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【連載】新しいフィランソロピーのコミュニティ vol.3 (米国Toniic)

米国Toniicへのインタビュー
ー 共に学びながらリソースを分かち合うコミュニティがインパクト投資を推進する ー
Toniicは米国に拠点を置くインパクト投資家のグローバル・コミュニティで、500以上の富裕層やファミリー・オフィス、財団のアセットオーナーから構成されています。メンバー向けには教育プログラムやイベント等の集まる機会を提供するほか、インパクト投資に関する情報提供も行なっています。また学術機関とインパクト投資の研究を行うことでエコシステムの構築にも取り組んでいます。本インタビューでは、Head of AsiaのCindy KoさんにToniicの活動についてお話を伺いました。

Head of Asia for Toniic Cindy Ko氏

Toniicのアジア太平洋地域担当リーダーとして同地域におけるインパクト投資を推進する。また、マレーシア証券取引所に上場している投資会社JcbNextのインディペンデント・ディレクターも務める。これまでに、アーリーステージを対象としたVCファンドのQuona Capital、ベンチャー企業のエコシステムを世界的に構築する非営利団体Endeavor、シリコンバレーを拠点とするロボティックス企業Ziplineなどでのキャリアを持ち、途上国投資や起業家支援に携わってきた。

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Toniicの活動はメンバー主導で行われる

2010年の設立以来、「インパクト投資への資金フローを拡大する」というToniicの使命は当初から変わっていません。主な活動としてメンバーを対象にした様々なオンラインセッションを開催しています。世界のインパクト投資案件(ファンド・直接投資)を紹介するセッション “Investment Roundup”を定期的に開催しているほか、任意で参加するワーキンググループセッションがあります。これは課題領域(例:Investing for Gender & Racial Equity working group, Climate Impact working group, Regen Ag and Food working group)や投資家の属性(例:Family office working group)、関心のある投資対象国(例:Latin America working group, Africa working group) などのカテゴリーによりグループに分けられています。 なかには自身のポートフォリオの全て(100%)をサステナブルあるいはインパクト投資に振り向ける100% Networkというアセットオーナーのワーキンググループも存在します。特徴的なのは、Toniicの事務局スタッフが開催のサポートをしますが、最低2名のメンバー(アセットオーナーなど)が開催にあたって企画を主導しなければならないことです。Toniicはメンバーの主体的な参加があってこそ成立しているのです。

コミュニティと投資機会がインパクト投資を推進する

これまでの活動を通じて、インパクト投資により多くの資産を振りむけるために何が必要なのかについて分かってきたことがあります。まずはコミュニティです。自分と同じように取り組む仲間がいることで、人は前向きになり意欲が湧いてきます。次に投資機会です。Toniicには投資ファンドプログラムと呼ばれるセッションがあります。メンバー間でファンドを紹介しながら学び合い、セッション終了時に関心を持つメンバーが5人以上いれば、ファンドマネジャーや起業家に別途話を聞く時間を設けています。上述したInvestment Roundupはこのプログラムの一つの取組です。最初はこれらのコミュニティづくりと投資案件の紹介などのサービスから始めましたが、現在はメンバーニーズに応える形で教育プログラムやインパクト測定ツールなども開発しています。

メンバーの投資経験に応じた教育プログラムを展開

インパクト投資に既に取り組んでいる実践家もいる一方で、これから新たにインパクト投資に取り組む投資家もいます。そのため、Toniicではメンバーの投資経験に応じてアクティベーター・シリーズという教育プログラムを開発し、基礎的な知識やスキルを獲得できるようにしています。Toniicではインパクト投資家をその経験値によって三つに分類しています。一つ目はアクティベーターでこれから新しく始める人、次はディプロイヤーと呼ばれ、投資をいよいよ始める人、最後はカタリストで投資においてロールモデルになる人を指します。先に述べたアクティベーター・シリーズはアクティベーターとディプロイヤーを対象にしたプログラムになっています。

