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【連載】新しいフィランソロピーのコミュニティ vol.1 (香港SFi)

香港 サステナブル・ファイナンス・イニシアティブへのインタビュー
ー インパクト・コミュニティの設立 ー

サステナブル・ファイナンス・イニシアティブ(以下、SFi)は、業界のパイオニアであるRSグループがインキュベートした香港を拠点とするインパクト投資のプラットフォームです。SFiはインパクト投資やサステナブル投資に資産を振り向けたい個人・ファミリーオフィスのコミュニティで、メンバーの関心に応じた投資の機会をメンバーに紹介しています。今回は、Katy Yung氏(SFiマネージング・パートナー)とJoleen Soo氏(SFiコミュニティ&エンゲージメント・リード)に、SFiの設立からの活動、現在の状況、そして今後の展望を伺いました。

サステナブル・ファイナンス・イニシアティブ マネージング・パートナー Katy Yung氏
Sustainable Finance Initiative Managing Partner

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サステナブル・ファイナンス・イニシアティブ コミュニティ&エンゲージメント・リード Joleen Soo氏
Sustainable Finance Initiative Community and Engagement Lead

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SFi設立の背景

サステナビリティに関心が高い投資家が協力し始める

2016年、私たちRSグループは「RSグループ・インパクト・レポート」を発表しました。このインパクト・レポートはRSグループが責任ある資本運用に関するアイデアや考え方の実践を通じてトータル・ポートフォリオを構築してきた5年間の道のりを記録したものです。出版後、アニー・チェン(RSグループ創業者)は、他のファミリーオフィスから、独自のインパクト投資ポートフォリオを開発する方法について助言を求められるようになりました。あまりに反響が大きかったため、アニーはRSグループ内にファミリーオフィスが伝統的な投資からサステナブル・ファイナンスへの方法論的アプローチへと軸足を移そうとする動きを支援するSFiを発足させました。

2018年、RSグループからスピンアウトする形でSFiは正式に設立されました。当時の香港はインパクト投資の初期段階で、関心が高まっており「Doing well and doing good(良いことをしながら成功する)」ためにより多くの資本が動員されるようになっていました。現在では投資家は適切な投資手段を用いれば、利益と(良いことをするという)目的が相反するものではないことを理解するようになりました。

最初のチェンジ・メーカー

アジアの多くのファミリーオフィスは、伝統的な投資以外に目を向けることを躊躇しがちです。SFiの設立当初は、アニーのようなインパクト投資を支持するリーダーを見つけることから始めました。このようなリーダーたちは、インパクト・エコシステムにおける対話と活動を発展させる触媒となり、現在もそうであり続けています。

SFiのメンバーの多くは、既存のネットワークを通じて紹介され、高い信頼性を持つコミュニティとなっています。このコミュニティは、真の変革を起こし利益を生み出すために資金を投入するという情熱を共有しているコミュニティです。

活動内容

インベスター・サークル

SFiに入会する前にメンバーが私たちに聞く主な質問は3つあります。1つ目は自分たちのコミュニティでインパクト投資を実践しているのは誰か、2つ目は自分たちがアクセスできるインパクト投資の案件について、3つ目はサステナビリティとインパクトのトレンドについて、どうすれば学べて最新情報を得ることができるかです。

SFiは、こうした彼らの疑問に応えるべく、事業を展開しています。例えば、毎月開催している「インベスター・サークル」では、投資機会をインパクトテーマ、アセットクラス、チケットサイズ、リスク許容度、地域別に分類して紹介しています。これまでに200件以上の投資機会を精査し、紹介してきました。投資家が紹介した投資案件に関心を持った場合、SFiはデューデリジェンスやインパクト測定などを通じてメンバーをサポートします。これまでに、SFiのディール・フロー・セッションを通じて、気候変動、食料・農業、EdTech(テクノロジーを活用した教育)などをテーマにした数多くの投資が行われました。

メンバーの学習機会

SFiは、メンバーがお互いに手を差し伸べる、前向きで協力的な環境づくりを目指しています。そのための施策として、メンバーの興味や時事性に合わせた学びを目的としたセッションを毎月開催しています。SFiブラウンバッグ・セッションと名づけ、インパクトとサステナビリティに関連するあらゆるトピックを取り上げ、メンバーの知識を高めることを目的としています。最近では、サステナブルシーフード、ESGレポーティング、中国のカーボンマーケットなど、メンバーの関心に合わせたトピックを取り上げました。

