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フィランソロピー・アドバイザーズ株式会社(以下PA inc.)は、日本の個人や財団が、資金や経験等を社会貢献活動に活かすことを支援する取り組みを、2023年5月より本格始動させます。プレスリリース
共同創業者である小柴優子、藤田淑子は、これまで、日本において未踏の領域であったフィランソロピーアドバイザリー事業を展開するにあたり、社会変革推進財団(Social Innovation and Investment Foundation、以下SIIF)にて2020年より、調査研究やフィランソロピーアドバイザリー業務のモデルづくりに従事してきました。
そこで本記事では、PA inc. の創業にあたって小柴、藤田で対談の機会を持ちました。創業のきっかけや、どんな取り組みを行っているか、2人の描く今後のビジョンについて、この機会に改めてお話しします。
小柴優子(右)
日本GE、米国コロンビア大学 国際公共政策大学院卒業。大学院時代、Rockeller Philanthropy Advisorsにてインターン、ジョージ・ソロスのOpen Society Foundations にて勤務。帰国後、公益財団法人日本財団、SIIFにて社会起業家への出資への出資、インパクト測定、ベンチャー・フィランソロピー・ファンドの運営を行う。2020年、日本人で初めて米国フィランソロピー・アドバイザー資格CAP©を取得。
藤田淑子(左)
米・スイスの金融機関のプライベートバンキング部門において、個人富裕層の資産運用・管理、商品開発に20年以上携わる。その後、山口県において、地域活性化支援、障害者就労支援施設(B型)のマーケティング支援、子ども食堂・居場所の運営に携わる。NPO法人全国こども食堂支援センターむすびえの設立、認定取得を経験。2019年より、SIIFにて、新しいフィランソロピー事業の立ち上げ、社会起業家支援、インパクト測定&マネジメント、財団マネジメントに従事。
藤田:小柴さんと初めて会ったのは、2019年、当時それぞれが所属していた財団が合併して新生SIIFが誕生するときだから、もう4年前。当時は、若くて発言に力があってカッコいい人がいるなぁと、憧れていました。
小柴:私もその時のことを覚えてますよ。もともとプライベートバンキングでの仕事に興味を持っていたところ、藤田さんが業界で長く活躍されていたと聞いて、お話が聞きたいと思ってランチに誘ったんです。
藤田:その時のランチは覚えてないんだけど(笑)、「一緒に富裕層向けのフィランソロピーを盛り上げましょう!」と言われたことを鮮明に覚えてる。その後、一緒に海外出張に行く機会があって、ニューヨークで、最も歴史があり世界最大規模のフィランソロピー活動支援を行うRockefeller Philanthropy Advisors、世界中のフィランソロピストのコミュニティであるSynergos、ファミリーの次世代メンバーとフィランソロピーを共に考える支援をする21/64やドナー・アドバイズド・ファンドというアメリカの手軽な寄付スキームを活用した寄付プラットフォームを運営するNational Philanthropy Trustなど、フィランソロピーに関連する計16団体を一気に回って情報収集をしたんだよね。私の前職の外資系金融機関では、スイスなどの本社で富裕層向けにフィランソロピーアドバイザリー機能があることは知っていたけど、ニューヨークで面会した組織は、それぞれビジョンやアプローチが微妙に異なっていて、組織の多様さに圧倒されて...。
小柴:ニューヨークで見たことや聞いたことは、日本で社会貢献活動をしたい富裕層も求めるものだと思って調査レポート(「新しいフィランソロピーを発展させるエコシステムに関する調査- 富裕層の意志ある資産を社会に生かす -」)を書きましたね。そこから、SIIFの中で、より戦略的で、寄付から投資まで多様な資金提供を使って、社会的インパクトを重視する「新しいフィランソロピー」プロジェクトを立ち上げたのが、私たちの活動の始まりでした。
藤田:これまで所属していたSIIFの社会における役割は、社会課題に対してアプローチする企業、NPO、自治体、研究機関などの様々なステークホルダーを取り巻くエコシステムを作ることがミッションだったけれど、私は100%資金提供者に寄り添った支援をしたいと思うようになったんです。彼らにもっと納得し満足のいく形で社会貢献のために資金を投じてもらいたい。その結果、社会をよくしようとする総量が増えたらいいなと。そして、そのためにどんなサポートや環境が必要かを追求したいという気持ちを止められなくなりました。そこには、私が長年プライベートバンキングで富裕層向けの仕事をしていたこともあったと思う。
小柴:私は、大学院時代のニューヨークでインターンをしていた時からフィランソロピーアドバイザーという仕事に憧れとやりがいを感じていて日本でもやりたいと思っていて。あとは、リサーチを重ねる中で、日本にはフィランソロピー活動におけるエコシステムがないけれど、フィランソロピー活動をしたい人、もしくはしている人には必要なものだと感じてきました。自分の興味関心と社会で必要とされていることが合致したので、絶対にチャレンジしたいと思いました。
藤田:PA inc.では、「個人が、『よりよい社会づくり』と『自身の価値観の実現』を行いやすい環境をつくる。」というミッションを掲げ、4つの事業を展開しています。
1)フィランソロピー・アドバイザリー
社会貢献活動の企画、実践、運営、事業評価等のアドバイザリー。
2)フィランソロピー・スターターサポート
