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【連載】覆面税理士シリーズ Vol.1「公益法人制度改革(前編)」

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覆面税理士シリーズ

個人の方が、資産を社会貢献活動に活かそうとする場合、税務の知識は欠かせません。
「覆面税理士シリーズ」は、「篤志家の方に後悔しない社会貢献活動を行ってもらいたい」と考える、財団法人の税務に詳しい税理士さん達に、自由に意見を発信してもらうため「覆面」でお話しいただくシリーズです。

「公益法人」を使いやすく!公益法人制度改革

第1回目は、現在、見直しの議論が進んでいる公益法人制度改革についてです。

富裕層が、社会貢献活動を行うために利用する器として財団法人*があります。特に、国から公共性の高い法人として認可を受けた公益法人については、税務上のメリットがあるため、富裕層に活用されることが多いのですが、運営の煩雑さや活動の制限に対する不満がよく言われており、「公益財団は面倒なので、一般財団でいい」そんなご意見を耳にすることも多いのが実情です。今回は、その公益法人制度を改革しようという国の動きについて、お話を伺いました。

前編では、個人が財団を設立する際の税務の基礎知識について、後編では、公益法人制度の改革のポイント等についてご紹介します。

*公益法人には、社団法人と財団法人がありますが、ここでは富裕層に活用の多い財団法人にフォーカスしてお話をします。

インタビュアー

PA inc. 代表取締役 藤田 淑子(ふじた よしこ)

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財団の基礎知識

1.はじめに

藤田:まず初めに、財団法人の制度について、これまでの流れを教えてください。

覆面税理士:はい。平成20年から公益法人制度改革が実施され、財団法人の体系が、一般(一般財団法人)と公益(公益財団法人)に分かれました。

一般財団法人が登記のみで設立できるようになったため設立数が増えた一方で、租税回避に使われるケースも、残念ながら増えてしまったというのが現状です。

国税庁としては、公益のために正しく財団を使う方々には積極的な活用をしてほしいという一方で、租税回避で使う方々に対しては、厳しくしていかなければならないというのが、これまでの流れです。

2.個人が財団を設立する際の、税務における3つの留意点

藤田:個人が自分で設立した財団法人に寄付・遺贈をする場合、税務の観点から注意しなければならない点について教えてください。

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覆面税理士:個人と法人について、以下の①~③の3つの点に留意が必要です。
まず、個人についてです。

①所得税
個人が財産を寄付した場合には、寄付時に時価で売ったものとみなされます。現金を寄附する場合は別ですが、株式などを寄附すると「みなし譲渡課税」*となります。特に、上場企業創業者の方は、自社株式の簿価が市場価格に比べて低い場合が多いので注意が必要です。

*みなし譲渡課税とは:企業や個人が無償もしくは著しく低い価額で資産を譲渡した時、時価で譲渡したとみなして税額の計算を行う、税制上の規定

ただし、国税庁長官の承認を受けることで非課税になる場合があります(措置法40条)。この承認を適用するには、ガバナンスを強化することが求められます。大切な点なので、後ほどしっかりお伝えします。

次に、財団法人についてです。

②法人税
寄付を受け取った財団法人において、受贈益に対する法人税が課税されます。ただし、「収益事業課税」**の場合は、原則、対象外となります。

**「収益事業課税」とは:公益法人等の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については、各事業年度の所得に対する法人税を課さないこととされていること(法人税法7)

③相続税
寄附により、寄附者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果になると認められる場合には、財団法人に対して贈与税が課税されます(相続税法66条4項)。

財団を個人からの寄附で活用する場合は、①②③を満たした上で寄附をしないと、余計な税金がかかってしまうので、ちゃんと①②③をケアしたうえで財産を移す必要があります。

