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藤野英人さん「『お金』の使い方、社会や世界とのつながりを意識して。投資や寄付は社会と向き合う行為」

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藤野英人さん「『お金』の使い方、社会や世界とのつながりを意識して。投資や寄付は社会と向き合う行為」

藤野英人(ふじの・ひでと)さん

レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役社長・最高投資責任者

投資も寄付も、「財布からお金が減った」とは考えない。その先にある社会や世界とのつながりをいつも意識しているからだ。「人と社会は切っても切り離せない。投資や寄付によって社会の明るい未来に貢献できれば、自分自身もより良い人生を送ることができる」。藤野英人さんはそうした考えを、自身が運営する投資信託やNPO法人への寄付というかたちで実践してきた。社会貢献につながる投資や寄付への関心が低いという、日本人の「お金」に対する意識を変えることも目標の一つだ。

投資信託で世の中に価値を生む成長企業をサポート

将来は検察官か裁判官になろうと思っていたが、「仮面就職」で臨んで内定を受けた資産運用の世界に飛び込んだ。地方で経営者の熱い思いに触れ、支援した企業が成長して社会で活躍する。「そのダイナミックさに夢中になった」。外資系の会社でも資産運用の仕事に携わった後、2003年にレオス・キャピタルワークス株式会社を創業した。若い資産形成層世代を中心としたより幅広い層の人たちに投資の魅力を知ってもらいたいと、2008年に立ち上げたのが「ひふみ投信」だった。

ひふみ投信のコンセプトは「世の中をゆたかにする企業の成長をサポートする」ことだ。3000を超える上場企業の業績や株価水準、経営、競争力などを丁寧に調査・分析し、投資検討先の企業に対しては時に活動の現場に足を運び、経営者と直接話す。様々な角度から、「社会に貢献できるか」「今後成長するか」を見極めていく。
「世の中に価値を生み出す会社を支えることは、そこで働く人たちを元気づけ、社会を豊かにする。長期的に見ると、私たちの未来をより明るくすることにつながる」。

投資先には「地味で地道な企業」も選んでいる。例えば、医薬品の箱の印刷を専門にしている印刷会社がある。事業内容は決して派手ではないが、その分野ではかなり高いシェアを占め、継続的に成長を記録しているという。薬品箱の印刷の仕方が法律で細かく定められているため、大手企業などが参入したがらないことが成長の秘訣だという。

「高齢化社会で薬を飲む人は増えているから、薬品箱を作る人は欠かせない。北海道から沖縄まで、あまり知られていなくても縁の下の力持ち的な存在として、社会課題に貢献している会社がたくさんある。そうした一つひとつの企業と向き合い、幅広くサポートしていきたい」と意気込む。

様々なNPOに寄付/資金調達アドバイザーとしても活躍

藤野さんは、ひふみ投信を通じて社会貢献を目指す傍ら、様々な社会課題の解決に取り組むNPOに寄付をしている。日本では社会課題解決は行政が担うのが当然だという考えがいまだにあるが、藤野さんは「同じ社会で生きている以上、民間セクターも公益の一端を担うべき」だと考える。

支援しているNPOの活動分野は、教育格差是正、人権、地方創生、森林保護、文化・音楽振興、スポーツなど幅広いが、元々大学時代に人権などの課題に関心があったことからも、特に関心があるのは「格差」や「ジェンダー平等」などの課題だという。

寄付先は「人と人のつながりを大切にしていて、かつ自分がよく理解している分野で活動している団体」の中から選んでおり、現在は約15団体に年間数千万円の寄付をしているという。ひふみ投信で投資先の成長企業をじっくり探すように、寄付する際もその団体の責任者との対話や支援現場の訪問などを通して、できる限り活動に寄り添うことを大切にしている。また、団体の活動に直接関わる機会もあり、世界各地で緊急医療に取り組む「国境なき医師団」では約7年にわたって資金調達のアドバイザーとして活動した。富山県が主催する「とやまワカモノ・サミット」などのビジネスコンテストの審査員も務めており、最近では女子生徒の活躍が目覚ましいという。

