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諸藤周平さん「300年先までの未来を見据えて。営利と非営利の現場から社会課題と向き合う。」

諸藤周平(もろふじ・しゅうへい)さん

株式会社REAPRA 代表取締役
一般財団法人活育教育財団 代表理事
一般財団法人雲孫財団 代表理事
株式会社エス・エム・エス 創業者

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50年先、100年先の社会には、どんな課題が待ち受けているのか。諸藤さんは複雑に揺れ動く社会の「いま」を読み解きながら、世代をまたぐような社会課題の解決を目指す起業家への投資や非営利活動に取り組んでいる。自身が創業し現在では時価総額4,000億円にも上る東証一部上場企業を退いたのち、改めて自分と向き合い見出した次なる挑戦が「次世代の社会課題の解決」だった。世代を越えてより豊かな社会の実現を目指し、営利と非営利の現場で活動する諸藤さんの新しいフィランソロピーのかたちとは?

次世代の社会課題と向き合う会社を新たに設立

高齢者の医療や介護などの課題を情報インフラによって支援する株式会社エス・エム・エスを約11年にわたって率いた後、「創業者が長く居座ると、組織の創造性が失われる」と35歳で退任を決意した。起業当初は早期退職してハワイ移住が夢だったというが、経営に向き合う中で、「社会とつながりを持ち続けたい」と考えるようになっていた。

そこで2014年に立ち上げたのが、株式会社REAPRA(リープラ)だ。社名の由来は「リサーチ(研究)とプラクティス(実践)」。人々の生活を良くする経済活動の塊を産業と定義し、次世代の社会課題の解決を目指す起業家に投資することを通じて、産業創造を研究し、実践していくことを活動の主体としている。

「学術研究と企業の実践をもっとつなげられるのではないか、という思いが以前からあった。世代をまたぐ社会課題の解決をする産業を創造するためには、不透明なものを探索する必要がある。研究や実践をする人たちと共に学びながらチャレンジしたいと思った」。

新たな挑戦への原動力となったのは「社会にインパクトを残したい」といった気負いではなく、「自分が不幸にならないように」「充実した人生を送れるように」との思いからだと語るが、「その『充実感』を与えてくれたのが、社会性の獲得だった」と振り返る。企業活動を通して社会とつながっていくことに、幸せを感じていた。

長期的な視点で社会のニーズを探る/活動テーマと起業家のマッチングが鍵

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「次世代の社会課題の解決につながる産業」とは、どんなものなのか。

諸藤さんは「複雑であるがゆえに今は事業として取り組むインセンティブが働きにくいが、今後ニーズが徐々に高まることが予測される領域」と位置づけ、「長期的な時間軸で社会課題に向き合うことが豊かな社会づくりにつながる」と信じる。

Reapraは、こうした新たな産業の創造に取り組む起業家を発掘して育成し、共に研究実践に取り組んでいる。この過程で最もこだわっているのが、起業家の強い動機を特定し、取り組む社会課題のテーマとつなげることだ。不透明な領域で長期にわたって事業に取り組むためには、起業家自身の思いとそのテーマとの強いつながりが不可欠だからだという。

出発点は、起業家への長いインタビューから始まる。「Foundation Design(ファンデーション・デザイン」と呼んでおり、起業家の生い立ちから時間をかけて深く掘り下げていく。どんな家庭環境で育ったか。どんな人生を歩み、どんな人間になりたいか。5人のメンターが半年かけ、インタビューが30時間に及んだ事例もあった。

諸藤さんは「新しい産業をゼロからつくるので、その起業家の深層に眠る動機とつながっていないと継続できない。その人の深層のエネルギーは何か。次世代にまで引き継ぎたいと執着できるものは何か。その上で社会と重なる部分を特定する。その人の『自分らしさ』に事業を紐づけることが重要。個人の執着心を始点として領域を絞り、ライフミッションとして長い時間軸で学習しながら取り組めば、社会性を持った新たな産業ができる」と考える。

防災・人材紹介・農業など多様な社会課題で100人超の起業家を支援

Reapraは設立からこの8年間で、100を超える起業家に投資をしてきた。アジアを舞台として、社会課題のテーマはリサイクル、漁業、農業、気候変動、防災、建設、ジェンダーなど多岐にわたっている。

