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コミュニティナーシングで、地域の健康と幸せづくりに挑戦する【第2回オンライン・サロン開催報告】

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ゲストスピーカー:
Community Nurse Company 株式会社        代表取締役
一般社団法人 Community Nurse Laboratory  代表理事 矢田明子氏

モデレーター:
SIIF 新しいフィランソロピー事業チーム/フィランソロピー・アドバイザー 小柴優子

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矢田氏が代表を務めるCommunity Nurse Company株式会社(=以下CNC)は島根県雲南市人口約3.7万人の町が発祥のベンチャー企業。日本の社会保障制度では手の届きにくい予防医療の分野において、コミュニティーナースという「地域の人の身近な存在として『元気なうちから』心身の健康に寄り添うあり方」を日本全国に広める活動をしている。病気の早期発見・医療施設への橋渡しだけでなく、地域の人の暮らしに寄り添うやり方に共感の輪が広がり、今では開催するセミナーの卒業生は1,000人を超えている。コミュニティナースの取り組みを日本全国のインフラとするべく、提携パートナーとの交渉や新事業の立ち上げに邁進している。

名称  :Community Nurse Company 株式会社
設立  :2017年3月
代表者 :矢田 明子
所在地 :島根県雲南市木次町里方422番地
URL  :https://community-nurse.jp/

事業内容:
・コミュニティナースの育成に関する支援
・コミュニティナースの普及に関する支援
・医師、看護師、療法士、介護士、その他の医療・福祉人材の育成支援、教育カリキュラム開発、研修会の運営及びコンサルタント業務
・コミュニティケア、地域医療、在宅医療に関する情報の提供、啓蒙、教育支援、講演会等の企画運営
・コミュニティケア、健康の保持増進のための調査、研究、支援
・地域振興活動に関する企画運営、支援

イベント記録

I.「予防医療」×「地域活性化」に潜む社会課題の構造

SIIF小柴より、今回のテーマである以下のポイントに潜む社会課題の構造を解説しました。
・「予防医療」 ~不健康寿命のながさ~
・「地域活性化」  ~中山間地域の人口衰退~

"人とのつながり" が健康寿命を延ばす

日本の平均寿命は世界でもトップクラスに長い一方、心身ともに健康でいられる健康寿命とのギャップは大きく、不健康寿命(平均寿命ー健康寿命)は男女平均10.5年というデータがあります。予防医療の分野では、心身ともに健康でいられる期間を長くすることが大きなテーマです。

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「健康」とは体の健康をイメージされると思いますが、ここでの「健康」は体の健康だけでなく心の健康(心理的要素)、他者との関わり(社会的要素)も等しく重要な要素と考えられています。

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さらにデータをみていくと、他者との交流する頻度が高い人の方が要介護・認知症になりにくいというデータや、個人で運動をする人よりもチームや組織に属して運動する人の方が要介護になる割合が低いというデータが示されています。これらのデータからも健康には”人とのつながり”が重要な役割を果たしていると分析しました。

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労働人口の流入促進が地域活性化のカギ

一方で人口減少が進む日本では、特に中山間地域において人口流出による地域の衰退、自治体存続の危機がおこっています。村や町の活気を取り戻すためには、労働人口の移住を促進することで、地域経済を活性化させ、人々の交流を活発にし社会的にも暮らしやすい町にすることが重要と分析しました。

レバレッジポイントへ取り組むことが社会課題の解決につながる

社会課題の解決に取り組む上では、課題の深刻化を招いていると思われる「レバレッジポイント」へ取り組むことが大切です。
不健康である期間が長いこと、中山間地域の衰退という社会課題におけるレバレッジポイントは以下の2点と分析しています。
 ・人と関わる機会を増やすこと
 ・人口衰退地域に労働人口の移住を促進すること

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本日お話いただくCommunity Nurse Company 株式会社(以下、CNC)さんも、このレバレッジポイントにアプローチしている団体です。

II. CNCが取り組む社会課題と「コミュニティナース」とは?

つづいて、CNC代表の矢田氏より同企業が取り組む社会課題と、ソリューションである「コミュニティーナース」について、これまでの取り組みとこれからの展望についてお話がありました。

代表矢田氏が取り組む社会課題とは?