インパクト投資ファンドのデータベースGustとインパクト投資のマネジメントツールTRACER

既にインパクト投資を実践している人には、Gustというオンラインプラットフォームでインパクト投資ファンドや直接取引のデータベースを公開しています。Gustに掲載されている直接取引はToniicメンバーによるデューデリジェンスと出資を受けた案件になっています。そのため、関心のある投資家は、希望すれば既に出資した投資家からデューデリジェンスの結果などの情報について交換することができます。

Toniicが開発したもう一つのツールはTRACERです。TRACERは、資金提供者(ファミリー・オフィスやVC投資家など)と株式発行者(起業家、資金調達企業など)の両方が、財務的リターンとインパクト・リターンを含むインパクト投資を測定し、その報告を管理できるようにするものです。データを収集し、投資リターンや比較のためのベンチマークを算出することで、効果的なインパクト・マネジメントを可能にするツールです。

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Credit: toniic.com

研究機関と連携しエコシステムの構築にも取り組む

このようなメンバーシップに関する活動とは別に、Toniicはフィールド・ビルディングと呼ばれるエコシステムを構築するための活動も行っています。T100は、Toniicのフィールド・ビルディング活動の1つで、メンバーのインパクト・ポートフォリオから収集した匿名化された集計データを基に、学術機関と共同でナレッジベースを構築しています。

もう一つのフィールド・ビルディングのプログラムは、インパクト投資分野における革新的な取引のあり方を説明する百科事典のようなオンライン・プラットフォームで、impact termsと呼ばれています。これはToniicのウェブサイトに掲載されており、無料で公開されています。また、Toniicのウェブサイトには、インパクト投資に関するガイド、レポート、記事などの豊富なリソースが用意されており、自由に利用することができます。

Toniicのメンバー

アセットオーナーはリスクテイカーである

Toniicに参加するには、アセットオーナーである必要があります。例えば、インパクト・ファンド・マネージャーは、Toniicの投資ファンドプログラムを通じて自身のファンドについて共有することはできますが、アセットオーナーとはみなされません。Toniicは、個人資産家のコミュニティです。Toniicは、資産をもつインパクト投資家が自らの資本をコントロールすることで、しばしばファースト・ムーバー(first mover)となり、リスクを取ることができるのです。また、Toniicは、個人投資家がインパクト投資に関する個人的な課題や不安を共有するためのコミュニティでもあります。ToniicとGIIN(Global Impact Investing Network)の大きな違いの一つは、協働するコミュニティの性質で、Toniicのコミュニティは個人の富裕層で構成されているのに対し、GIINの会員は機関投資家が中心となっていると言えるでしょう。

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Credit: toniic.com

コミュニティのつくりかた

ニーズに応じたリソースにつなげることがToniicの役割

Toniicは小さなチームで運営されているため、メンバーが集まって直接繋がり相互に助け合えるようにしています。実際、同じような経験がある仲間から学ぶのが一番良いと感じています。また、メンバー同士が相互に学び合うコミュニティにすることで、Toniicの運営リソースに縛られずにコミュニティを拡大することが出来るという利点もあります。

例えばToniicはアドバイザリーではないのでポートフォリオについてアドバイスをするようなスタッフはいません。その代わりメンバーが推薦したアドバイザー・リストや投資ファンドのリストがあります。ほかにも前述のとおり、ワーキンググループでは関心のある投資案件について共に学びながら共同でデューデリジェンスを実施する試みもあります。およそ月1回の頻度で起業家やファンドマネジャーをスピーカーとして招待するほか、フィールドトリップを企画して関心があるテーマについての取組を視察することもあります。最近ではToniicのシンガポール在住のメンバーが始めたマレーシアの農場を訪れリジェネラティブ農業を視察しました。

