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フィランソロピーアドバイザリー事業をおこなう社会変革推進財団(以下、SIIF)は9月28日、カルチャーデザインファーム KESIKI INC.(以下、KESIKI)と「社会課題をデザインで伝える」というテーマで対談を行いました。
本対談に先がけて、SIIFとKESIKIでは3つの社会課題「子どもの貧困」「シングルマザー」「発達障害」について、当事者を取り巻く課題の構造を分析するとともに、これらの課題を支援したいと考えるフィランソロピストに向けて社会課題の理解を促進する「社会課題マップ」を制作しました。
本記事では、社会課題の専門家であるSIIFとデザインのエキスパートであるKESIKIが一連のプロジェクトを通じて気づいた学びや、これから社会課題へ取り組みたい個人や企業に向けての思いを語った内容をお送りします。
対談参加者(写真左より):
KESIKI Partner, Strategy/Innovation 井上 裕太様
Project Lead, Design Research/Narrative 水口 万里様
SIIF フィランソロピー・アドバイザー インパクト・オフィサー 小柴 優子
事業本部長代理 フィランソロピー・アドバイザー 藤田 淑子
SIIF:まずは「社会課題をデザインで伝える」プロジェクトの取り組みに協力をいただき、ありがとうございました。アウトプットは後ほど詳しくお話しするとして、改めてKESIKIについて聞かせてください。
KESIKI:当社は、2019年に「デザイン思考」の実践者や編集者、企業再生の専門家など多様なメンバーが集まって共同創業したカルチャーデザインファームです。「やさしさがめぐる経済をデザインする」というミッションのもと、デザインアプローチによるカルチャー変革や新規事業づくり、中小企業の事業承継、教育、コンテンツ制作などを行なっています。
今回「社会課題をデザインで伝える」プロジェクトを進めようと考えたきっかけは何だったのでしょうか?
SIIF:私たちはフィランソロピー・アドバイザーとして、社会貢献活動を行いたいフィランソロピストの方々に日々向き合っています。社会にとっていいことをしたいと思っても、誰が、どう困っていて、どんなアプローチが必要かという点まで具体的に落とし込めている人は少ないのが現状です。
そのため、興味のある社会課題について何が原因で、誰に、どのような影響があるのか全体像を理解できる「社会課題マップ」がほしいと思っていました。フィランソロピストに社会課題を正しく理解してもらうほか、自分がどんな問題に興味関心があったのか気づくきっかけにも使えると思っています。
KESIKI:制作にあたって「共感」を軸に支援を訴えかけるよりも「社会課題の全体像の理解」を主軸におきたい、という話がありましたね。
SIIF:社会課題に取り組む上では共感も大事ですが、共感だけで人々が動くのであれば世の中はよくなってるはずなんですよ。私たちはこの活動を通じて、今よりお金も、人も、動かしたいという思いが根底にあるんです。
例えば、これまでの人生で寄付や支援活動をしたことがない人は少ないと思います。しかし、その行動が単発で終わってしまい、継続していない。継続できていない理由は、自分の支援がどのように社会に影響を与えているか、見えないことに起因すると思います。
自身が取り組む社会課題はどのような構造で起こっていて、自分の行動はどう社会を変える可能性があるのか、その人なりの使命感を引き出したいと思い、まずは社会課題の全体像を理解できることを重要視しました。
KESIKI:今回制作した社会課題マップは「子どもの貧困」「シングルマザー」「発達障害」の3点でした。それぞれご紹介します。
「子供の貧困」に関する問題を以下の3つの問題に整理しました。
それぞれがループ状に影響しあい、世代を超えて負の連鎖を引き起こしていることが分かります。
「シングルマザー」が抱える社会課題を、以下の3つの観点から整理しました。
シングルマザーという立場にいる人は社会的、経済的、さらには精神的にも負荷の高い状態であることが分かります。
「発達障害」の社会課題マップは、影響を受ける人や組織という観点から課題を整理しました。
当事者以外にも社会課題を取り巻く関係者やそれぞれが直面する課題が存在することが分かります。
SIIF:社会課題マップの中では「原因」「結果」「影響」について、重要度や深刻度といった脚色をつけずに、同じ熱量で掲載してもらいました。これは、まずは起こっていることをフラットに見つめるため、こだわったところです。
KESIKI:社会課題マップをみれば、社会課題の全体像が理解しやすいですよね。一方で、テレビのドキュメンタリーのように個別の事象にフォーカスして理解を深めるやり方もあります。
両者の視点を持つことは重要です。一度全体像を把握していれば個別の事象を見たときに「今は全体のうちの、この部分の話をしているんだな」と、より理解を深めることができます。俯瞰した視点を持つことは、いわば社会課題を見るためのレンズになるとも言えますね。
SIIF:制作にあたって、非常に分かりやすく課題を整理してくださいました。どのように考えて、制作されたのですか?