親密な関係性をもつコミュニティ

そのほか、懇親会やフィールド・トリップなど、メンバー間の親近感を醸成するためのイベントも企画しています。インパクト投資のコミュニティでは、資本だけでなく、その根底にある情熱が皆を結びつけるのです。そのような場では、メンバーが自宅を開放してくれることもあります。富裕層の方々と仕事をする場合、パーソナルなサービスが重要であることを実感しています。私たちは、メンバーのインパクトと投資目標を深く理解し、すべてのメンバーと親密な関係を築くよう心がけています。

SFiのメンバー

メンバーは投資に関する財務と運用の知識を併せ持つ

SFiのメンバーは、一般的にファミリーオフィスや個人投資家です。SFiのサービスを利用するには、メンバーの要件に応じた年会費を支払う必要があります。SFiのメンバーは、ほとんどが経験豊富な投資家です。彼らは、リターンや投資期間などを超えてどのような質問をすればよいかを知っており、財務とビジネスの両方の知識を持ちあわせます。しかし、SFiのサービスは、投資経験者でなくても利用できます。サービスは極めて個人的に提供され、どんな投資家でも投資機会をインパクトや財務、ビジネスの観点から理解できます。

「次世代(next gens)」の重要な影響力

SFiのメンバーは、年齢も経歴も実に多様です。多くの人がまだ本業や家業に携わっている一方で、事業を売却した人やセミリタイアした人、セカンドキャリアを追求する人など、さまざまな人がいます。多様な人々が混在することで、コミュニティはより豊かなものになるのです。また、世代を超えた議論も多く見られます。若い世代、つまり「次世代」の若者は、シニアの保守的な世代に、サステナビリティに焦点を当てた投資ポートフォリオに変更するよう説得します。シニア世代の考え方を変えるのは難しいことですが、SFiはさまざまな方法でメンバーの投資の旅をサポートしています。SFiは、次世代が家族とともにインパクト投資に取り組むためのトレーニングやマンデートの取り決めを行うことを支援するほか、金融専門家に対して持続可能性に焦点を当てた金融商品をより良く理解し伝えるための教育を提供しています。

インパクト投資の推進

インパクト投資の実体験を通して学ぶ

香港は非常に博愛主義的でチャリティ精神に溢れた社会です。フィランソロピーに積極的に取り組んでいる人の多くは、社会的意義を達成しながら財務的なリターンも得られることを信じていない、もしくは気づいていないのです。我々はフィランソロピーの実践者に、持続可能な金融に関心を持ちインパクト投資が社会や環境の問題を根本から解決できると理解してもらうことを推奨しています。そして既にこのようなマインドセットの転換が見られる投資家は増えてきていると考えています。

SFiのメンバーは、リスク選好度に基づいて、様々なアセットクラスに投資をしています。また、スタートアップ企業の運営サイドに関わりたいと考えている人もいます。多くの投資家は、ESG投資は最初の一歩だと考えています。銀行は既に多くのESG投資を導入しており、通常は業界や政府、社会が期待するコンプライアンスをサポートするだけなので、その一歩を踏み出すのは簡単です。SFiはそれを補完するために、より意図的で目的志向のアウトプットを生み出すインパクト投資に焦点をあてています。次のステップは、インパクト・マンデートを定義し、この目的のためにポートフォリオの一部を切り分けて最初の投資を実行することです。インパクト投資へのアプローチを方法論的に行うことで、より明確にそして簡単に行動を起こすことができるようになるのです。

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メンバーの関心を反映した投資機会を紹介する

私たちはメンバーが関心を持つインパクトテーマやSDGsを反映した投資のパイプラインを構築しています。メンバーは、香港、中国、東南アジアを中心としたアジアに偏りがあるかもしれませんが、SFiは世界中から投資機会を発掘しています。コミュニティは非常に国際的であるためコミュニケーションは主に英語で行われます。

知識を通じてより深いレベルでつながる

ファミリーオフィスや富裕層に対して適切な価値を提供することを常に強く意識しています。SFiは、広く浅いコミュニティではなく、より深いレベルでつながるコミュニティを目指しています。そのためには、私たちのコミュニティは、自分たちが共通の関心をよせる問題について、知識を持たなければなりません。一方で、学びについて、適切な情報量や、どこまで深く学ぶのかを判断するのは難しいものです。シンクタンク的なノウハウを提供しすぎると、メンバーの関心が薄れてしまうかもしれません。逆に提供しなさすぎると、いざという時にどう質問すればいいのかわからなくなってしまいます。必要なことと知りたいことにおいて適度なバランスをとることが重要だと考えています。

