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【連載】新しいフィランソロピーのコミュニティ vol.2 (英国 Founders Pledge)

英国Founders Pledgeへのインタビュー
ー エビデンスと学び合いを通じて戦略的フィランソロピーを実現するー

Founders Pledge(以下、ファウンダーズ・プレッジ)は、グローバルな非営利組織で、世界の差し迫った課題に対して起業家がフィランソロピーを通じて貢献することを支援します。世界37カ国から1700名以上が参加しており、ヨーロッパ、英国と米国を拠点にサービスを展開しています。起業家がコミュニティに参加する際に、将来的にIPO等で築いた資産の一部を慈善団体へ寄付するというPledge(誓約)を前もって書いてもらうことが特徴です。メンバーはイベントへの参加やアドバイザリー・サービスの利用、リサーチへのアクセス、そして寄付の実践を通じて、戦略的かつインパクトを生み出すフィランソロピーを実現します。今回は、コミュニケーション・リードを務めるVictoria Nelmes氏にファウンダーズ・プレッジの活動内容や大切にしている価値観、運営や今後の展開についてインタビューしました。

コミュニケーション・リード/ Communications Lead Victoria Nelmes氏

2022年1月にコミュニケーション・リードとしてFounders Pledgeに入社。ストーリーテリングなどを通じてブランドや組織が自分たちの声を届けるための支援に情熱を注ぐ。Founders Pledge入社前は英国の文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシルでの広報に従事していたほか、ロンドンの大手PR会社での勤務経験を持つ。

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限られた資金を効果的に使うためにはエビデンスに基づくことが大事

まずはファウンダーズ・プレッジの活動の目的と内容から教えていただけますか。

ファウンダーズ・プレッジは、慈善団体へ寄付される1ドル1ドルの使い方について最善をつくす(“do the most good possible”)ために起業家を支援しています。コミュニティはテクノロジー分野のエコシステムを担う起業家やVC、投資家など約1700名から構成されており、彼らが十分な情報をもつ戦略的なフィランソロピストになれるよう、ファウンダーズ・プレッジは専門的な知識やリソース、機会を提供しています。

会員に対する様々な取組の一つがリサーチです。私たちは最も効果的にインパクトを生み出すための資金提供の機会を見つけるためのリサーチを行っています。その手法は厳格で、まずは世界の差し迫っている問題を特定し、そのあとに重要性や、看過されているか否か、変化を起こせるかなどの観点から優先順位をつけます。そして、それらの課題に対して最も効果的な解決策について、世界におけるアウトカムのデータやエビデンスに基づいて研究します。最後にそれらの解決策を実践する団体や個人を見つけるのです。その際は費用対効果や資金提供の可能性などの基準に照らし合わせて検討し、最終的に寄付先をメンバーに提案します。

リサーチはどのように開始されるのでしょうか。

ファウンダーズ・プレッジではリサーチ・チームが主体となりリサーチが企画、実施されます。リサーチ・レポートは全て私たちのウェブサイトに公開しています。メンバーの要望に基づいたリサーチも行っており、メンバーが各々の目標や経験、価値観に基づきながら寄付することを大事にしています。リサーチの内容はアドバイザリーチームに共有し、寄付先のポートフォリオを作る際に活用してもらうようにしています。

最近の事例では、ウクライナの危機に際してメンバーから何か力になりたいという要望がありました。リサーチ・チームはこのような国同士の衝突における最も効果的な介入は、長期的なアプローチであるとし、たとえば(活用方法によっては甚大な被害をもたらす)新興技術の適切な発展と活用や、お互いの理解を促進する対話などの外交的なイニシアティブなどへの資金提供など、長期的なアプローチをとることを提案しました。しかし、多くのメンバーからは緊急的な救援を望んでいるウクライナの現状に対して、直接的な支援をするための寄付先を教えてほしいという要望をうけました。そこで、まずは現地について正しい情報を得ることや、寄付を正しく活用してくれる運営基盤が確立された団体を探すことなど実践的な提案をしました。このように私たちは、リサーチから効果的な支援だと思われることだけでなく、メンバーの「今困っている人を助けたい」というような価値観や希望にも同時に意識を向けるようにしているのです。

