KNOWLEDGE
プロフィール
冨田 和成(とみた かずまさ)
株式会社ZUU 代表取締役社長1982年生まれ。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事する。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。
監査法人トーマツ主催「日本テクノロジー Fast 50」にて2年連続上位受賞(2016年度日本1位・アジア太平洋地域8位、2017年度日本3位)。2018年6月、会社設立から約5年で東京証券取引所マザーズ市場に上場。著書にシリーズ20万部を超える『鬼速PDCA』他多数。
金融業界で培った知識と経験をもとに、日本人の金融リテラシー向上に尽力してきた冨田和成さん。近年はその活動の幅をソーシャル分野にも広げ、「誰もが、どこにいても、何歳でも、全力で挑戦できる世界」を目指して、多角的なアプローチに取り組んでいます。
情熱と寛容さをあわせ持ち、社会に前向きな変化を生み出そうとする冨田さんに、お話を伺いました。
― 金融教育、社会的企業の資金調達支援、スポーツチーム支援、故郷の地域活性化支援など、様々です。
私の経歴をご紹介します。ZUUを立ち上げる前は、野村証券でプライベートバンカーを務めていました。また、世界で唯一プライベートバンカーの学位が取得できるシンガポールの大学院でも学びました。現在は、自身でも資産運用を行っています。つまり、個人資産の運用において「実務・理論・実践」のすべてを経験してきたことになります。
そうした私が、会社を通じて取り組んでいる社会貢献活動の一つが、金融教育です。もともとは社会人向けの金融教育を事業として行っていましたが、4年前からは「学校での金融教育」にも着手しました。また、社会的企業への「資金調達支援」にも積極的に取り組んでいます。
個人としても、仲間と始めた「社会課題の解決と経済的リターンの両立」を目指すベンチャー企業への投資「1982インパクトファンド」や、地域を盛り上げる「スポーツチームの支援」、そして「故郷・川崎市での地域活性化」など、幅広く活動を行っています。
― 日本人の金融リテラシーの底上げの必要性を感じたからです。
金融業界にいた頃、「金融機関と顧客との間にある情報格差をなくしたい」という強い思いが芽生えました。
金融機関側にいた私は、金融情報にアクセスできないことで不利益を被っているお客さまが少なからずいる現実を目の当たりにしました。もちろん業界側にも課題はありますが、それ以上に個人の金融リテラシーの低さが深刻だと感じました。これこそが、日本で資産運用や資産管理が発展しなかった大きな要因だと思ったのです。
個人の金融教育を進め、リテラシーの底上げを図らなければ、業界そのものが健全に育たない。そう考え、金融情報メディア「ZUU online」を立ち上げました。
それまで業界内にとどまっていた専門的な情報を、個人にも届けるメディアにしたいと考えたのです。
当時、株価や為替が「上がるかもしれない」といった表層的な情報を扱うサイトは存在していましたが、個人のバランスシートや資産全体のリスク管理、承継などに役立つ実践的な情報を提供するサイトはほとんどありませんでした。
現在では、ZUUグループ運営メディア全体で月間2000万人以上に利用される、国内最大級の金融情報サイトにまで成長しています。
当初は大人向けのメディアとして運営していましたが、やがて「根本的な問題解決には、若いうちからの教育が不可欠だ」と強く感じるようになりました。ちょうどその頃、高等学校での金融教育が必修化されたこともあり、「学校での金融教育」にも取り組み始めました。
現在は、小・中・高校生向けに、私たちがこれまで蓄積してきた金融の知識やノウハウを、「ZUU online 金融教育ナビ」を通じて伝えたり、出張授業を行ったりしています。
実際にやってみると、若い世代の吸収力の高さに驚かされます。単に学ぶ機会がなかっただけで、正しい知識を得ることで、金融への見方が大きく変わるのです。
この活動を通じて、将来的にしっかりと資産を築ける人が増えれば、「老後2,000万円問題」にも対応できる人が増え、日本の未来にも貢献できると信じています。
― ありません。業界批判はせず、正しいことだけを真剣に伝え続けてきました。
特に反発はありませんでした。立ち上げ当初から、業界批判やジャーナリズム的な論調は一切行わず、正しい情報を誠実に伝えることに徹してきたからだと思います。
誰かを否定するようなやり方では、持続可能な良い社会は築けないと考えています。
だからこそ、業界の深い情報をわかりやすく届けることに集中しました。
正しいことを伝え続ければ、きちんと伝わる。そう信じてきたことが、広く受け入れられた理由だと思います。
― 例えばDEAへの10億円の投資。ゲームを通じて多様な人々へ雇用機会を生み出します。