3.個人が財団を設立する際の、ガバナンスの留意点

藤田:個人が財団法人を設立する場合、税務メリットのある形を選ぶと思いますが、その際はガバナンスを強化しなければならないとのこと。その点について教えてください。

覆面税理士:先程の①②③を満たすためには、財団を(1)「公益法人【+措置法40条等の要件を充足】*」 か、(2)「非営利型一般法人(非分配型)**【+措置法40条等の要件を充足】」 にしないとなりません。

*措置法40条:租税特別措置法 第40条。国等に対して財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税。国又は地方公共団体に対し財産の贈与又は遺贈があった場合には、所得税法第59条 第1項第1号の規定の適用については、当該財産の贈与又は遺贈がなかったものとみなすというもの(出典:税務研究会)
**非営利型一般法人:一般財団法人には「非営利型」と「普通型」があります。この区別は、税法上の一定の要件を満たしているかかそうでないかによって区別されています。「非営利型」の場合、収益事業から生じた所得のみが課税対象になり、収益事業以外の会費付金に対しては課税されません。一方、「普通型」の場合は、株式会社と同様、全ての所得が課税対象となります。これはあくまでも税法上の違いだけであって、いずれの類型も「非営利法人」であることに変わりはありません。(出典:一般社団法人設立サービス.NET)

(1)公益法人【+措置法40条等の要件を充足】は、公益認定を受けたうえで、親族や同一団体からの役員を1/3以下にとどめる、などの対応です。公益認定を受けると、行政の監督下に置かれることになります。

(2)「非営利型一般法人(非分配型)【+措置法40条等の要件を充足】は、公益認定を受けない方法です。その場合は、役員の数を通常の倍にする事(通常の一般財団における最低人数:理事3名・評議員3名・監事1名⇒理事6名・評議員6名・監事2名)等が求められます。この場合、行政の監督は受けませんが、多くの役員の監視の下に置かれることになり運営上の要件が厳しくなります。

藤田:財団をつくる方が必ず直面する、「公益財団か?」「一般財団(非分配型)か?」の議論ですね。

覆面税理士:そうです。公益認定を取ると役員の数は少なくて済む一方で、行政の監督をうけなければならない。非営利型一般法人だと、行政の監督は受けなくてもいいが、役員の数を増やすなど、厳しい運営をしなければならない。この選択が、大変悩ましいところです。

多くの方が、(1)の公益認定を受ける方法を選択しましたが、収支相償要件(フロー面)***、遊休財産要件(ストック面)****が厳しく、身動きがとりにくいということで、(1)を敬遠する動きが起きています。そこで、国は、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」を発足させ、公益的活動の自由な展開・伸長の制約を緩和させようとしています。ただし、この制度改革で、どこまで行政監督が緩和され、公益法人がどれだけその活動をしやすくなるのかは、実際の指導ベースでの実態を見てみないと何とも言えないところです。

***収支相償原則(フロー規律)とは:公益目的事業の実施に要する適正な費用を賄う額を超える収入を得てはならない、という原則。公益目的事業にかかる収入と適正な費用を比較し、公益目的事業に充てられるべき財源の最大限の活用を促すための規律

****遊休財産規制(ストック規律)とは:使途の定まっていない遊休財産を、公益目的事業費1年相当分を超えて保有することができないという規制。安定した法人運営を継続するための余裕財産を確保しつつ、その死蔵を避けるための規律。

藤田:せっかく教えていただいたのですが、【措置法40条等】の要件を満たすのはハードルが高く、【措置法40条等】の適用を受けない一般財団法人のままで活動される方も増えていますよね。大方の税務メリットはあきらめて、自由な社会貢献を目指す方です。

覆面税理士:…そうなんです。せっかく制度があるのにうまく活用されていないというのはもったいないですよね。もっと制度を活用しながら、社会貢献活動を積極的に行っていただきたい。そんな思いもあり、続く後編では、公益法人制度改革の具体的な注目点をご案内したいと思います。

(後編に続く)

PA inc. 藤田淑子

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