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今年も年末が近づいてきました。
個人の方で、その年の所得に合わせて、寄付を検討される方も多いのではないでしょうか。
寄付には様々な税の優遇措置があり、節税をしながら社会貢献をする絶好の機会でもあります。この記事では、初めて寄付を検討する方が知っておきたい基礎知識から、具体的な寄付先の選び方、税制優遇措置の仕組みまで、PA Inc.メンバーで税理士の河合匠と代表 藤田淑子がわかりやすく解説します。
税理士 河合匠
代表 藤田淑子
目次
1.寄附金控除とは? 仕組みと基本的なメリット
2. 寄附金控除の対象者、寄付先の種類と選び方のポイント
3. 高所得者にとって寄付がもたらす節税効果
4.ふるさと納税の仕組みとメリット
5. 寄付をする前に知っておきたい注意点
6. 寄附金控除を受けるための手続き
7. 税負担が軽くなる仕組みを利用して、寄付をしてみよう!
藤田:そもそも寄附金控除とは、どんな仕組みなのですか?
河合:寄附金控除は、特定の団体への寄付額に応じて所得税や住民税が軽減される制度です。寄付した額の一部が税金から差し引かれるので、社会貢献をしながら税負担を軽くすることができます。
所得税については、所得控除と税額控除の2つの方法から、より有利な方を選ぶことができます。住民税については、自治体が指定した一定の寄付金について税額控除が適用されます。今回は、所得税の制度について解説します。
藤田:年末になると、「今年は株式を売却して利益が出たので、寄付をしたい。どこに寄付をしようかな」と悩まれている方のご相談が増えます。このような方は、寄附金控除の対象になりそうですね。
河合:まさにその通りです。寄附金控除は特に高所得者の方々にとって有効な仕組みの一つです。不動産や株式の譲渡益で一時的に所得が増加した方や、給与所得などによって、毎年継続的に高所得の方にとっては、大きな節税効果が期待できます。
藤田:寄附金控除の対象となる寄付先にはどのようなものがありますか。
河合:主な対象は以下の通りです。
1. 国や地方公共団体(都道府県・市区町村)
2. 公益財団法人・公益社団法人
3. 学校法人
4. 認定NPO法人
5. 社会福祉法人
6. 政党・政治資金団体
藤田: かなり選択肢が豊富ですね。
地域を応援する場合には地方公共団体、特定のテーマに沿って支援をしたい場合は認定NPO法人や公益法人、社会福祉法人。地域の学校や出身校を応援することもできますし、政党・政治資金団体を支えることもできますね。
ここで、認定NPO法人(認定特定非営利法人)について、詳しく教えていただけますか。
河合:「認定NPO法人制度」は、税制上の優遇措置を設けて、NPO法人への寄付を促すことでNPO法人の活動を支援するための制度です。
認定NPO法人は、事務所がある都道府県や市町村などから、一定の要件を満たしていると「認定」されたNPO団体です。広く市民からの支援を受けていること、運営組織や経理が適切であること、情報公開を適切に行っていることなどが要件となります。つまり、より客観的な基準で見て、高い公益性をもっていると判定された法人であるといえますね。
藤田:NPO法人(特定非営利法人)とは、どう違うのでしょうか。
河合:税制優遇の点でいうと、NPO法人は、寄付者への税制優遇はありません。 NPO法人に寄付をするときは、「認定」なのかどうかを確認してみてください。内閣府のサイトから認定NPO法人を検索することができます。ただし、その数は少なく、日本にあるNPO法人49,642団体のうち、認定NPO法人は1,290団体(全体の2.6%)となっています (**出典:内閣府NPOホームページ 2024年9月末現在の数値)。
似た話でいうと、財団法人や社団法人にも同様のことが言えます。公益財団法人、公益社団法人への寄付は、寄附金控除の対象となりますが、一般財団法人や一般社団法人は対象となりません。
藤田:寄附金控除を受けると、どの程度、税が優遇されるのですか。
河合:先ほどお話ししたとおり、寄附金控除には主に2つの種類があります。1つは所得控除、もう1つは税額控除*です。ケースにもよりますが、所得が数千万円の水準であれば所得控除の方が有利になることが多いので、今回は、高所得者の方が利用される可能性の高い所得控除に絞ってご紹介しますね。
*税額控除の場合は、寄付金の合計額から2,000円を引いた額の一定割合が税額から直接控除されます。税額控除にも上限があり、所得税額25%相当こちらは対象が限られており、政党や認定NPO法人への寄付などが対象となります。