例えば、ある起業家は防災のプラットフォームをつくる事業に取り組んでいる。この起業家は当初、林業で起業したいと応募してきたものの、数十時間かけてファウンデーションデザインを進めるうちに、「本当は重要なものに光が当てられない今の社会を変えたい」という強い思いがあった。この熱意を生かして取り組める社会課題を検討する中で、「社会を支えるインフラを作りたい」と考え、最終的に防災にまつわる産業づくりに行き着いた。

諸藤さんは「気候変動や自然災害の現状を見ると、防災が将来有望な産業になると予測できる。特に災害大国の日本ではその必要性は明らか。日本から始め、グローバル展開もできる。すでに避難訓練や災害復興、インフラ修繕など色々な会社はあるが、長期的な視野で防災を産業とみて取り組んでいる会社は少ない。ここに、その人の『本当にやりたいこと』がフィットした」と語る。この起業家は現在、防災関連のコンサルティングを行なっており、今後防災関連の製品開発などを進めて防災のプラットフォーム構築を目指す。

「誰もが自分らしく働ける社会づくり」を掲げて起業した事例もある。その起業家は新卒で教育事業関連会社の営業職として地方で勤務していたが、もっとスキルや経験を得たいとベンチャー企業に転職。その後営業マネジャーとして成功したものの、売上至上主義の現場に違和感を感じた。振り返れば地方勤務時代、自分が「人とのつながり」に満たされていたことに気づき、地方を良くする仕事をしたいと思うように。そんな時にReapraに出会い、上述のファウンデーションデザインを経て、「地方に限らず、日本社会では嫌々働いている人が多い。大人が子供のように楽しく働ける社会のためのプラットフォームをつくりたい」との思いが固まった。福岡で起業し、まずは営業職に特化した人材紹介のサービスに取り組んでいるという。

さらなる活動の場を求めて

Reapraの活動は営利を目的とする株式会社というかたちで取り組んでいるが、その一方で、諸藤さんは非営利の組織を通じても社会貢献にチャレンジしている。

2015年に共同設立したのが、教育事業や教育機関の運営などに取り組む「一般財団法人活育教育財団」。「社会とともにイキイキと生き続ける力を引き出す」をモットーに、子供たち一人ひとりが夢中になれることを見つけ、その分野で活躍できるサポートすることを活動の目的としている。諸藤さんは「社会情勢がめまぐるしく変化する現代においては、従来の「知識詰込型・偏差値特化型」ではなく、正解のない不確実な社会を、自分らしくイキイキと生き抜く力が必要とされている」と設立の背景を語っている。

Reapraでは「次世代」(20〜50年先)の社会課題に焦点を当てたが、2021年には「9世代先(約300年先)の子孫の社会」を見据えた一般財団法人雲孫財団を立ち上げた。非営利やアート、自治体、政治の分野などで活躍する人たちとこれまで関わろうとしていなかったことに気づき、積極的に関わりを増やしていく中で、社会課題解決に対するアプローチ方法や時間軸の捉え方が異なることに気づいたという。その経験から、Reapraも含めた株式会社という括りでは、収益を上げるという観点から「長期的」な活動の範囲が制限されることに気づかされ、「非営利であれば営利の世界の外からアプローチでき、より長い時間軸で活動できる」との思いに至った。まだ走り出したばかりだが、現在は福岡県糸島市を舞台として、「今困っていることが確かで、未来の豊さにつながり、株式会社で救えない領域が何か。地元の大学と共同で何かできないか。島を再定義できないかなど試行錯誤している」と話す。

「非営利の世界を知ることにより、営利での新たな学びにもつながるかもしれない」。諸藤さんを突き動かすのは、複雑な社会を読み解こうとする、飽くなき好奇心と探究心だ。そして、新しい会社を立ち上げても、非営利の世界に活動の場を広げても、そこに通じているのは、「長期的な視点で社会を豊かにする」という諸藤さんのライフミッションである。

SIIF藤田淑子、小柴優子

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