これから社会貢献活動を始める方の、財団法人等の設立事務・組織運営代行。
3)フィランソロピー・人材育成/紹介
フィランソロピー・アドバイザーの育成/紹介。
4)調査研究
国内外のフィランソロピーやインパクト投資の動向に関する情報収集、分析、発信。
小柴:私が最近取り組んでいるプロジェクトは、地域活性化に関する財団の運営支援です。とある地域で、地域特有の課題へアプローチしている団体やプロジェクトに助成をおこなっている財団の、バックオフィス業務から中長期的な戦略を考えるフロント業務まで、支援者の方に伴走してサポートさせてもらっています。
藤田:私たちの活動は、アドバイスや寄付の仲介をして終わりではなく、中長期的にプロジェクトの伴走をして課題解決に向かうことがほとんど。私が取り組んでいる案件は、起業家の方が新設する財団の設立・運営をお任せしてもらっているものです。ダイバーシティ&インクルージョンの観点から、とても社会的意義のある活動をされているプロジェクトなので、近日公表されるリリースを楽しみにしてほしいです。
小柴:資金提供者が実現したい社会に向けて完全テーラーメードでご提案をしています。フィランソロピー活動というと寄付が一番に思い浮かぶと思いますが、私たちは寄付に限らずインパクト投資や事業活動など最適な方法を一緒に考えています。
藤田:あとは資金提供をされる方の、プライベート、事業を含めた資産全体を把握していることも大切だと思っていて。どの資産をフィランソロピー活動に振りむけるのが良いかとか、大株主が保有する株式は売却可能な期間が限られていることとか...そのあたりはプライベートバンキングでの経験を生かして情報提供できます。
小柴:国内だけでなく海外のネットワークを使って、情報の提供をできることも私たちならではの強みです。今回、PA inc. 設立にあたって米国で最大級のフィランソロピー・アドバイザリー・ファームであるRockefeller Philanthropy Advisors(RPA)のVice PresidentであるWalter Sweetが当社のアドバイザーに就任しました。2002年のRPAの設立から20年以上の知見や事例、最新の調査研究を、クライアントの皆様の要望に沿って個別にご提供、ご紹介できるようになりました。
小柴:今後の取り組みとして力をいれたいと思っていることは、効果的な資金提供の方法を支援すること、リサーチの強化です。
ジョージ・ソロスが設立したOpen Society Foundations 財団で働いていたときの元上司がフィランソロピー活動の「評価(Monitoring, Evaluation and Learning)」の専門家でした。Learningと言われるように、プロジェクトの評価から「学び」を得ることを大切にしていました。資金提供者も、フィランソロピー活動によって課題解決が効果的、効率的に行えているか学びを得て、次につなげられるような活動支援がしたいと考えています。
藤田:本当にその通りで、お金を効果的に使うには仕組みが大切。単にお金を渡すだけだと、支援先の自助努力がかえって促進されなくなってしまうことも残念ながらよく聞く話です。支援先の方々と共に、取り組む課題や活動に対する理解を深めながら、中長期的に支援ができる状態を作りたいですね。
小柴:2点目のリサーチ機能の強化は、まず私たちが関心のある課題の発信は積極的にしていきたいなと思ってます。今は、日本の難民問題とそのソリューションについてNPO法人Welgeeさんと共同でリサーチペーパーをまとめています。その他に、財団の効果的な事業展開やガバナンスなど、欧米の先行事例を研究するのはもちろんのこと、アジアの取り組みや、日本に最適化するにはどうすべきかという研究をしたいと思ってます。
藤田:私はこれからの活動を通じて、何かおかしいよね、変だよねって思った人がすぐにトライアンドエラーを繰り返せる社会をつくりたいと思ってます。議論ばかり重ねて何も進まないよりも、即実験して、結果を見て、そこから学んで軌道修正できれば、そんなに困った社会にはならないと思うんです。環境問題も、ジェンダー問題も、障害者の社会参画も、私の子どものころに比べて大きく「変わったぞ!」という感覚がなく、若い方々に申し訳ない思いです。フィランソロピー活動をされたい資金提供者の方とは、そんな社会を一緒に実現したいと思っています。
小柴:私たちの活動は、フィランソロピーに関するアドバイスや寄付の仲介をするだけでなく、社会課題に対して継続的にアプローチしたい人たちを支援することがほとんどです。こういう社会を作りたいというビジョンはあるけれど、何から始めたら良いか分からない、頼れる人や組織がなくて困ってるという方と、ぜひお話したいなと思っています。
藤田:ご縁のある資金提供者の方には、まず、ご自身の資産内容とフィランソロピー活動に最適な組織やフォーメーションを選ぶお手伝いをします。そして、フィランソロピー活動を長く続けてもらって、世の中の変化を感じてもらいたいです。ご自身の資金が効果的に使われることで変化が起こることは、すごく楽しいことですし、何事も楽しくないと続かないですよね。私たちは、楽しい活動の支援ができたらいいなと思ってます。私たちも、このミッションを思いっきり楽しみます!
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なおSIIFとは、今後も、社会課題解決に向けた資金の流れをつくりために連携してまいります。PA inc. 創設にあたり、理事2名と小柴、藤田での4者対談を行った記事もあわせてご覧ください。
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