生み出されてきたインパクト

インパクト投資とエコシステム構築への関心の高まり

近年、COP26をはじめとする気候変動に関する対話や、インパクト志向のスタートップによるイノベーションを契機として、インパクト投資が活発化しています。香港はイノベーションとテクノロジーの中心地であり、新たな展開に対して熱意と注目が集まっています。インキュベーターなどのプログラムも、より多くのサステナビリティやインパクト関連のビジネスを支援してきました。金融機関もより持続可能な投資商品を推進し、人々が情熱を持って取り組む問題を支援しやすくしています。業界全体が細分化されなくなり、エコシステムが成長しています。より多くの個人投資家がESG投資をはじめインパクトに向けて次のステップに進む準備ができたとき、SFiのような団体にやってくるでしょう。しかし、現実にはほとんどの金融機関は「ESG」から「インパクト」へシフトしようとする投資家と対話する準備ができていません。

今後の活動

インパクトとサステナブル・ファイナンスを学ぶためのプラットフォーム「New Impact Society」

サステナブル・ファイナンスの知識と人材のギャップを埋めるため、SFiは最近、オンライン教育プラットフォーム「New Impact Society(NIS)」を立ち上げました。NISは、サステナブル・ファイナンスのキャリアに軸足を置きたい金融専門家向けに、短期間のオンラインとライブ配信のコースを提供します。サステナブル・ファイナンスの専門家を養成することで、より多くの人がインパクト投資を実現し、より良いインパクト・イニシアチブとより安定的な資金調達が可能となるエコシステムが構築されることを目指します。

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企画・監修:SIIF 藤田淑子、小柴優子
インタビュー・執筆:株式会社キラリプラネット 細田幸恵

---- English below ----

Interview with Sustainable Finance Initiative
ー Founding An Impact Community ー
Sustainable Finance initiative ('SFi') is a Hong Kong-based, impact investment platform incubated by industry pioneer RS Group. In this interview, SIIF spoke to Katy Yung (Managing Partner, SFi) and Joleen Soo (Community & Engagement Lead, SFi) about SFi's activities from its founding, what’s happening now, and what the future looks like.

Background of SFi
Sustainability-minded investors start working together

In 2016 RS Group released the “RS Group Impact Report”, documenting their five-year journey of putting into practice their ideas and thinking on responsible capital management, in building a Total Portfolio. Following the publication, Annie Chen (Founder of RS Group) and her team were approached by other family offices asking for advice on how to develop their own impact investment portfolios. Sustainable Finance Initiative was born out of this drive for family offices to pivot from traditional investments to developing a methodical approach to sustainable finance.

In 2018, SFi was officially incubated. It was early days for impact investing in Hong Kong there is growing interest in impact, and more capital is being mobilised for “doing well and doing good”. Investors are now understanding that profit and purpose, with the right investment vehicles, are not mutually exclusive.

Our first changemakers

Many family offices in Asia are often hesitant to look outside of traditional investments. In the early days of SFi, we started by identifying leaders who were willing to champion impact investments, as Annie had with her community. These leaders were (and still are) the catalysts to help grow the dialogue and activity within the impact ecosystem.

Many SFi’s members have been referred to us through our existing networks, leading to a community that has a high degree of credibility. This is a like-minded community that share an incredible passion for putting their capital behind real change-making and profit-generating opportunities.

Activities
The Investor Circle

SFi members are referred to as our “investor circle”. They generally ask 3 main questions prior to joining.
1. Who in their community is practicing impact investment?
2. What are the impact investment opportunities accessible to them?
3. How can they learn more and be kept up to date with the trends in sustainability and impact.

SFi has developed its services to address these concerns. For example, in our monthly Investor Circle meeting, we present investment opportunities broken down by impact theme, asset class, ticket size, risk tolerance and geography. We have vetted and introduced more than 200 opportunities to date. If an investor is interested in an opportunity, SFi supports the member via due diligence, impact measurement etc. To date, a number of investments have been made through SFi’s deal flow sessions, covering topics such as climate change, food and agriculture, and EdTech (technology-enabled education).

Member learning and education

SFi aims to create a positive, supportive, and collaborative environment where members can reach out to each other. As a measure to achieve this, we offer monthly learning sessions tailored to our members' interests and current events. We call them SFi Brownbag sessions and they cover any topic related to impact and sustainability, with the aim of increasing members' knowledge. Recently, we have tailored topics to members' interests, such as sustainable seafood, ESG Reporting and carbon markets in China.

