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システムチェンジのイノベーター① 米国Co-Impact

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【本記事のポイント】
Co-impactは、公平な社会システムの推進に取り組む40以上のグローバルな資金提供者から構成される共同イニシアティブで、アフリカ、アジア、南米において社会的インパクトを推進する地域組織を支援している。
■Co-Impactの特徴は、問題の根本原因である制度や関係性、機能、そしてシステムそのものの変革に取り組むために、地域組織に対して大規模かつ中長期的な支援(最大2000万ドルの助成を5-6年かけて実施)を実行していること、およびプログラムパートナーを中心においたアプローチを展開していることである。
■システム変革とその持続のためには、資金提供者の協働によりリソースを集約して投下することのほか、地域に根ざしたプログラムパートナーが政府や民間企業などセクターを超えた多様な組織と連携し、既存のシステムの中に解決策を埋め込んでいくことが必要となる。

【インタビューについて】
Co-Impactは、公平な社会システムの推進に取り組むグローバルな資金提供者の共同イニシアティブで、アフリカ、アジア、南米において社会的インパクトを推進する地域組織を支援しています。Co-impactの最初のファンドであるFoundational Fundでは、ロックフェラー財団やビル&メリンダ・ゲイツ財団を含む16カ国以上40以上の資金提供者から数億ドルを調達し、数百万人の健康や教育、経済システムの改善に取り組むイニシアティブを支援しています。また2022年3月には、2つ目のファンドとなるGender Fundを立ち上げ、10年間で10億ドルを集めて、特に女性が率いる団体を対象に、ジェンダー平等のために大規模かつ長期的、そして柔軟な資金提供を行うことを目指しています。今回は、Co-impactでPhilanthropic Collaboration Managerを務めるFabian Suwanprateep氏に活動やこれまでの学びについてインタビューを実施しました。

【インタビューに応じてくれた人】
Manager Philanthropic Collaboration Fabian Suwanprateep氏
Co-Impactの資金提供パートナー、特にシステム変革を支援する投資家との関係構築やマネジメントに携わる。社会的インパクトやビジネス、国際開発の分野で10年近い経験を持つ。Co-Impact以前は、ベルリンに拠点を置くフィランソロピーとCSRのコンサルティング会社Wider Senseで、国内外の大企業やフィランソロピーに携わる資金提供者に対してアドバイスを行う仕事をしてきた。主に教育や健康、アントレプレナーシップの分野において、戦略や連携促進、デューデリジェンスを担当した。また、それ以前には国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)やドイツ国際協力庁(GIZ)での勤務経験も持つ。

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従来のフィランソロピーの限界に取り組むコラボラティブ・フィランソロピー

Co-Impactが設立された目的と経緯について教えていただけますか。

Co-Impactは創業者兼CEOであるOlivia Leland氏によって2017年に設立されました。当時、彼女はGiving Pledgeに勤務していた経験から、フィランソロピーは私たちが暮らす世界に変化をもたらすことができると固く信じていました。しかしながら、包括的なシステム変革とジェンダー平等を推進するためには、何に対してどのように資金を提供するべきか、誰が変化を推進すべきか、という観点からフィランソロピーのモデルと権力構造(power structures)を見直す必要があることも知っていました。

そこで彼女はCo-Impactを立ち上げる前に、数年かけて何百人ものフィランソロピー分野のリーダーたちにインタビューを実施しました。その中で彼女はフィランソロピーをより良く持続的に機能させるための多くの洞察と教訓を得て、それがCo-Impactのデザインに大きな影響を与えています。Co-Impactでは、資金提供者を集めて資金をプールすることで、個々の努力では不可能な大きなインパクトを生み出すことを目的としています。Co-Impactのもう一つの特徴はパートナーを中心としたアプローチ(partner-centered-approach)を取っていることで、資金を提供する団体(つまりプログラムパートナー)に、何をすべきかを指示するのではなく、(彼らを)システム変革のために必要なことを知る専門家であると信頼して協働しています。私たちは、プログラムパートナーのアイデアや活動をどのようにサポートし、促進すればよいかを常に考えています。

2017年からはアフリカ、アジアそして南米において保健、健康そして経済的機会に取り組む団体に対し、Foundational Fundを通じて1団体あたり500万から2000万ドルの資金を5、6年かけて提供してきました。元々は10年間で使い切る予定でしたが、現在はファンズ・オブ・ファンズのようなモデルに移行してきており、2020年には二つ目のファンドとなるGender Fundを立ち上げました。このファンドではジェンダー平等や女性のリーダーシップを推進する団体を支援しています。

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ウェブサイトにもシステム変革(system change)という言葉がよく見られました。改めてどういうことでしょうか?

