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【連載】新しいフィランソロピーのコミュニティ vol.5 ( 米国 Women Moving Millions)

米国 Women Moving Millionsへのインタビュー
ー 女性による100万ドルの慈善活動を推進し、ジェンダー平等を実現する ー

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本記事のポイント

■Women Moving Millionsは世界におけるジェンダー平等を目指し、女性による100万ドル以上のフィランソロピーを促進するコミュニティである。

■コミュニティに参加することで、フィランソロピーに関する知識やネットワークの機会を得られるほか、リーダーシップ・プログラムに参加して社会変革に必要なリーダーシップを開発することができる。

■小さなグループでの活動や、メンバー間そして運営チームとの間で1対1の関係性を育むこと、そしてジェンダー平等に関する価値観や世界観を共有することを通じて、コミュニティへの帰属意識を高めている。

■中長期的には、メンバー数の増加、リーダーシップ・プログラムの改良、ジェンダー平等を実現するためのリソースギャップの解消に注力していく。
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Women Moving Millions(以下、WMM)は世界のジェンダー平等を目指す非営利のグローバル・コミュニティで、女子や女性を支援する団体に100万ドル以上の資金支援を誓約したフィランソロピストから構成されます。現在、16カ国から360名以上のメンバーが所属しています。女性が自らの生活やコミュニティを変える主体になるため、WMMはメンバーに対して教育プログラムや同志とつながるコミュニティを提供し、よりインパクトを与えられるフィランソロピストになることをサポートしています。今回はWMMにてSenior Director of Partnerships & External Affairsを務めるJessica Lee氏に フィランソロピスト・コミュニティの運営について伺いました。

Senior Director of Partnerships & External Affairs Jessica Lee氏

Women Moving Millionsの資金調達および渉外の責任者。10年以上にわたり社会起業家とともに、革新的な社会変革のためのリソース確保、事業の構造化や実施に携わってきた。これまでに非営利の金融機関におけるフィランソロピー推進、メディア業界におけるマーケティングや営業のほか、食品・飲食業界におけるコンサルティング、プログラムマネジメント、消費者マーケティングなどにも携わってきた。

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世界におけるジェンダー平等を目指し、女性によるフィランソロピーを促進する

まずはWMMの成り立ちから教えていただけますか。

WMMの成り立ちについてはウェブサイトにも記載しているのですが、2007年にHelen LaKelly Hunt氏や Swanee Hunt氏など情熱的な女性たちの小さなグループによって始められたキャンペーンがきっかけになっています。当時、彼女達も姉妹でフィランソロピーを実践しながら、女性の寄付の「底上げ」を目的に、米国内の女性に関する基金に最低100万ドルを寄付するよう呼びかけるという自他共に認めるチャンレンジ(キャンペーン)を打ち出しました。その呼びかけはグローバルなコレクティブに発展し、最終的には102 名の女性が趣旨に賛同し、総額1億8100万ドルの資金が41の女性ファンドに寄付され成功裡に終わりました。このムーブメントをキャンペーンで終わらせてしまうのではなく次につなげていこうと立ち上がったのがWMMです。現在までにメンバーによって累計約10億ドルの資金がジェンダー平等に関する取組にコミットされていますが、まだやるべきことは残っています。

現在はどのような方がWMMに参加しているのでしょうか。

私たちのコミュニティは96%が女性で、年齢層は20代後半から80代の女性まで、多くののメンバーが45~70代です。世界16カ国にメンバーがいますが、アメリカとカナダからの参加が多くを占めています。メンバーの共通関心はジェンダー平等ですが、特筆すべきは、メンバーの46%が国内のみならず国外のジェンダーの取組に資金を提供している点です。あるリサーチによるとアメリカのフィランソロピストのうち国外のNGOなどに投資をしているのは全体の5%であると言われていますが、それと比較すると私たちのコミュニティはグローバルなマインドセットを持っていると言えます。メンバーの多くがジェンダー平等を世界的な課題だと捉えて取り組む必要性を感じているのだと思います。

参加時には女子や女性を支援する団体やイニシアティブへの寄付を誓約してもらいます。現在、個人(Individual)、次世代(Next-Gen)、ファミリーという三種類のメンバーシップを用意しており、コミットすべき額や会費が異なります。例えば、個人メンバーシップでは10年以内に100万ドル以上の資金提供を約束してもらいますが、次世代メンバーシップでは、5年以内に25万ドル以上の寄付を行うことが条件となります。ファミリーメンバーシップは、ファミリー財団など家族で共有されたリソースがプールしてあるという条件のもと、100万ドルのコミットメントのもとに参加することができます。

メンバーはどのような動機からWMMに参加されているのでしょうか。

大別して二つに分けられると思います。一つめはフィランソロピーの経験が浅いため学習意欲が高く、フィランソロピーに関してアドバイスをくれるメンターを探している層です。フィランソロピーに対してコミットする準備はできているものの、お金がどのように使われるのか知りたい、今までの経験を次に活かしたい、どうやって助成先を選んだらいいのか教えてほしい等について理解を深めたいという方々です。もう一方はフィランソロピーについて知識が十分にありご自身で戦略なども考えられている方です。情報交換やアドバイスをお互いにしながら一緒に活動する仲間を求めています。特に女性は、コミュニティに属しながらフィランソロピーを実践することで、より寛大な寄付をする傾向があるのです。

