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シンガポール Asia Philanthropy Circleへのインタビュー
ー アジアのフィランソロピストの学びと協働を促進するー
Asia Philanthropy Circle(以下、APC)は2015年にシンガポールに設立されたチャリティー団体でアジアのフィランソロピストが協働することでより大きなインパクトを生み出すことを目的としています。アジアの13マーケットから参加する56人のフィランソロピストに対してメンバーシップ・サービスを展開し、メンバー間の学び合いやコミュニティづくりのためのワークショップやイベントを開催するほか、メンバー間のコラボラティブ・プロジェクトの企画や資金調達をサポートしています。今回は、APCでChief Operating Officerを務めるStacey Choe氏に現在の活動や今後の展望についてインタビューを行いました。
最高執行責任者/ Chief Operating Officer Stacey Choe氏
アジア・フィランソロピー・サークルのディレクターを5年間務めた後、2021年7月にCOOに就任し、アジアでの有力なフィランソロピストと連携し戦略的フィランソロピーを推進。これまでにアジア・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワークのメンバーシップ・サービス・ディレクターや中国におけるイタリアのコンサルティング会社のマーケティング・ディレクターを務めたほか、インテル社やシンガポール政府での勤務経験も持つ。
APCはメンバーになるための条件としてフィランソロピーに積極的であることを掲げています。そのため基本的にはフィランソロピーの実績がある方にメンバーになってもらっています。ファミリー財団や自身が経営する会社の財団を通じてフィランソロピーを実践する人もいれば、財団を持たずにファミリー・オフィスを通じて実践する人もいます。たまに、フィランソロピーを始めるにあたりメンバーになって学びたいという人もいるので、その場合はイベントなどに参加してもらい、積極性や野心を持っているかなどを見ています。
メンバーには関心に応じてAPCが実施しているイベントやワークショップに参加してもらい、フィランソロピーの実践に活かしてもらっています。もし家族全体でフィランソロピーの新しい戦略を考えたいなど特定のニーズがある場合には、適切なコンサルタントやサービスにつなぐようにしています。
多様です。先祖代々慈善活動に取り組んできた第7世代のような人もいれば、ファンドマネージャーで資産を築いた第1世代の人もいます。平均年齢は50歳ぐらいだと思いますが、30代から70代まで多世代にわたるメンバーがいます。全体的には自分と異なる属性や立場のメンバーから出てくる視点や意見を楽しめるメンバーが多いと思います。
現在は隔週で少なくとも何かしらのイベントを開催しています。また、シンガポール円卓会議やマレーシア円卓会議などもオンラインで開催しています。パンデミック前は対面のイベントでしたが、現在はほとんどをオンラインに切り替えています。これら円卓会議の企画はAPCが担いますが、扱うトピックについてはメンバーを巻き込んで議論しながら決めています。
ほかに用意している素晴らしいプログラムは年1回のラーニング・ジャーニーです。現地の優れたプロジェクトを見学して学ぶだけでなく、現地のフィランソロピストと交流する機会もつくっています。私がいつも言っているのは、ラーニング・ジャーニーの価値は現場を見ることだけでなく、共に時間を過ごすことで、お互いの視点から物事を見る機会を得られるということです。
また数日間にわたる年次のメンバー・ギャザリングも開催しています。カンファレンスではなく、ギャザリングであることがポイントで、お互いを知り合うこと、食事をしながら関係性をつくっていくこと、お互いに学び合うことに重点を置いています。直近のギャザリングでは参加者から「私はネットワーキングが嫌いだったけど、ギャザリングの雰囲気は通常のネットワーキングとは全く異なるもので、ファミリーのように感じたのよ。どうやったの?」と聞かれたこともあります。このように、私たちは伝えるメッセージの種類やアプローチの方法をカンファレンスとは全く別のものにしているのです。
やはり創業者なくしてAPCは存在し得なかったと思います。APCの創業者は二人いるのですが、Laurence Lien(現CEO)のフィランソロピーに向き合う謙虚さや協働的な姿勢はメンバーに多大な影響を与えていると思います。彼を通じてAPCに参加してくれるメンバーもとても多いです。
あとは先ほども話したとおりイベントの仕様が大事です。私たちは親密でパーソナルな雰囲気でお互いを知ってもらうため、メンバーの自宅でディナーやランチをホストしてもらったりします。メンバーに主体性を発揮してもらうため「ディナーを主催しませんか?ランチはどうですか?」と働きかけているのです。
フィランソロピーを学ぶ最も良い方法は、正しく実践することだと感じています。そのためAPCではイベントや共有する機会を通じてメンバー間でのコラボレーションを促進するようにしています。