CNCは島根県雲南市にある人口約3.7万人の小さな町で生まれたベンチャー企業です。
約10年前から地域の予防医療の分野に取り組んでいます。

きっかけは、14年前に父をガンで亡くしたことでした。
町の饅頭屋を営んでいた父は、健康に対する知識・感度が低く、疲れやすい、食欲がでないという病気のサインを見逃しました。いざ、病院にかかった時にはガンが全身に転移している状態で、あっという間に亡くなってしまったんですね。

当時の私は医療の知識もなく、なぜ未然に防げなかったのかという後悔がありました。病気になって課題が顕在化すれば病院に行きますが、それ以前の体の不調に対するケアは空白地帯ですよね。政府の社会保障制度は、病気になった人のための制度なのです。

そこで、一念発起して看護学校に通い”コミュニティナーシング” という考え方に出会いました。そこで驚いたのは、日本の医師や看護師などの医療従事者の98%は病院(医療施設)にいるという事実でした。

CNCが目指すのは『心と身体の健康と安心』

CNCでは「コミュニティーナース」を日本中で社会インフラとして実装する取り組みをしています。

コミュニティナースというのは「地域の人の暮らしの身近な存在として、毎日の嬉しいや楽しい、心やからだの健康と安心」をまちの人と一緒に作っていく取り組み、コンセプトのことです。医療施設ではなく、暮らしの身近な場所で活動することがポイントです。

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看護学生時代に、地元の人がよく訪れる鮮魚店で店頭に立たせてもらい、実験をはじめました。魚を買いに来る地域住民の方々とのコミュニケーションのなかで、いきなり「健康診断行ってますか?」とお話ししても打ち解けてもらえないんですよね。まずは、その日のおすすめのお魚の話をしたり、皆さんの暮らしに寄り添ってお話しする中で体調変化を気遣ったり、顔色が悪くないかなど観察することが大事だと学びました。

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驚くことに、少したつと全国から年間250人もの医療従事者(主に看護師)が視察に来るまでになったんです。みなさん、病気は未然に防ぐことが重要という思いに共感してくださり、この取り組みを事業化する方法についても興味をお持ちでした。

CNCの活動内容、人材育成から社会実装まで

●コミュニティナースのノウハウを提供するセミナー・研修
そこで自身が経験したノウハウを盛り込んで、コミュニティーナースを育成する講座を始めました。講座ではコミュニティナースになりたい人に向けて、基礎的な知識から実践方法を学べる全3種類のセミナーを提供しています。

講座の受講に医療資格は必要ではなく、地域の暮らしのなかで住民の心身の健康を願っている方であればどなたでも受講できます。

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実践講座やステップアップ講座は、知識のインプットだけでなく、具体的な実践のイメージができたり、仲間と協働し人々を巻き込んで活動したい人向けのセミナーです。

コミュニティーナース講座の修了生は、北海道から沖縄まで1,000人以上にも のぼります(2022年9月時点)。

●提携パートナーを通じてコミュニティナースを社会実装
セミナーを通じて多くのコミュニティナースを育成できました。けれども、コミュニティナースの活動が事業として成り立たないと、志があっても持続的な活動にならないんです。

そこで、CNCとして提携パートナーと交渉しコミュニティナースを社会に実装する取り組みを始めました。

例えば、JAとタイアップし奈良県山辺郡山添村にある村唯一のガソリンスタンドのスタッフの枠にコミュニティナースを置いてもらっています。村のガソリンスタンドは一つしかないので、住民の方は定期的に来られるんです。高齢者の方の中には、病院に行きたがらない人もいます。そんな方もガソリンスタンドのお茶会でお話しできるので、必要に応じて保健師に引き合わせるなどもできます。

●コミュニティナースを派遣する「ナスくる」
コミュニティナースを育成し、提携パートナーを通じて社会に実装する取り組みをしてきましたが、その実践をますます加速させるため、個人や法人、自治体に向けて「ナスくる」(ナースがくる)というコミュニティーナースのある暮らしを促進する事業を立ち上げました。

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訪問介護とは違って「元気なうちから」心身の健康を気にかけてあげる存在がコミュニティナースです。遠方に住んでいる子供が親孝行のために契約をしてくださったり、企業が社員の家族向けに契約してくださったりしています。今後、このナスくるの事業を日本全国に展開していきたいと考え、皆様にご寄付の支援をお願いしています。

看護業界・政府組織への社会的インパクト

業界の中では大きなニュースが一つあります。CNCのこれまでの取り組みを体系化し、看護学生が使う教科書に”コミュニティーナーシング”の考え方を促進する章を執筆しました。2026年から年間約7万人の看護学生がこの教科書を使って卒業することになります。コミュニティナースの概念を学んだ学生が社会に出てくるまでに、CNCが活動の受け皿を作らなくてはいけないという思いです。

