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吉村英毅さん 共に歩む人こそが、未来をつくる。拡大を続ける成長戦略の仕組み



プロフィール

吉村英毅(よしむら ひでき)

東京大学経済学部卒業。
2003年大学在学中に株式会社Valcomを創業。
2007年株式会社エアトリを共同創業し代表取締役社長に就任(現在は退任) 。
2016年に東証マザーズ、2017年に東証1部にエアトリを上場。
2017年株式会社ミダスキャピタルを創業。
同年ミダスキャピタル第1号案件として株式会社BuySell Technologiesを買収。後に取締役会長に就任し、2019年東証マザーズ上場。
2022年ミダス企業群の株式会社AViCが東証グロース上場。
2023年ミダス企業群の株式会社GENDAが東証グロース上場。
また、ミダス財団代表理事、ネクストジャパンイニシアティブ共同創設者兼代表理事、1982インパクトファンド代表理事など数多くのソーシャル活動に取り組んでいる。

ビジネス・ソーシャル共に様々な事業を手がけ、年々勢いを増してゆくミダスプロジェクト。代表を務める吉村さんはビジネス事業の発展と共に、フィランソロピーにも大変熱心に取組んでいらっしゃいます。両分野で好循環の発展を続けることができているのはなぜなのか、そして上手くいく鍵はどこにあるのか。プロジェクトの中心である吉村英毅さんに、お話を伺いました。

吉村さんのこれまでと、ミダスキャピタルについて教えてください。またどういったことを大事にしているのかも教えてください。

超長期目線でビジョンに忠実であること。そして、「いかに優れたメンバーでチームを組めるか」を大事にしています。

子どもの頃から読書がすごく好きで、様々な偉人たちの本を読みました。その影響で自然と、「自分も大人になったら社会的影響力がある人間になりたい」と考えるようになりました。中学生くらいの時にマイクロソフトのビル・ゲイツさん、グラミン銀行のムハマド・ユヌスさんがすごく有名になったのを見て、私も会社を起こしてそれを極大化させることができれば影響力を最大化できるのではないか、と思いました。特にムハマド・ユヌスさんに憧れを抱いていたので、社会貢献につながるような事業をつくりたいと強い意志を持つようになりました。

そして実際に起業して様々な事業を手掛けるようになりましたが、ビジネスでもソーシャルでも共通して私が一番大事にしていることは「いかに優れたメンバーでチームを組めるか」ということです。偏っていると言って良いほど、この点に関しては思い入れが強いです。

ミダスキャピタルのミッションは「傑出した才能と技術を集め、世界に新たな価値と景色をもたらす」としています。投資経営の判断基準は、自分たちが経営管理をする中で対象会社を時価総額1000億円以上に出来そうかどうかに設定しています。そのため業種・業態は全く気にしておらず、分野の中で傑出した経営陣の方にジョインしてもらい、企業群としての時価総額のみを追いかけています。私たちは一般的なファンドが最重要視している「IRR(内部収益率)」は気にしておらず、中長期で世界に冠たる企業群を創り上げるというビジョンのみを追いかけています。2017年に自己資金30億円で立ち上げたミダスファンドは、外部へのファンドレイジングをすることなく、運用資産の拡大により2025年現在はファンドサイズ2000億円以上に増加しています。つまり超長期目線で行動することで、結果としてIRRも極大化されると考えています。

長期的には、時価総額100兆円の企業群になることを目指しています。世界に冠たる企業群を創ることで、より大きな影響力を持って世界をよりよい社会に変えていきたい、この企業群に投資して頂いた投資家の資産形成に貢献したい、ミダスキャピタルに関わったメンバー全員に充実した時間を過ごしてもらいたい、ミダス財団を通じた直接的な社会貢献を拡大したい、日本経済活性化の一助になりたい、という思いを持っています。

ミダス財団の大枠の仕組みについて教えていただけますか。

ミダスキャピタルの収益の一部をもとに運営しています。また、サステナブルな仕組みを模索するため、拡大し続けることを目指しています。


(インパクトレポート2025の一ページ)

ミダス財団はビジョンを、「世界中の人々が人生の選択を自ら決定できる社会の創出を目指して、財団資本が最もインパクトを生みだす社会課題領域に取り組む」と定め、ミダスキャピタルの収益の一部で運営しています。財団を設立したのは、自分たちでマネージしながら資本効率を追求し社会的インパクトを最大化したいとの思いからです。学生時代に起業した際、当初はグラミン銀行のようなソーシャルビジネスを目指したかったのですが、実際にやってみると、ビジネスの規模拡大を追求するということと、社会にとっても有益という両軸を目指すことの難しさを実感しました。ビジネスで顧客から選ばれている以上社会に付加価値を提供しているという基本的な考え方は存在すると思いますが、多くのビジネスは代替性が非常に高いためにその会社がなくなっても社会全体の機会損失は限定的ということが現実的には多いと思います。ビジネスは勝ち上がっていき、そこで得られる収益の一部を純然たる社会貢献活動に投じていった方が良いと自分達としては思い、それを実行しています。また私たちは、ミダスキャピタル自体は上場させずに、ミダスキャピタルが管理しているファンドが過半数の株式を所有している会社をどんどん上場させていくというスキームなので、これ自体ビジネス上はコングロマリットディスカウントから解放されている等というメリットが幾つかあるのですが、同時に、自分達が判断すれば収益の一部をソーシャル活動に投じていくことが可能な座組になっています。