例えば最近のイベントでは、タイにおいて「パンデミックで失った学習機会をどう取り戻すのか」というテーマで話していたときに、インスピレーションを得たメンバーの一人から「Social Impact Guarantee(成果連動型支払スキームの一種)について政府と検討したい」という声があがりました。このような場合、APCはコンセプトをつくったり、実行パートナーを探したり、資金調達をしたり、集まる機会を企画、調整したり、レポーティングをするなど、プロジェクトを前進させるため様々な役割を担います。しかし、プロジェクトの実行自体はパートナー団体に任せるようにしています。
Credit: Asia Philanthropy Circle
APCではメンバー向けに共同で出資する機会(Co-funding opportunities)を積極的に作っています。例えばメンバーから、「過去数年間サポートしてきた組織がとても素晴らしく、今後、活動規模を拡大していくために誰か共同で出資してくれる人はいないか」というような相談が持ちかけられたとします。それを受けてAPCではメンバーや支援団体から事業について話してもらうイベントを企画したり、場合によってはトピックの性質から関心がありそうな特定のメンバーにお声がけをしたりしています。
私たちは戦略的フィランソロピーに関するリソースをウェブサイトやイベントを通じて、より広いコミュニティに提供しています。例えば、中国やミャンマーの寄付に関するレポートや、政府と民間資金の効果的な協働方法に関するレポートなど他にも様々なランドスケープ調査を行っています。またAPCはアジア各国の政府と連携して、インパクトが大きいフィランソロピーを実現するための政策提言活動もしています。その活動の一つがASEAN Philanthropy Dialogueです。セクターを超えた理解を促し協力体制を構築することを目的にアジアの政府関係者とフィランソロピストが集い対話する機会を企画しました。
Credit: Asia Philanthropy Circle
また、最近ではより深いエンゲージメントを得るため、インドや中国のフィランソロピー・セクターに対して働きかけを始めています。インドと中国のソーシャル・セクターの規模はとてつもなく大きく、現地には学ぶべき素晴らしいモデルや支援すべき草の根組織がたくさんあるのです。具体的な活動としてはインドのカウンターパートと戦略的パートナーシップを結び、APCが今まで蓄積してきたリソースや学びや事例などをオープンに共有することで、彼らがフィランソロピー・ネットワークを構築していく手助けをする予定です。中国でも同じようなことをしていきたいと考えています。
しかし実際には課題も多いのが現状です。APCは戦略的フィランソロピーを標榜していますが、現地のステークホルダーがフィランソロピー・ジャーニーを始めたばかりであれば、そこから協働していく必要性があります。このようなプロセスをとおしてお互いの学び合いを促進しているのです。
シンガポールでは様々な取組がされています。たとえばここ数年では、シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore)やウェルス・マネジメント・インスティチュートが銀行員に対するフィランソロピー分野のトレーニングを支援しています。
シンガポールは、これまでに様々な組織と協力しながら、金融セクターを作り上げてきました。今やシンガポールにおけるファミリー・オフィスの数は過去最大で、最近では香港のファミリー・オフィスがシンガポールに拠点を移したり、米国やヨーロッパのファミリー・オフィスが支店を開設するような動きもあります。このような多様なプレーヤーが増えてくるなかで、クリーン・エネルギーやインパクト投資、イノバティブファイナンスへの注目が集まっており、その流れでフィランソロピーへの資金流入も徐々に増えてくるのではないかと予測しています。
注)ウェルス・マネジメント・インスティチュートはシンガポール政府の外郭団体で、金融サービスに従事する専門家に対してウェルスマネジメントやアセットマネジメントのトレーニングを提供する機関
私たちはメンバーを増やすために意図的に取り組んでいます。前述したインドや中国のカウンターパートと戦略的パートナーシップを結んでいるのもこのような理由があるのです。エコシステムを耕して拡大していくためにもメンバーシップの拡大は重要です。またほかの動きとしては、国境を超えたフィランソロピーにアクセスしやすくするためのプラットフォームの設立を考えています。特にシンガポール国外のドナーに対して、その地域の良い寄付先に関する情報を提供したいと考えています。
あとは、アジアのフィランソロピーが2050年にどのようになっているのか、未来の予測シナリオを考えるためのリサーチを行っています。将来の異なる社会像からフィランソロピーの役割を提案し、それに基づいて国ごとの戦略を立案します。先に述べたとおり、国の状況や文化は様々であるため、シンガポールでの取組がベトナムやタイなど他の国にそのまま展開できないことが分かってきています。そこで私たちは、彼らがフィランソロピーを理解し最も効果的に取り組むために必要な手助けをしたいと思っているのです。
企画・監修:SIIF 藤田淑子、小柴優子
インタビュー・執筆:株式会社キラリプラネット 細田幸恵
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