KESIKI:複雑な社会課題を「視覚化」するというゴールに向けて社内でアイディアを出しました。初めて社会課題を考える人の立場に立って、理解に努めたのも良かったかもしれません。例えば「発達障害」とひとことで言っても困っているのは本人、家族、周囲と支援が必要な切り口は複数あることが分かりました。
KESIKI:社会課題マップを作成する中で、驚いたこともあります。整理した問題ごとにそれぞれの課題に対する支援機関やNPOの調査すると、多くの支援団体が存在する問題がある一方、支援の手が存在していないように見える問題があったのです。課題を俯瞰してみることで、どの部分に支援が足りないのか可視化することにも繋がるという気づきがありました。
SIIF:よく言われるのですが、社会課題として顕在化し広く認識されると、行政が動くので、補助金がつきます。世論を含めて「社会課題である」というコンセンサスが取れている証拠です。
しかし、私たちの活動は民間のお金を活用するものです。一定の課題として認識されていない問題にこそ、フィランソロピー活動による民間のお金を活用した支援を行う意義があると考えています。
SIIF:プロジェクトを通じて、終始「顧客からどう見えるか」という視点でデザインをしてもらいました。私たちのような財団には、残念ながらデザインスキルを持った人間が多くありません。顧客とのコミュニケーションツールとしてのデザインは、人に何かを伝えるうえで重要なスキルであると感じました。
KESIKI:目の前のタスクに追われていると、受け取り手の立場で考えることが後回しにされがちですよね。でもデザインでは、まさにこの受け取り手の視点で常に物事を考えるんです。
私たちのようなデザイン業界にいる人間が、今後もっと社会課題の領域に入っていくことも必要だと思います。例えば、社会貢献活動をデザイン観点から支援する財団を作るというのもアイディアとしてあるかもしれません。
SIIF:ここまで話した社会課題ですが、私たちは暗い問題ではなく「新しい未来」を作る話だと思っているんです。
例えば、引きこもりの青年を支援するNPO団体があるのですが、支援者は名だたる世界的IT企業です。不登校というのは、今のやり方に合わないだけで、現状とは違う未来を見ている子どもなんです。いつでも、新しいことをやる人が、新しい未来を作れるんです。
KESIKI:そうですね。新しい取り組みのため社会の制度を変えるのには時間がかかりますが、SIIFがフィランソロピー・アドバイザーとして接するフィランソロピストは、自らの意思で社会にインパクトを起こせる可能性を秘めていますよね。
SIIF:そうなんです。SIIFでは思い立ったらすぐに行動できるよう、個人や社会を応援していきたいです。将来的には、課題解決に取り組む人々であふれる社会になり、SIIFをハブにして関係者や情報が有機的につながる未来を作りたいと思っています。
価値観が多様化する現代では、国会議員が全ての課題を吸い上げて解決することは困難です。今は、個人でも行動し、発信できる時代。政治や行政に頼りっぱなしではなく、自分たちが暮らしやすい社会を自分たちで作れる時代だと思います。
KESIKI:自分のアクションが世間を変えられる意識を持つことは大事ですよね。そもそも、自分たちが暮らしやすい社会を作ることって、責任でもありますが本来は楽しいことなはずです。社会課題に取り組むことが生き方の一部になることは、人生の喜びにもつながると思いました。
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