ミダス財団では社会インパクトを拡大するために毎年1つ新しい社会課題解決事業を始めるようにしています。ミダスキャピタルの規模が拡大すれば自動的にミダス財団の予算も引きあがっていく仕組みなので、一度始めたソーシャル事業は責任を持って継続していくのですが、毎年新たな社会課題解決に挑戦していく、積み上げ式でソーシャル事業が増えていくような形を志向しています。また、非営利組織は事業規模が一定に留まっているところが多いように感じており、結果働いている方々の給料もずっと横這いなので組織全体が徐々に疲弊し、あまりサステナブルではない構造だと感じています。ソーシャル分野においても資本効率を重視して規模を拡大していき、より優秀な方が参加して更にその方々が長く続けられる仕組みにしたいと思っています。ミダス財団が手掛けているそれぞれの分野の社会貢献活動の拡大と共に、毎年新たな分野での社会貢献活動を開始し、両輪でミダス財団全体の規模拡大を目指していきたいと考えています。

ただ、毎年となると非常にチャレンジングな目標ではあるのですが、一番重要なのは誰がマネージしてどんなチームで取り組むのかだと思っています。適切なチームを支えることができれば十分に可能なことだと感じています。そして、それを実行するためにはミダス財団がそれだけの魅力を持てるかどうかも重要なので、それをしっかりとつくり上げていきたいと思っています。

ミダス財団では、具体的にどういった取組みを行っているのでしょうか。

― インパクト重視で、傑出した仲間と共に事業拡大に挑戦しています。

ミダス財団を設立してソーシャル事業を開始しようと考えた際、まず現在ミダス財団理事に就任して頂いているベトナム出身のミンさん(チャン バン ミン/TRAN VAN MINH)に相談しました。ミンさんは私が以前経営をしていましたエアトリ社のグループ企業で、上場しているハイブリッドテクノロジーズのCEOでした。その繋がりをきっかけに、ミダス財団はベトナムでの教育インフラ整備事業をスタートさせました。ミンさんと一緒であれば、資本効率良く自分たちで事業を直接マネージして社会的インパクトの創出が可能であると信じていました。最初はどんな事業をやるのがベストかわからなかったのですが、やはりミンさんと一緒にやるということを最も大事に考えて動き出してみたところ、非常に良い成果を出すことができました。


建設した学校の校舎開校式にて挨拶する吉村氏


ハノイのSOS子どもの村を訪問した際の写真

次に、国内で何か事業を、と考えていた時現在のミダス財団事業統括である玉川絵里さんがジョインしてくれました。安部代表率いるリディラバ社からサポートを頂きながら、色々な選択肢の中で自分たちが取り組むべき分野を絞り込んでいった結果、特別養子縁組事業をスタートしました。この事業は「NPO法人ストークサポート」と連携して行っていて、現在は「特定非営利活動法人ミダス&ストークサポート」として運営しています。特別養子縁組の課題としては、現在、日本で社会的養護が必要な子どもたちは4万2000人ほどおり、その約8割が乳児院や児童養護施設で育っている状態です。ですが、基本的には18歳になると施設を出ないといけませんし、条件が良いとはあまり言えない状況の中で社会に出ていかざるを得ないケースが多いのです。世界では生みの親が育てることの難しい子どもは養親や里親のもとで、つまり施設ではなく家庭で育つことがスタンダードになっています。この事業では、子どもは成長を見守ってくれる大人がいる家庭で育った方が良いという前提のもと、養親とのマッチングを増やしていこうとしています。


特別養子縁組制度の概要




ミダス財団の玉川と、ミダス&ストークサポートの倉田代表

そもそも日本の特別養子縁組のマッチングは年間600件程に留まっています。日本政府としては年間1000件のマッチングを目標としているのですが、児童相談所のリソースも十分ではなく、民間事業者は体力があるわけではないので、なかなか進んでいない状態です。ですので、私たちが資本や人材リソースを含めてこの課題に本気で取り組めば、社会課題を1つ解決できるのではないかと思い、去年からこの事業を始めました。