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一般的には取組課題を特定したあと、すぐに寄付先を探すことから始めてしまいがちなので、その前にデータやエビデンスを通じて効果的な解決策をリサーチする手法は非常に興味深いです。このユニークな手法はどのように思いついたのですか。

ファウンダーズ・プレッジは2015年に共同創業者兼CEOのデビッド・ゴールドバーグによって設立されました。当時、彼はフィランソロピーについてデータやエビデンスが不足しているため、効果的な寄付先を探す方法が分からずフラストレーションを抱えていました。それが先に述べたリサーチの方法論を確立させていった理由になります。

アドバイザリーチームはフィランソロピーについて共に考えるパートナー

他の活動についても教えてください。

アドバイザリーチームはメンバーが自身の価値観や目標、疑問について掘り下げるための場を提供します。メンバーの中にはフィランソロピーの経験が全くない方から、達成目標や寄付先についてしっかりした考え方をもつ方まで幅広い層がいます。アドバイザリーチームは、彼らがより深い知識を身につけられるように、リソースを提供して自身にとって何が重要なのかについて考えてもらうようにします。その過程では、データやエビデンスを基にしたリサーチ内容や提案を共有した上で、オーダーメイドの寄付プランやポートフォリオを作成することもあります。ここで重要なのはメンバーが一連の学びに対してオープンであることです。アドバイザーはメンバーにとって共に考えるパートナーのようなもので、質問をあれこれぶつけながら、メンバーを鼓舞して高めていくのです。

また、これらの活動と並行する形でコミュニティづくりにも取り組んでいます。ファウンダーズ・プレッジはより戦略的で多くの情報を持ち合わせたフィランソロピストになりたいと願うユニークな起業家の集まりで、メンバー同士の学びが重要だと思っています。そのため、リサーチに関するトピックやメンバーの関心が高いトピックについてイベントを開催するほか、リトリートと呼ばれる長い時間を共にしながら自身のフィランソロピーについて親密に話し合うような大規模な集まりも年に何回かで開催しています。

上に述べたリサーチやアドバイザリーサービス、コミュニティづくりは全て同時に起こっていることで、メンバーはこれら全てのプログラムに参加できます。全てのメンバーにはコミュニティ・マネージャーと呼ばれる専任の担当者がいて、質問があるとき、寄付をしたいとき、ファウンダーズ・プレッジの活動に関わりたいときなど、いつでも相談できる体制をつくっています。

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リソースを持つ起業家は社会に変化を起こす責任を負っている

ファウンダーズ・プレッジに参加する起業家について教えてください。元々フィランソロピー・マインドを持ちながら、活動を通じてフィランソロピーへの姿勢やコミットが育てられていくのでしょうか。

その通りです。ファウンダーズ・プレッジに参加する際に誓約書を書くことは、自分の未来に自分で責任を持つために効果的であり、その時点でコミットメントをしたことになります。私たちが起業家と協働する理由は、データ活用や投資対効果などビジネスにおいて意思決定を行う際のロジックや考え方が、フィランソロピーにもそのまま活きると思ったからです。そういう意味では(ファウンダーズ・プレッジの考え方を)直感的に理解している層だと言えます。

私たちが起業家に着目するもう一つの理由は、そのマインドセットや資金などのリソースにあります。彼らは社会に変化をもたらす存在としてユニークであり、かつ責任を負っていると思います。人は持っている資源の使い方について最善を尽くす(“do the most good possible”)責任があると考えており、私たちはそれをサポートしているのです。