さらに、北海道更別村SUPER VILLAGE構想(※)にコミュニティーナース3名を実装しています。デジタル社会でこそ、コミュニティナースのようなアナログな関係をベースにした支援が必要になるという事例です。

※デジタル技術の活用により20年30年後の豊かで持続可能な村の実現を目指す取り組み、2022年6月デジタル田園都市国家構想推進交付金 デジタル実装タイプに採択

Ⅲ. CNC矢田氏 × SIIF 小柴による対談セッション

最後に、社会保障制度の抱える問題点や今後の事業計画について話を聞きました。
写真左)CNC 矢田氏 写真右)SIIF 小柴

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SIIF小柴:
医療・介護分野においては社会保障制度があると思いますが、予防医療において制度的な課題はあるのでしょうか?

CNC矢田氏:
そうですね、社会保障制度では予防医療にも予算が割かれていますが、ほとんどの場合で自治体等が65才以上の方向けに「高齢者サロン」を開催しています。どうしても ”お年寄りが行く場所” というイメージになってしまうのか、人口に対する参加率は10%未満と言われています。

もっと多くの人に手を差し伸べるには予算が必要ですが、政府の有識者会議のメンバーとして議論の流れを見る限りは予算拡張は難しそうな状況です。

行政と連携するには、PFS(=Pay for Success)と呼ばれる「成果連動型民間委託契約方式(※行政課題の解決に対応した成果指標を設定し、成果指標値の改善状況に連動して委託費等を支払う方式)」の制度を活用した方がスピーディーに物事を進められる印象です。

SIIF小柴:
国の制度ではカバーしきれない部分が大きいですね。制度から漏れてしまっている方々を支援するには、何が必要だと考えていますか?

CNC矢田氏:
一番必要なのは ”おせっかいの精神” と言いますか、病気になってから対処するのではなく、こちらから働きかけていく姿勢が必要だと思います。

コミュニティナースの取り組みも、初めの数ヶ月は挨拶だけでもいいんです。ゆっくり時間をかけて信頼関係を構築することで、いろんなことを相談してもらえる存在になれます。

SIIF小柴:
これまでの取り組みを振り返り、コミュニティーナースが受け入れられやすい地域の特徴はありますか?

CNC矢田氏:
人口が減少し消滅危機のある自治体さんでは前向きに取り組んでいただけることが多いです。地域コミュニティを守る為、住民が一丸となって存続に向けて知恵を絞っている、そのような背景もありそうです
また、面白いことにコミュニティナースが入ることで移住者の促進にもなっています。コミュニティナースの取り組みを長期的に視察に来る人や、地域が気に入ってしまいそのまま定住するコミュニティナースもいます。

SIIF小柴:
労働人口を増やすというレバレッジポイントへアプローチすることで、地域活性化にもポジティブな影響が出ているんですね。
それでは、最後に今後の事業計画や資金計画について教えてください。

CNC矢田:
今後、コミュニティナースを通じて利用者のWell-Beingを一緒につくる「ナスくる」の取り組みに力を入れる計画です。そこで一緒に経過を見届けるパートナー様を募集しています。

具体的には、今後2年間の活動資金として総額5,000万円のご寄付をお願いしています。
いただいた活動資金は、主にナスくるの人材採用、システム開発必要として使わせていただく計画です。

将来的に、ナスくるが事業モデルを確立し、更なる飛躍を見据えられる段階になった際にはインパクト投資という形で新株発行での資金調達も見据えています。

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Community Nurse Company 株式会社

同社へのご寄付は企業ホームページからお問い合わせいただくか、SIIFへご相談ください。

当記事は、国内外の社会的活動についての情報提供を目的としたものです。ご寄付、ご投資の際は、ご自身のご判断で行っていただきますようお願いいたします。ご不明な点がございましたらいつでもご相談ください。

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次回のオンライン・サロンのご案内です。

◇第3回目 10/20(木) 17:00-18:30 「社会課題解決」x「出資」
「誰もが生まれてきてよかったと思える世界を、社会課題を解決する企業への出資で実現する」
ゲストスピーカー:株式会社taliki /代表取締役CEO 中村多伽氏

社会課題解決を目指す企業に出資するファンドを設立・運営。
アクションの強要ではなく、ステークホルダーが経済的に成長する仕組みや、消費者が「素敵だから購入する」ようなサービスを提供することで課題解決を目指す企業を支援。女性GPとして国内最年少。

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