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新型コロナウイルスに取り組む「新しいフィランソロピー」2 ーコロナ禍におけるインパクト投資(後編)ー

このシリーズでは、米国におけるフィランソロピーの担い手たちが、未曽有のパンデミックにどのように対応したのか、見ていきます。

この記事の前編はこちら

まとめ
□休眠資産を活用する英国のビッグ・ソサエティ・キャピタルは、ロックダウン後短期間で多くの社会的企業やNPOに対して緊急資金支援を行った。
□米国インパクト・アセットは新型コロナウィルス対応ファンドを設立してソーシャル・ベンチャーへの投資を開始した。

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第2回は、コロナ禍におけるインパクト投資の取り組みを紹介します。

インパクト投資は、社会・環境リターンと共に経済リターンも追求します。このため、新型コロナウィルス感染拡大という危機的状況ではリスク回避を優先せざるを得ません。他方、新型コロナウィルス感染拡大に伴う経済の停滞は、投資先団体の資金繰りを悪化させ、つなぎ資金の需要を高めます。さらに、コロナに対して新たなソリューションを提供できるソーシャル・ベンチャーは、急速に拡大するニーズに対応するための資金を必要とするでしょう。インパクト投資家は、こうしたリスク回避と資金需要の拡大への対応をどうバランスするかという問題に直面しました。

新型コロナ・ウィルスに取り組む新しいフィランソロピー(2)前編で紹介したR3以外にも、世界各国でインパクト投資を通じた様々な取り組みが進められています。

2020年3月から全土でロックダウンが開始された英国では、多くの社会的企業やNPOが活動停止や縮小を余儀なくされ、収入が減少しました。財政基盤が弱い社会的企業やNPOは、こうした収入減への対応ができておらず、早急に資金供給の必要が生じました。これを受け、英国で休眠預金資金活用を担うビッグ・ソサエティ・キャピタルは、4月に緊急対策を発表しました。内容は、(1)既存の投融資先に対する、つなぎ資金確保のための追加ローン提供、返済利子免除、返済期間繰り延べなどの措置と、(2)新型コロナウィルス感染拡大に対応して支援活動を強化している社会的企業やNPOに対する、2500万ポンドの存続・復興ローン基金の設立を通じた資金提供の2点です。ビッグ・ソサエティ・キャピタルは、ロックダウン後の3ヶ月間で、294の社会的企業やNPOに対して総額1億200万ポンドの投資を行い、500以上の団体に利子・配当の繰り延べ措置を実施したとのことです。

米国では、ImpactAssetsが新型コロナウィルス対応ファンドを設立してソーシャル・ベンチャーへの投資を開始しました。ImpactAssetsはドナー・アドバイズド・ファンド(※)として寄付を受け入れると共に、寄付金運用先にインパクト投資の機会を提供するユニークな活動を行っている組織です。

(※ドナー・アドバイズド・ファンドとは、専門の資産管理業者・金融機関等が設立した公益財団に個人が寄付口座を開設し、そこに寄付した資金を自身が指定した NPO などに寄付する仕組みである。通常、公益財団に寄付した場合、寄付者は寄付後にその資金をどのNPOに助成するかを指定することはできない。しかし、ドナー・アドバイズド・ファンドの場合、一定の制約はあるが、寄付者は寄付口座の資金の運用先や運用期間を指定することができ、財団から助成するのと同じ感覚で指定したNPO に寄付することができるメリットがある。)

その投資先の一つ、R-ZeroはUV-Cと呼ばれる100〜288mm波長の紫外線を使って、病院と同レベルの空間除菌を実現する企業です。新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、病院だけでなく、オフィス、公共施設、学校、スポーツ施設などの空間除菌が緊急の課題となりました。R-Zeroへの投資は、まさに新たな課題解決に向けたスケールアップ資金提供の好事例と言えるでしょう。

ImpactAssetsは、2020年度上半期に、新型コロナウィルス感染拡大分野に2億1400万ドルの資金を投じました。内訳は、投資が1億7000万ドル、助成が4400万ドルです。これらはすべて、個人富裕層を中心としたImpactAssetsへの寄付金が原資です。寄付者は、個人として財団やインパクト投資ファンドを設立する代わりに、ImpactAssestsに寄付口座を開設することで、ImpactAssetsが提供する新型コロナウィルスに取り組む様々な研究者や事業者の情報を活用して自分たちが納得できる事業者に資金を投じています。

新型コロナウィルス感染拡大という危機に際して、個人富裕層がImpactAssetsというプラットフォームを活用して課題解決に取り組む。ここに、新しいフィランソロピーの成功モデルの一つがあります。

多摩大学社会的投資研究所 小林立明
SIIF藤田淑子、小柴優子

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