アドバイザリーの期間は人によって幅がありますが長くなることもあります。数年かけて受けるメンバーもいますし、誓約書を書いたあとに(ビジネスで成功を収め)寄付の準備ができるまで時間がかかることもしばしばあります。寄付の準備ができたら担当のコミュニティ・マネージャーに連絡を取り、自身の目標や価値観についてアドバイザーと会話を始めるのです。起業家は多忙な人たちであるため、彼らのスケジュールに合わせて活動しています。

大陸を超えて37カ国に広がる起業家のフィランソロピー・コミュニティ

メンバーになるための要件は何でしょうか。

新しいメンバーを迎え入れる際には、彼らと私たちの価値観や考え方が一致しているかどうか確認することを大切にしています。学びながら挑戦し、共に旅をすることについて前向きかどうかを確かめます。たいていの場合、既存メンバーからの紹介であるため上手くいくことが多いです。誓約書を書くこともメンバーになるための要件の一つで、将来の収益について有意義な額を慈善団体に寄付することを約束してもらいます。誓約を通じて未来の自分に責任を負うこと、コミットすること、そして寄付をするマインドセットを養うこと自体が大事なのです。たとえその誓約が実現しなくとも、考えてきた過程で結果的に得るものが多いので、それでいいのです。

ファウンダーズ・プレッジには世界中から起業家が参加しています。国を超えて参加する理由は何でしょうか。

ファウンダーズ・プレッジには世界37カ国から1700名以上のメンバーが参加しています。運営チームの拠点はヨーロッパ、英国と米国にあります。メンバーが集まる理由は、ファウンダーズ・プレッジがone-stop-shopであるからだと思います。フィランソロピーを旅に例えると、私たちは最初から最後までの全て(エンド・トゥ・エンド/ end-to-end)をカバーしています。

ファウンダーズ・プレッジには、メンバーが寄付をした際にお金のモニタリングをする専門チームもいます。Donor Advised Fund(DAF)と呼ばれるもので、寄付を運用するための口座を持ち、助成に係る一切の手続きを行っています。そのほかにファンドも運営しています。気候変動、グローバルヘルスと開発、ヒューマニティの未来を守り発展させるという三つのテーマ型ファンドになります。ファンドは、差し迫った問題に取り組むための効率的でエキサイティングな方法で、メンバーがリソースをプールしてより大きなインパクトを出すことを可能にします。また、このファンドは一般の人も出資できる仕組みで、専門のファンド・マネージャーを雇って運営しています。専門家であるファンド・マネージャーに意思決定を安心して委ねられるため、メンバーからは人気があります。起業家は多忙であるため、時間がない中でもできる限りのことをやっているということを実感できる効果的な方法でもあります。このように、私が知る限りこのようにリサーチ、コミュニティづくり、アドバイザリーサービス、そして助成の支援やファンドなど、フィランソロピーに係る全てのサービスを提供する団体は他に知りません。ファウンダーズ・プレッジは戦略的なフィランソロピーを実践するために必要なものは全て提供しているのです。

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レポーティング・サービスやインパクト測定も行っていますか。

私たちはメンバーに対して、寄付がどのような成果が生み出すのかということについて、独自に算出し報告しています。ファウンダーズ・プレッジは非営利組織であるため、運営費はドナーの寄付によりカバーされています。そのため、私たち自身が生み出すインパクトについて報告することは重要です。効果的な資金提供の機会を起業家に共有すると同時に、寄付先からの最新情報を都度メンバーと共有するようにしています。

最後に今後のファウンダーズ・プレッジについて聞かせていただけますか。

これまでに私たちのコミュニティは7億ドル以上の資金を慈善団体に寄付し、80億ドル以上の誓約を行なってきています。ファウンダーズ・プレッジの使命とビジョンは、インパクトを最大化する資金提供の機会を支援することです。それはこれからも変わりません。私たちは常に進化し続け、新しい研究を行いながら、世界の新たなリスクや脅威、問題に対応していくことが必要だと考えています。

企画・監修:SIIF 藤田淑子、小柴優子
インタビュー・執筆:株式会社キラリプラネット 細田幸恵

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