「寄付で大事なことは、少額でもいいからすぐに始めること。300円の寄付でも、育児放棄によって親から食べさせてもらえない子の一食分を救える。いつかお金持ちになったら寄付しよう、と考える人が多いが、寄付はお金持ちじゃなくてもできる。投資やビジネスと同じように経験値を貯めて寄付のノウハウを蓄積していくことも重要なので、100円の寄付からでもぜひすぐに始めてほしい」と呼びかける。

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藤野さんが寄付に関心を持ったのは、日本初の林学博士で「日本の公園の父」と呼ばれた本多静六さんがきっかけだった。本多さんは、今でいう積み立て投資とサステナブル投資で得た500億円相当のほとんどを寄付したとして知られる。こうした公共の利益や他者のために尽くす行動が、藤野さんの生き方の土台となったという。近年、ようやく日本でも「インパクト投資」や「ESG投資」などのサステナブル投資が注目を集めており、藤野さんはこうした現状を歓迎する一方で、30年にわたる投資や資産運用の経験から、「普及のペースは遅い」とも感じている。

その原因として挙げるのが、日本人の「現金主義」と「個人主義」だ。これは、寄付にも関連しており、投資と寄付を取り巻く日本の現状は似ているという。「日本人は手元に現金があるかないかを重要視するため、投資や寄付をやりたがらない。日本の寄付額は先進国の中でも特に少ない。一方で、コツコツお金を貯めることは得意。これは、日本が諸外国に比べて金融教育が遅れており、多くの人がお金に対して正しい知識を持っていないから。その結果、自分のお金が社会にどう流れているかを考える機会がなく、自分が社会や世界の一員だという意識が希薄になってしまっている。つまり、『自分の財布は自分のもの』としか考えることができていない」。藤野さんがあえて厳しく指摘するのは、「日本人のお金に対する意識を変えたい」という強い思いがあるからだ。

「人間は何よりも社会的な動物。社会との関係は切っても切り離せない。NPOに1万円寄付しても、自分は社会の一員だという思いがあれば、その1万円はNPOを通じて社会の役に立つことに使ったと考えることができる。財布からお金がなくなって損したとは思わない。投資も寄付も、その先にある社会や世界とつながっていることを意識してほしい。それがより良い社会をつくることにつながる。明るい未来が訪れれば、自分自身もより良い人生を送ることができる」。

投資や寄付は社会と向き合う/新たな寄付の仕組みづくりを

藤野さんにとって、投資や寄付とは「社会と向き合うこと」だという。「何か義務感に駆られて取り組んでいるわけではない。世の中が良くなる。新たな人との出会い、視点、見地が必ず得られる。そのことが自分自身の総合的な力にもなっていく」と話す。

いま新たに計画しているのが、ひふみ投信の中に寄付を積み立てる仕組みをつくること。現在ひふみ投信に毎月積み立てられている100億円の100分の1でも、賛同してくれた顧客から寄付として集めることができないか。そのお金を社会課題の解決に取り組んでいるNPOやNGOに投資していく。

「ひふみの中に『自分以外のためにお金に使う』という提案があっても良いと考えている。賛同をいただいて広く集めたお金を社会に還元していきたい。フィランソロピーという形で社会に貢献していくような仕組みができれば、ひふみを生かして、3〜5年で国内有数規模の中間支援の寄付団体ができるかもしれない」。そんな夢を描いている。

藤野英人さん

野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)、ジャーディン・フレミング(現:JPモルガン・アセット・マネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2003年レオス・キャピタルワークス創業。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネージャーとして豊富なキャリアを持つ。投資信託「ひふみ」シリーズ最高投資責任者。 投資啓発活動にも注力する。東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授。一般社団法人投資信託協会理事。

 

ひふみ投信について

ひふみ投信は「資産形成層」にあたる若い世代の参画に力を入れている投資信託。投資信託の顧客と言えば、一般的には60歳以上の「お金持ち」がほとんどとされるが、ひふみ投信の場合は75%が60歳以下。富裕層でなくても活用しやすいよう、月千円からの少額つみたて投資ができる。顧客数は推計123万人にのぼり、毎月100億円が積み立てられ、会社全体で1兆1千億円を運用している(2022年3月末時点)。こうした実績が評価され、ひふみ投信は「格付投資情報センター(R&I)」が選ぶ「R&Iファンド大賞」投資信託 10 年/国内株式コア部門で優秀ファンド賞を4年連続で受賞している。

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