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学びとつながり、そしてリーダーシップの強化を目指すプログラム

次にWMMの活動について教えていただけますか。

多くの組織がそうであったように、パンデミックによりWMMでも活動を対面からオンラインに移行してきました。オンラインの利点は多くありつつも、コミュニティづくりにおいて強い絆を築くことは非常に難しいと感じており、現在は目的に応じて対面とオンラインを混ぜて運営しています。

WMMのプログラムはコミュニティ形成と学習という二つの目的に沿って設計されています。コミュニティ形成のためにはディナーや朝食のような対面イベントを開催しています。一方の学習プログラムはオンラインで行うことが多く、ジェンダーや気候変動などの知識を深めるためのウェビナーシリーズのほか、企業や他団体など運営パートナーと協力して行う単発のセッションなどもあります。ほかにはワーキンググループを設けて月1回ほど共通の関心を持つメンバーが集まり課題解決について話し合う機会も設けています。

またWMMではメンバーが変革を目指すフェミニスト運動においてリーダーシップ能力を発揮していくためにPhilanthropic Leadership Programという数日間のリトリートを提供しています。新しくWMMに参加したメンバーには1年以内に修了してもらうように働きかけています。彼女達がフィランソロピーを実践しながら、より大胆に自身の発言力と影響力を発揮して、ジェンダー平等を実現するためのインパクトを生み出せるようになることを目指しています。最近のメンバーアンケートによると、このプログラムに一緒に参加したメンバーには特に強い絆があることも分かってきました。

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価値観を共有しながら、お互いに支え、寄り添うコミュニティ

コミュニティづくりにおいて運営チームはどのような役割を担っていますか。

私たちは以上のような機会を提供することで、エンゲージメントが高い100以上のメンバーの間で小さな集団をいくつも作ることで1対1の関係を築いてもらうようにサポートしています。WMMの運営は小さなチームで担っているので、例えばメンバーから「この地域で寄付を始めてみたい」という問い合わせがあった時には、その方法を教えるのではなく、その経験をもつメンバーにつなげるようにしているのです。

メンバーの関心やニーズはどのように拾っているのでしょうか。

基本的には入会時にオンボーディングコールを実施して入会した動機やバックグラウンドなどを聞いています。その後は定期的なイベントやプログラム、関心にあった機会を紹介して参加してもらうようにしています。このようなコミュニケーションは定期的なメールやニュースレターを通じて行なっているほか、定期的に各メンバーと1対1で個人的に連絡を取るようにしています。メンバーは全身全霊でフィランソロピー活動に取り組んでいるため、私たちは彼らの生活で何がおこっているのか(例えば孫を迎えるなど!)を理解して彼らの活動に寄り添えるように心がけています。そうすることで、多忙な生活を送るメンバーでもWMMに継続して関わることができているのだと思います。

コミュニティーへの帰属感はどのように作り出していますか。これまでの活動から学んだことがあれば教えてください。

先ほど申し上げたように小さなグループを作ることで1対1の関係を築けるようすることのほか、WMMが共有している価値観がコミュニティへの帰属意識の醸成を支えています。WMMのメンバーは、ジェンダー平等が実現された世界がどのようなものなのか、また女性は被害者であるというだけではなく、変化の作り手であり担い手であるという信念を共有しているため、特に強い絆が生まれていると感じています。

実際、メンバーの多くがジェンダー平等の必要性を周りに理解してもらうために奮闘されてきたような方で、ファミリー財団の方針を決める会議やビジネスの現場において、女性の権利獲得の必要性を説かなければいけないという経験をしてきています。そしてパンデミックによりジェンダー平等が退行していると言われている中で、女子や女性の権利獲得について主張する必要がなく、事実として受け入れられる安心できるWMMのようなコミュニティがあることの価値は大きいと感じています。そういった背景からもWMMメンバーは強い絆で結ばれていると感じます。

世界におけるジェンダー平等を加速させるために

今後どのような活動を展開していく予定か教えていただけますか。

私たちは2020年にWMM 5-Year Planを定めて、現在その半分まできたところです。基本的にはメンバー数を増やしていくこと、そしてWMMの特徴でもあるメンバーのリーダーシップ・ジャーニーを発展させていくこと、最後にジェンダー平等を実現するためのリソースギャップの解消を目指してエコシステムの構築やアドボカシー活動を推進していくことに力を注いでいます。

一つ目においては、メンバーシップ制度の導入やファミリー向けプランの新設などに取り組んでおり、2025年までにメンバー数の倍増と新たに2億7500万ドルの資金を動員することを目標にしています。二つ目ではビル&メリンダ・ゲイツ財団の支援を受けてメンバーに提供するリーダーシッププログラムの拡充に取り組んでいます。三つめについては、ジェンダー平等の実現に向けたリソースギャップを解消するため、資金調達の基盤を拡大し、財団や企業、その他連携するパートナーとの新たなパートナーシップを構築することに取り組んでいます。そうすることでエコシステムの構築やアドボカシー活動を推進していく予定です。2020年から取り組んできて、これらに意味があることを再認識しており、これまでの学びと変化し続ける状況を反映して戦略を刷新しながら、引き続き取り組んでいきます。

企画・監修:SIIF 藤田淑子、小柴優子
インタビュー・執筆:株式会社キラリプラネット 細田幸恵

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