ZUUグループでは、社会課題の解決に挑む企業(挑戦者)と、それを支援したい投資家(応援者)をつなぎ、資金提供と成長支援を行っています。
たとえば、2週間で約10億円を調達した事例があります。Web3企業のDEA(Digital Entertainment Asset)に対して、「ZUUターゲットファンド」から投資を行ったケースです。
DEAは、DePIN(分散型物理インフラネットワーク)とゲーミフィケーションを活用し、社会課題の解決を図る企業です。具体的には、電柱を撮影してインフラ点検に貢献する「PicTrée(ピクトレ)」や、AIロボットによる遠隔ゴミ分別を行う「Eco Catcher Battle」などのサービスを展開しています。
同社が提供する課題解決型ゲームプラットフォーム「PlayMining」では、ゲームを楽しみながら収益を得る「Play to Earn」の仕組みを採用。たとえば「PicTrée(ピクトレ)」では、電柱の写真を撮影することで東京電力のシステムと連携し、インフラ管理コストの削減に貢献します。この仕組みにより、子どもや高齢者、障がい者、観光客などが散歩感覚で参加し、報酬を得られるようになります。こうした新しいモデルが、多様な人々に雇用機会を生み出す可能性があると考えています。
― 夢はサッカー選手でした。スポーツ支援で「誰もが全力で挑戦できる世界」をつくりたい。
私は小学3年生から大学までずっとサッカーを続けており、当時は本気でプロサッカー選手を目指していました。途中でヘルニアを患い、夢は起業家へと変わりましたが、今でもスポーツへの思い入れは人一倍強く持っています。
そんな背景があり、全国各地の地域に根ざしたスポーツチームの支援を、個人として行っています。スポーツの力には、人と人とをつなげ、地域を盛り上げる力があると信じています。
たとえば、横浜FC(サッカー)やVOREAS北海道(バレーボール)、京都ハンナリーズ(バスケットボール)などを支援しています。京都ハンナリーズには寄付を通じて、児童養護施設の子どもたちを試合に招待する活動を行いました。チケットやグッズをプレゼントし、特別な体験を届けることができました。FC琉球OKINAWA(サッカー)の株主にもなり、地域活性化に貢献したいと考えています。
社会貢献を持続的に展開するうえで大切なのは、実際に行動し、活動を動かしてくれる人がいることです。お金を出すだけではなく、現場を動かし成果につなげる仕組みが重要だと考えています。ですので、地縁よりも、そういう人がいる地域や組織と組んでいます。
私の人生のパーパスは、「誰もが、どこにいても、何歳でも、全力で挑戦できる世界をつくる」こと。この理念のもと、スポーツを通じて地域支援の取り組みを続けています。
― 利他精神にあふれる両親と、米国の起業家からの影響です。
私がソーシャルな活動に関心を持つようになった背景には、両親の影響があります。両親は、障がい者支援の活動を通じて出会い結婚した人たちで、私は物心つく前からそうした活動に自然と関わってきました。父は、自分の家庭よりも困っている人を助けようとする人でした。このように利他の精神を大切にする家庭で育ったことが、今の私の原点だと思います。
もう一つの大きなきっかけは、2010〜2011年頃によく訪れていたアメリカでの経験です。当時、米国のプライベートバンカーたちから、「起業家と社会貢献は切り離せない関係にある」とよく聞いていました。先行する起業家たちにとって当たり前の社会貢献を、私も空気のように感じていました。
そうした環境の中にいたことで、私にとっても社会的な活動に関わることは、ごく自然な選択だったと思います。
― 「社会課題の応援」と「投資リターン」が両立する仕組みをつくりたい
「社会課題の応援」と「投資リターン」を両立させる仕組みをつくりたいと考えています。というのも、これまで個人投資の市場で、投資が一気に広がる瞬間を何度か目にしてきたからです。
たとえば、「ワクチン債」や「地球温暖化対策ファンド」といった社会課題に関連する金融商品が登場したとき、普段は投資をしないような人たちが、積極的に資金を投じていました。
この経験から、「社会的な意義」と「経済的リターン」が両立することで、大きなお金の流れが生まれるという仮説を持っています。それを実証し、より多くの人が無理なく社会に関われる仕組みを形にしていきたいと思っています。
金融という緊張感のある世界に身を置きながらも、どこか優しさを感じさせる冨田さん。
「誰かを否定するようなやり方では、良い社会は築けない」という言葉に、冨田さんの社会課題への向き合い方、その哲学が強く表れていると感じました。
現状を否定するのではなく、未来の可能性を信じ、ともに前を向こうと呼びかける姿勢。それが、多様なステークホルダーと良好な関係を築き、活動を力強く前進させる原動力になっているのだと思います。
今後のさらなるご活躍に、心から期待しています。
インタビューアー
PA Inc. 代表取締役 藤田淑子
TOP