システム変革とは、問題を引き起こす、あるいは問題を永続させている根本的な制度や関係性、機能、そしてシステムというものを変えることに焦点を当てることにより、特定の症状に対処するよりも、問題の根本原因を解決しようとすることです。

ではどうすれば良いのでしょうか。まず、システムの変革は複雑で時間がかかるため、取り組む組織には、短期間のプロジェクトベースの助成金ではなく、効果的に活動を行うための長期的かつ柔軟な資金が必要です。私たちは、複数の資金提供者が協力してプログラムパートナーを支援することで、より大規模で長期的な資金を引き出し、投資された1ドル1ドルがより持続可能な解決策に貢献しながら、システミックな変化を促すことができると考えています。

また、システム変革とは、プログラムパートナーが、自分たちが取り組む医療経済や教育システムの中で、変化のための重要な力点を特定し、それに向かって努力することを支援することを意味します。例えば、プログラムパートナーが問題解決に有効であると証明されているアイデアやイニシアティブを実行している場合、私たちはその組織の規模を拡大することに焦点を当てません。むしろ、そのアイデアやイニシアティブのモデルを社会と共有し、拡大する方法について、プログラムパートナーと協働しています。そのためには、他の組織や政府、民間企業を含むセクターを超えた強力なパートナーとの協働が必要となることが多く、既存のシステムの中にスケールアップさせるための持続的な解決策を埋め込むことが求められます。

例えば、2021年からCo-Impactが資金提供しているプログラム「Harambee Youth Employment Accelerator」は、民間セクターだけでなく南アフリカ政府とも連携し、2025年までに南アフリカの若者300万人を(学校教育や就労訓練などの)学習から就労に移行できるような経済的な道を再設計・構築することを目指しています。このような野心的な目標を問題と同じ規模で達成する唯一の方法は、政府や他の組織と連携して、若者にとってより良く、より公平に機能するために、教育システムに変革を組み込むことなのです。

システム変革を推進させるためには学習が欠かせない

中長期的に取り組むこと、そして様々な利害関係者への働きかけがシステム変革には不可欠であると感じました。非常に挑戦的なこの取組について、どのように成果を設定し評価しているのでしょうか。

学習は私たちの仕事にとって不可欠であり、それはプログラムパートナーにとっても非常に重要であると考えています。一つ言えることは、私たちはプログラムパートナーの仕事に対して、学び、測定し、評価することについて厳格なアプローチを直接的には取っていないということです。このLME(Learning, Measurement & Evaluation)アプローチの主導権はプログラムパートナーに持って欲しいと思っており、彼らが心から学びたいと思うことを確認するようにしています。プログラムパートナーがこれらの学習に高い優先順位と重要性を感じることで、学びが実践に活かされやすくなります。このような観点から、私たちは四半期ごとにプログラム・パートナーと話し合う場を持ち、設定したマイルストーンに対する進捗状況や課題、重要ポイントについて議論し、(もしもう一度するとしたら)別の方法で何ができただろうかという学びを内在化させています。これらのアプローチはLMEガイドブックにまとまっています。

フィランソロピストから企業財団までが学び合うコミュニティをつくる

非常に興味深いアプローチです。次に資金提供パートナーについても詳しく聞かせていただきたいのですが、彼らがCo-Impactに参加する動機は何でしょうか。

Co-Impactには、フィランソロピスト、組織財団、企業財団、ファミリー財団など非常に多様な資金提供者がいるため、その動機も多様かつ複合的なものになっています。参加する動機の一つは他の資金提供パートナーから学びたいというものです。例えば個人のフィランソロピストが企業財団のトップと話す機会は少ないため、同じテーブルについて交わす会話などから学ぶことは多いようです。二つ目は現実的な動機で、富を持っており社会に貢献したいと思っていても、実行に移す器やチームがない場合があります。そのような場合は、自分達でゼロから作るのではなく、Co-Impactのように専門性と実績があって自分が意義あると思うことを素早く確実に実行してくれる組織に資金を提供したいと思うようです。ほかの動機については、2021年に発表したPromoting Higher-Impact Philanthropy: What We’ve Learnedにもまとめられていますので読んでみてください。