A tight-knit community

Other events, like social gatherings and field trips, are organised to foster a sense of closeness among members. In the impact investing community, it is not just about capital, but the underlying passion that brings everyone together. Our members have even opened their homes for such occasions. When working with high-net-worth individuals, we have found that personal service is key. We try to build close relationships with all our members, with a deep understanding of their impact and investment goals.

SFi Members
Members have both financial and operational knowledge in investments

The SFi members are generally family offices and private investors. Access to our services is through a paid annual membership with different tiers depending on the member requirements.SFi members are mostly experienced investors. They know what questions to ask beyond returns and timeframes and have knowledge of both financial and business operations. However, a member does not need to be an experienced investor to benefit from SFi’s services. Since our services are quite personal, we can help any investor understand an opportunity from the impact, financial and business angles.

The important influence of “next gens”

SFi members are quite different in age and background. While many are still involved in their primary or family enterprises, some have sold their businesses, are semi-retired or have pursued second careers. A diverse mix of people adds richness to our community. We find that there are also many cross-generational discussions. The younger or “next gen” demographic are convincing the older, more conservative generation to make sustainability-focused changes to their investment portfolio. It can be challenging to change the older generation’s mindset but SFi supports our member’s investment journeys in many ways. SFi does this through training the next gen in how to approach impact investing with their families, setting up mandates and educating financial professionals on how to better understand and communicate sustainability-focused financial products.

Promoting impact investments
Learning through real-life experience of impact investing

Hong Kong is a very philanthropic and charity- minded society. Many people who have been active in philanthropy don’t believe, or don’t realise that they can also make financial returns while delivering on a purpose. We encourage philanthropy practitioners to take an interest in sustainable finance, and understand how impact investing can address social and environmental issues at the root. We believe that a growing number of investors are already making this mindset shift.

SFi members have a range of preferred asset classes and is based on their risk appetite, and some also want to be involved in the operational side of start-ups. Most investors see ESG investing as a start. With banks already introducing so many ESG investments- which usually just support industry, governmental or socially expected compliance- it’s easy to take that first step. To complement, SFi, also focuses on impact investments which have a much more intentional, purposeful output. The next steps could be defining an impact mandate, carving out a segment of your portfolio for this purpose and making that first investment. By approaching impact investing methodically, it becomes clearer and easier to take action.

Introduce investment opportunities that reflect the interests of the community.

We base our investment pipeline on the impact themes and UNSDGs our members are more interested in. Members may have a bias towards Asia, primarily Hong Kong, China and South East Asia, but SFi sources investment opportunities globally. Our community is very international, so communications are mainly in English.

Connecting on a deeper level through knowledge

We are always very conscious of providing the right value for family offices and high-net-worth individuals. SFi aims to create a community that connects on a deeper level, rather than a broad and shallow community. In doing so, our community must be knowledgeable about the issues that bring them together. When it comes to learning, it can be difficult to determine the right amount of information, or how deep we want to dive. If we provide too much think-tank expertise, our members may lose interest. Too little, and they won’t know how to ask the right questions when presented with opportunities. We feel it is important to find the right balance between what they need and what they want.

 

Impact that has been generated
Growing interest in impact investing and building an ecosystem

In recent years, we have seen a robust increase in impact investing fostered by events such as COP26 and other dialogues on climate change, as well as the innovation from impact-driven startups. Hong Kong is a hub of innovation and technology, fueling enthusiasm and attention for new developments. Incubators and other programmes have been also supporting more sustainability and impact-related businesses. Financial institutions are also pushing more sustainable investment products, making it easier for people to support issues they are passionate about. The industry as a whole is becoming less fragmented, and the ecosystem is growing. As more private investors are introduced to introductory ESG investments, they will come to firms such as SFi when they are ready to take the next step towards impact.  For now, most financial institutions are not ready to have conversations with investors growing from “ESG” to “impact”.

 

Future activities
New Impact Society, a platform for learning about impact and sustainable finance

To plug the knowledge and talent gap in sustainable finance, SFi recently launched an online education platform: New Impact Society(NIS). NIS provides short, online and live-streamed courses for financial professionals who want to pivot into sustainable finance careers. By educating professionals on sustainable finance, we aim to make impact investing achievable for more people and to grow the ecosystem where impact initiatives can be better and more consistently funded.

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