私たちは原則年に1つ新たなソーシャル事業に取り組むことにしているのですが、この方針を定めたのは新しいスタッフの方々がジョインしてくれたことで、そういった環境が整ったように思ったからです。ちなみに今年は「子どもの体験格差」の問題に取り組み始めています。海外・国内共に頼もしい仲間がどんどん増員しているので、それに伴い事業も拡大しています。おかげさまで、一緒に取り組んでいるNPO法人がV字回復したり、事業を通じたイベントに延べ500名近い方が参加してくれたりと、各事業においてしっかりとした手応えを感じています。

現在は主に児童福祉をテーマに事業を展開していますが、実は児童福祉にこだわっているわけではありません。財団として、最もインパクトを出せる領域で社会貢献できる事業というインパクト重視の幅広い事業の中で、次に取り組む社会課題を検討しています。

ミダス財団のインパクトレポートを作成されているようですね。なぜ取り組もうと思ったのか教えていただけますか。

― 拡大を続ける活動において、インパクトレポートで可視化することが大事だと思ったから

近く発行するインパクトレポートは、山添真喜子さんがジョインしてくれたことがきっかけで始めることにしました。ミダス財団が追いかけているのは社会的インパクトのみで、様々な事業を直接マネージしつつ拡大を続けていくスタイルです。山添さんと話す中で我々がどのような社会インパクト出しているのかを測って可視化することは、非常に重要なことだと気づきました。

インパクトレポートで社会課題を構造化することで、どこがレバレッジポイント(効果的・効率的に課題を解決できるポイント)なのかを整理したり、現在の状況や立ち位置を整理して世の中の方と共有したりして、新しい財団のあり方を示し、社会課題解決を推進したい方々の選択肢を広げたいと思っています。

起業家の方々がフィランソロピーに踏み込もうとする際、どんなことがボトルネックになっていると思いますか。

― 多忙なこと、寄付先の団体選定が難しいこと、直接取り組もうとしたら初めの一歩が大変なこと、がボトルネックになっていると思います。

企業経営者は自らの会社の企業価値最大化が勿論最優先課題な中、日々大変多忙なことが前提としてあります。フィランソロピー活動を実行しようと思った際に、ソーシャル活動の多くが企業経営者から見たら非効率に見えたり、一方自分達で財団やNPOを立ち上げて直接行おうとするとかなりのリソースが必要となるため、結果フィランドロピー活動に踏み込みづらいということではと思います。私達の場合は思い切って組織内に公益財団法人を設立し、また、ビジネスの従属的な立場として財団があるのではなく、ビジネスのビジョンと財団のビジョンを並列なものとして追いかけていくという思いでそれぞれの事業推進をしているので、フィランフォロピー活動にも多くのリソースを投じることが出来ています。これは、それぞれのビジネスをマネージする企業群各社の傑出した経営陣及び、それぞれのソーシャル活動をリードする傑出した財団メンバーがいるからこそ成り立つことであり、一緒にビジョンを追いかけ続けて頂いている仲間の方々に感謝しています。

「令和政経義塾」や「1982インパクトファンド」というフィランソロピー活動もスタートされましたが、吉村さんのなかでフィランソロピーに懸ける想いがここ数年で加速しているのでしょうか。

― 仕組みを整えることで、昔から抱いていたフィランソロピーへの思いを実現させています

急にフィランソロピーへの思いが加速したわけではなく、例えばシンクタンク設立に関しては、昔から「長期衰退傾向にある日本を再び蘇らせていきたい」という思いを抱いてはいたのですが、その観点で政治的努力をするとしたらどういった方法が良いのかを見極めるのが難しかったのです。そんな中で、世界的シンクタンカーの船橋洋一先生から定期的にご指導いただく機会に恵まれて、先生とのディスカッションの中から「一般財団法人 ネクストジャパン・イニシアティブ(NXJI)」というシンクタンクを立ち上げることになりました。その第一弾として次世代の政治リーダーと政策起業家の輩出を目指す「令和政経義塾」を創設しました。

そして「1982インパクトファンド」は、1982年生まれのメンバーが集まり、その資金とビジネスノウハウを提供することで、インパクトが大きく持続可能なソーシャルビジネスを作り出すことを目的としたファンドです。最大の特徴は、出資先が上場等をしてリターンが出たとしても、私達出資者にはお金は返ってこずに、またソーシャルビジネスへの再投資に回していくという、純然な社会貢献活動として行っていることです。最初は同い年である創業者たちと集まって食事をするだけの会だったのですが、定期的に集まるのであればせっかくならプロジェクトを一緒にやるほうが面白いのではないかと思って始めました。異分野のビジネスセクターで頑張ってきた仲間が集まって、社会課題解決型のソーシャルビジネスの支援に取り組んでいるので、今後益々面白いインパクト創出に繋がるのではないかと期待しています。

繰り返しになりますが、私が非常に大事にしているのは、「いかに優れたメンバーでチームを組めるか」ということです。ビジネス分野でもソーシャル分野でも傑出した人たちと共に歩み、拡大し続けていきたいです。

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