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資金提供者が集い学び、交流するために具体的にどのような機会を設けていますか。

パンデミック前後で大きく変わりました。パンデミック前はWorld Economic Forum等の国際会議などにあわせて一年に3回ほどの対面で会う機会を設けていました。Zoomも良いのですが、やはり対面で築かれるパーソナルな繋がりは特別だと感じます。他には関係者しかアクセスできないプラットフォームを作っています。Facebookのようなもので、プログラムパートナーのイベントや招待状、最新情報などを入手することができます。そして最後はラーニングジャーニーです。資金提供パートナーがプログラムパートナーの活動フィールドに行って直接話す機会を設けているのですが、この機会がボランツーリズムにならないよう、慎重に企画をするようにしています。これらの企画や機会がパンデミック後は全てオンラインになっています。

他の取組としては、The Philanthropy Workshop(TPW)というフィランソロピストに対して学びの機会やコミュニティを提供するグローバル組織と戦略的パートナーシップを結んでいます。Co-Impactの資金提供者はTPWの全てのリソースにアクセスしてフィランソロピーについて学ぶことができ、Co-Impactもジェンダー平等や女性のリーダーシップなどに関するコンテンツをTPWに提供しています。TPWは資金提供者の視野を広げると同時に深めて、学び合いを促進してくれていると思います。

今までいくつかのフィランソロピー・コミュニティにインタビューをしてきましたが、Co-Impactは資金提供者のバックグラウンドが非常に多様だと感じます。運営において難しさを感じることはありますか。

確かに個人のフィランソロピストと企業財団の視点やニーズは異なることも多く、様々な利害を調整しながら、どこに焦点をあてるのか、何について合意するのかについて決めることは、時に困難な場合があります。しかし、最終的には共通点を見出し、システム変革や、プログラムパートナー中心の支援、ジェンダー平等など、私たちが深く抱く価値観を共有できるパートナーシップを築いています。また、Co-Impactは、資金提供者との間に取引的な関係ではなく、相互に魅力的で協力的、かつ永続的な関係を築くことを目指しているため、価値観を共有することが重要です。そして多様性は、代表性、経験、視点という点で多くの利点があり、私たちの活動への取り組み方を豊かにするかもしれません。

資金提供者のコラボレーションはシステム変革を推進するために効果的である

最後に過去5年間のCo-Impactの取組から学んだことを教えてください。

最初にお伝えしたいのは、私たちがこの取組を5年間継続できたのは、その可能性を信じ続けられたからだと思います。その前提に立って、学んだことをまとめると以下のようになります。

  • 協働:資金提供者がリソースを集約させることは、より大きなインパクトを実現させると同時に、多様なスキルを活用し、学習効果を高め、コストとリスクを共有することを可能にします。そして、プログラムパートナーや、政府、市民社会、民間セクター、フィランソロピーなど、多様な主体との協働が、システム内の変化を持続させるために必要です。

  • 地域に根ざすこと:主要なシステムを変えるには、重点分野に取り組むために必要な専門知識、経験や、関係を持ち、文脈を理解している地域に根ざした組織に投資する必要があります。

  • 長期的な資金提供:システムの変革には時間がかかるうえ、プロジェクトベースの考え方ではなく、プログラムパートナーが他の組織と協力してシステムの問題に対する根本原因に真に取り組めるように、長期的な資金提供が必要です。

  • ジェンダーの視点を取り入れること:システム変革のための資金調達はジェンダーの視点を取り入れて行われなければなりません。システムに対する投資は、人口の半分が取り残されたままでは資金提供者が望むようなインパクトを生み出すことはできません。ジェンダー平等の観点から(女性が率いる団体に投資するなど)競争の場を均等にしていくことで、あらゆる分野でそのリターンとしてのインパクトが現れてくることになります。

企画・監修:SIIF 藤田淑子、小柴優子
インタビュー・執筆:株式会社キラリプラネット 細田幸恵

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