コミュニティの雰囲気や質は受け継がれていく

メンバーが助け合い学び合うコミュニティの風土は、Toniicが始まった時から受け継がれて維持されていると感じます。Toniicはエンジェル投資家の小さな友達グループがインパクト投資の案件を見つける目的で集まったことに端を発します。現在でも創業メンバーのチャーリーやリサがToniicのイベントに参加してくれた時には深い知識や思慮深さを感じ、参加メンバーの結びつきが強くなるように感じます。彼らは代表の座を譲りましたが、設立当初のコミュニティの風土は現在にわたって根付いており、それは彼らのリーダーシップによるものだと感じています。

生み出してきたインパクト

インパクト投資の推進とインパクト・ジャーニーを共にする仲間を見つけること

Toniicのインパクトについてはインパクトレポートをぜひ見てください。例えば2021年のインパクトレポートによるとメンバーの投資可能な資産額は推計227億ドルとなっています。ただし、この投資額は全てのメンバーが報告してくれる訳ではないので少なく見積もられていると思っています。

測れないインパクトとしては共に取り組む仲間を得られることがあります。私たちは、インパクト・ジャーニーを共にする仲間がいることで、その旅をさらに進めるためのモチベーションが継続されることを期待しています。例えば、ToniicのメンバーであるRSグループのアニー・チェンは、インパクト投資を始めた当初は、インパクト投資に興味はあったものの、資産保全を念頭に置いていました。アニーは最近、ブレンデッドファイナンス(Blended Finance、ここでは触媒的な資金とフィランソロピー的な資金を組み合わせた投資の意味)に 焦点を当て、インパクト投資を通じて今後5年間でファミリー・オフィスの全資産を使い果たすことを発表しています。ウェブサイトに他のメンバーのストーリーをまとめたページがあるので、詳細についてはぜひ読んでみてください。

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直面している課題

言語の壁と多様性への向き合い方

特にアジアで直面している課題は言語の壁です。中国や韓国、そして日本では言語が障壁となり香港やシンガポールと比べてToniicのコミュニティが小さくなっていると感じています。また、Toniicには経済的そして文化的に多様なバックグラウンドを持つメンバーが所属しています。投資(お金)の話以外にも、時間をどのように使いたいか、どのくらいのお金を投資に使えるか、投資によってどのようなアジェンダを推進したいかなどについても話し合いますが、トピックに対する意見や価値観はメンバーのバックグラウンドによって異なります。例えばLGBTQなど性的マイノリティについてメンバー全員が賛成ではない場合に、特定の政治的見解を押し付けずにジェンダー投資についてどのように意見交換を行うかは難しい問題です。

今後の活動について

リージョナル・ギャザリングを開催

APAC(アジア太平洋地域)ではパンデミックが起こってから一度も集まることができていないため、この3年間で初めてのリージョナル・ギャザリングを10月末に韓国の済州島で開催する予定です。韓国から長年にわたって参加してくれているメンバーが運営を手伝ってくれることになっています。韓国のインパクト投資のエコシステムの発達は著しく、今回Asan Nanum財団などが進んでスポンサーになってくれました。素晴らしいことだと感じています。

パーソナル・ジャーニーを共有する機会をつくりたい

ほかに予定していることは、これまで提供してきたプログラムの内容をよりイノベーティブに改良していくことです。例えばTRACERにはワンクリックで公開されている上場株データを追加し自身の投資パフォーマンスとの比較が出来るような機能の追加を考えています。他にはメンバーの要望を受けて、パーソナル・ジャーニーを共有する機会を作りたいと思っています。これまで欧米地域では決まったメンバーで毎月集まるなどの形態で実施されていましたが、アジアではリソースに限りがあったため開催できていませんでした。しかし、メンバーと話すなかで深いつながりを求めていることが分かってきたので、実施に向けて現在準備をしているところです。

企画・監修:SIIF 藤田淑子、小柴優子
インタビュー・執筆:株式会社キラリプラネット 細田幸恵

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