な状態で心無い言葉をかけられるとパニックに陥ってしまい、自分への信頼も社会への信頼も失ってしまい、何かに挑戦しようという意欲が削られてしまうのです。
次にシングルマザーシスターフッドの吉岡氏より、同団体が取り組むシングルマザー支援について話を聞きました。
私自身が大学院時代にシングルマザーを経験しています。当時出産による心身の変化に衝撃を受け、産後ケア事業を広めるNPO法人マドレボニータを20年間運営してきました。今では息子も社会人となり、産後ケア事業は若手の後継者に運営を託し、新たに始めたのがシングルマザーを支援する事業です。
シングルマザー支援は全国津々浦々の地域に支援団体が存在していますが、一時的な食料支援を実施する団体が多い状況です。
私たちシングルマザーズシスターフッドが取り組みは、日々ストレスにさらされているシングルマザーにセルフケアを通じて自分をいたわってもらい、自立して生活するための知識を身につけ、自身の経験を社会に還元して活き活きとした人生を歩んでもらう、シングルマザーをエンパワメントする包括的な取り組みです。
具体的に実施している支援内容は①シングルマザーのセルフケア講座、②学び講座、③社会貢献の3点を紹介します。
①セルフケア講座 今がよくなる
シングルマザー向けにオンラインでセルフケア講座(30分間・無料)を実施しています。
毎日の生活で精一杯で自分のことを気にかける時間や余裕もない方々に、ストレッチ講座を通じてセルフケアの時間を作っています。また、社会的に孤立しがちなシングルマザー同士が悩みを相談したり横のつながりを作る場にもなっています。
参加者の声:
・セルフケアをしてもいいんだ、シングルマザーなんだから子どものために生きなけれならないと思っていた
・普段はシングルマザーを明かさずに生活しているので自分以外のシングルマザーに初めて出会いました
②学び 未来がよくなる
セルフケア講座は今の状態を改善するものの、生活自体がよくなるわけではありません。そこで、シングルマザーに知識をつけてもらい、これからの生活を向上させるための講座を開催しています。一部の講座は企業スポンサーをいただき実施しています。
例えばマネーリテラシーを学ぶセミナーは重要です。今の生活にどれくらい費用がかかっていて、将来どれくらいの貯蓄が必要かを認識してもらい、もらった給付金を計画的に使えるよう知識をつけてもらいます。
③貢献 社会が良くなる
自分の状態が良くなったら、自分以外に困っている人たちの助けになれる仕組みを作っています。誰かの役に立つということは、自己肯定感を養うことにもつながります。また、シングルマザーを支援する担い手が増えることは、支援の輪が大きくなることにつながります。
<具体的な貢献の形>
・寄付
・ファンドレイジングのキャンペーンスタッフになる
・後輩のメンターになる
・同窓会を企画する
・キャンペーンの執筆者になる
社会への貢献の仕方はそれぞれです。
2022年12月に実施された寄付月間では、当団体への寄付を促進するためシングルマザー当事者の方にエッセイを書いてもらいました。
寄付月間キャンペーン2022 エッセイ:https://note.com/singlemoms/m/ma3972a2e2ac7
シングルマザー=貧しい、かわいそうな存在ではなく、困難があっても前向きに生活しようとしている人たちであることを知ってもらい、支援をしてもらえたらと思います。
2年間の活動を通じて、シングルマザーの自立には3つの壁があることがわかりました。
具体的には、自分に自信がなく、受け身の姿勢であることも多く、心身の健康状態も良くないことです。労働市場では歓迎されず、ゆえに誰にでもできる簡単な仕事(多くは低賃金)しかできず、経済的・精神的にギリギリの生活を余儀なくされます。
これまでシングルマザーに対する就労支援は職業訓練と職業紹介がメインでしたが、団体の活動を通じて就労機会に至るまでの自己認識や土台となる考え方がより重要とわかってきました。
就労支援を有意義なものにするためには、シングルマザー自身が安定した心身を手に入れ、自分は何が強みでこれからどうしていきたいのか認識し、対話を通じて考えを深めることが重要です。当団体で提供するプログラムは、この考えに基づいて行われています。
このような支援をするのは時間がかかると思われがちですが、半年ほどのサポートで目に見える成果をあげています。無職から正社員に採用された方や、有期の契約社員から正社員に登用された事例があります。短期集中で取り組み成果を出すことが、とても大事です。
最後に、団体の活動をさらに広めていくために法人、個人からの寄付を募集しています。
これまで助成金や個人寄付、企業スポンサーによって運営してきましたが、事業規模の拡大や新たな事業への挑戦のため、ご支援をお願いしています。
例えば、シングルマザーのためのアウトリーチをもっと増やして、支援が必要な人へ手を伸ばしたいです。500万円のご寄付があれば、全国の支援センターに団体を紹介するカードを置いたり、広報メンバーを採用できます。
また、「ひとり親けんこう白書」というシングルマザーの心身の健康に関する調査・研究事業を行なっています。ご寄付をいただければ、作成した成果物を自治体や議員に送付し、公共政策や地域の支援につなげてもらえると考えています。
最後にシングルマザーシスターフッドの吉岡氏を囲み、SIIF 藤田、小柴による対談セッションが行われました。
画面左上)シングルマザーズシスターフッド 吉岡マコ氏
画面右上)SIIF 小柴 優子
画面下) SIIF 藤田 淑子
ー 団体紹介ありとうございました。実際に支援されている女性はどのような方々でしょうか?
年齢層は20-50代と幅広いですがが、特に若年女性の支援に注力しています。
境遇としては、予期せぬ妊娠をされた方やパートナーに産むなと言われたけれど、自身は中絶したくなくて産んだ人もいます。30代の方の中には、結婚生活を続けてきたがモラハラから逃げ、母子支援施設で暮らしてきた人などさまざまです。共通点は多くの場合で社会的に孤立していることが挙げられます。
ー 全国にいるシングルマザーのうちどれくらいにリーチできているのでしょうか?
シングルマザーは全国で123万人いると言われています。
そのうちセルフケア講座でつながれたのは約500人ほどです。私たちの活動だけでは、到底全員にはリーチできませんが、全国にはシングルマザー支援を行う団体がたくさんあります。当団体で培ったノウハウを移転するなどしてシングルマザーの自立をエンパワメントするパイオニアになりたいと考えています。
ー 500人ほどのセルフケア参加者の中から、どれくらいの人にポジティブなインパクトを与えられたと見ていますか?
セルフケア講座への参加者約500人のうち1割くらいの方は、自分の境遇を改善するだけでなく、誰かを助けたり社会に貢献できるロールモデルになっています。支援していた人たちが、支援する側に回る循環をもっともっと増やしていきたいです。
ー 話を聞いていると、シングルマザーズシスターフッドでの取り組みは男性のひとり親にもフィットするのではないか、という気もしますが、その辺りはどう考えてますか?
確かに、シングルファザーを支援する団体も存在していますね。ただ数でいうと圧倒的に女性のひとり親が多く、ひとり親における収入格差も女性の方が大きいです。
シングルマザーズシスターフッドへのご寄付はこちら
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