所得控除は、寄付金の合計額から2,000円を引いた額が所得から控除されます。例えば、100,000円の寄付をした場合、98,000円が所得控除の対象となります。所得控除には上限があり、一般的に所得の40%相当が上限となります。
例えば1億円の所得があった方の所得税は単純に計算すると
所得税額:100,000,000円 ×税率45%(仮)=45,000,000円
この方が、寄附金控除の対象となる寄付を4千万円した場合の所得税は
所得から控除される額:40,000,000-2,000=39,998,000
所得税額:(100,000,000-39,998,000) ×税率45%(仮)=27,000,900円
所得税額は45,000,000円⇒27,000,900円と、約1,800万円少なくなることになります。
実際には、個々のケースにおいて、正確な計算が必要となりますので、ご自身の税額については税理士さんにご相談ください。
藤田:近年人気の高いふるさと納税も寄附金控除の対象となるんですよね。
河合:はい。ふるさと納税は、都道府県や市区町村への寄付となる特殊な形の寄附金控除です。寄附金控除の対象となるだけでなく、寄付先の地域の特産品などを返礼品として受け取ることのできる点が特徴です。
ふるさと納税の場合、寄付額から2,000円を引いた全額が原則として控除の対象となります。ただし、ふるさと納税にも控除額の上限があり ます。例えば、本人の給与年収5,000万円で、扶養配偶者・16歳未満の子ども2人の4人家族で、他の条件を無視した場合のふるさと納税の控除上限額の目安は約200万円になります。
計算方法が複雑なので詳細は割愛しますが、高所得者ほど この上限額が高くなるため、より多くの寄付が可能となり、結果として多くの返礼品を受け取ることができます。上限額の目安は、ふるさと納税の各ポータルサイトにシミュレーターがありますので、そちらでご確認ください。
藤田: いろいろと税の優遇制度があることがわかりました。寄付をするときには、どんなことに気をつけるといいのでしょうか。
河合:ふるさと納税の注意点としては、返礼品に対する課税の問題があります。
実はふるさと納税の返礼品は、「一時所得」として課税の対象になるのです。「一時所得」には、年間50万円の非課税枠があるため、通常は気にしなくても問題にはならないのですが、多額のふるさと納税をする可能性がある高所得者の場合は注意が必要です。
総務省が「寄付金額に対する返礼品の金額の割合は3割以下」と定めているため、返礼品の金額を寄付金額の30%とした場合、「一時所得」の非課税枠50万円を超える寄付金額は、約167万円(50万円÷30%)となります。つまり、ふるさと納税による年間寄付金額が167万円を超える場合は一時所得として申告が必要となる可能性があります。
実際には、個々のケースにおいて、正確な計算が必要となりますので、申告が必要かどうかは税務署・税理士・寄付をした自治体などにご相談ください。
藤田:うっかり非課税枠を超えてしまわないようにしないといけませんね 。他に気をつけた方が良いことはありますか。
河合:認定NPO法人への寄付の場合は、お伝えしたとおり、「認定」の確認を忘れて、「認定NPO法人」だと思って「NPO法人」に寄付していた!ということがないようにすることでしょうか。でも、認定を受けていなくても、素晴らしい活動をしているNPO法人はたくさんあります。最終的には、ご自身が支援したい団体かどうかを優先して選んでいただくことをお勧めします。
河合:寄附金控除は、適切に活用することで税負担を軽減しながら社会貢献できる制度です。このような制度を活用して、日ごろから関心のある社会的テーマの支援を始められてはいかがでしょうか。
藤田:そうですね。「寄付をすることで、社会的なテーマや社会課題がぐっと身近になった」という声をたくさん伺います。新聞などのメディアで社会的なテーマを目にしているだけのときと比べて、実際に活動団体へ寄付をした後は、社会課題や社会の構造に対する理解、現場の支援の様子などに対する理解が、格段に深まるようです。また、寄付をきっかけに、活動団体や団体が支援している方々との交流も生まれ、社会貢献における満足度も大きく高まるようです。みなさまが、満足のいく寄付を実現されることを応援しています。
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