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一般財団法人 ルビ財団 代表理事・伊藤豊さん フィランソロピーの実践、財団運営のリアル

 「志に忠実に非営利側に身を振ってみたいと思うようになった」

伊藤豊さんプロフィール

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伊藤豊(いとう ゆたか)さん
一般財団法人ルビ財団 代表理事
KMFG株式会社 代表取締役
スローガン株式会社(東証グロース)創業者

1977年栃木県宇都宮市生まれ。東京大学理科一類入学ののちに文転。文学部行動文化学科(心理学)卒業。
2000年に日本アイ・ビー・エムに入社。
2005年末にスローガンを設立。「人の可能性を引き出し 才能を最適に配置することで 新産業を創出し続ける」をミッションにGoodfind(新卒・転職などキャリア領域)を中心にFastGrowなど複数の事業を展開。
2021年1月末に初の著書「Shapers 新産業をつくる思考法」を出版。
2021年度より経済同友会ノミネートメンバーに選出され教育改革委員会副委員長を務める。
2021年11月にIPO。
2022年東大創業者の会ファンドを設立し、東大出身の起業家への出資・支援を開始。
2023年2月末にスローガンの社長を退任。KMFG株式会社にてスタートアップ向けアドバイザーを複数社。エルテス(東証グロース)、Touch To Goの社外取締役。非営利領域においては、ルビ財団の代表理事、一般財団Soilのアドバイザー他、栃木・宇都宮の活性化にも関わる。

インタビュアー

PA inc. 代表取締役 藤田淑子(ふじた よしこ)

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「社会にふりがな(ルビ)を適切に増やすことで、あらゆる人が学びやすく、多文化が共生する社会づくりを目指そう」。

今年5月に、マネックス創業者の松本大さんによって設立された一般財団法人ルビ財団。スローガン(株)創業者の伊藤豊さんが代表理事を務めるなど、起業家による財団として注目が集まっています。

今回は、ルビ財団以外にも様々な社会貢献活動を手掛ける伊藤さんをお招きし、財団運営の楽しさ、課題、PA inc.の「フィランソロピー・スターター・サポート」についての感想などを伺いました。

ーーー

意外にも、田園風景の中で育つ

藤田:まずは、生い立ちからお伺いします。ご出身は栃木県宇都宮市ですね?

伊藤:はい。でも、元々は河内郡河内町の出身で、僕が大人になってから宇都宮市と合併したんです。

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伊藤:これは僕が中学一年生の時に描いた、校庭から見渡した風景の図なんですが、見ての通り一面、田園風景。ちなみにこれは美術展で入賞もしたんです。ちょっと曇り空で、当時の僕の心を表しているようです(笑)。

藤田:言葉のセンスがものすごいと思っていましたが、絵の才能まで!本当に多彩ですね。ところで、子どものころから起業にあこがれをもっておられたのですか?

伊藤:全くなかったです。僕は栃木から新幹線通学で開成高校に通って、その後、東大にまで行ったので、よく周りから地元の名士の息子なんじゃないかと勘違いされるんですけど(笑)、そんなことはなくて。母方の親族で初の大卒者が僕というくらいで、身内にロールモデルになる人がいなかったんです。だから起業するなんて発想も当時は全くなかったですね。就職する時も、就職しか道はないと思っていたくらいです。

起業は成り行き⁉小さなきっかけが大きな決断に 

藤田:東大を卒業後『日本アイ・ビー・エム』に入社されていますよね。なぜ、IBMに?

伊藤:僕の気質には、終身雇用とか日本らしい組織体系は合わないだろうなとわかっていたので外資系の会社に行きたいなと思っていました。それと当時は、ますますITが必要とされる時代だったので、“ITができる側”に回らないとまずいなと思ったので。

藤田:なぜ就職して5年後にスローガン㈱を起業しようという気持になったのでしょうか?

伊藤:あまり公開のインタビューでは語ったことがないのですが、本当のきっかけは“成り行き”です(笑)。実は会社員時代に、3人くらいから同時に「転職しないか」と誘われた時期があったんです。でもなかなか上手く断れなくて、うっかり「いや、自分で起業したいんです」と言っちゃって。そしたら皆さん「じゃあしょうがないね」と引き下がってくれたのですが、三方向に“起業したい”と宣言することになってしまったので、それなら本気で考えてみようかなというのがキッカケです。

でも、どうせ起業するなら社会的な課題解決がしたいなと思って、真面目に考えました。2004年当時は働いていた会社の日本支社が縮小し、裁量がどんどんなくなっていったので、世界における日本の地位が沈下していったように感じていました。そしてそれは日本全体の縮図ではないかとも思ったんです。人口減少・少子高齢化は仕方のないことだけど、何かしら抗うことができないかと考え“人材の配置問題”という仮説にたどり着きました。当時、こういった問題意識で社会課題に取り組んでいる会社がなかったので、じゃあ自分でやるしかないなと思い起業しました。

上場(東証グロース)。そして、40代でサクセッション

藤田:そして、スローガン㈱を2005年に設立し、2021年11月に東証グロース市場に上場。しかし、1年3か月後に伊藤さんは代表取締役を退任されていますね。どのようなお考えだったのでしょうか。

伊藤:38歳の時に、40代のうちに次の社長に経営を渡してサクセッションをしよう、要は若い世代にバトンパスをしようと決めました。そこから7年間かけて経営チームをつくり次の社長に引き継ぎました。
なので45歳の時にスローガン㈱を辞めたのですが、正直辞める2~3年前は「辞めた後どうするんだろう」みたいなことを結構考えていました。そういったことを考える中で、次も株式会社でできることを、と考えると「じゃあ、スローガン㈱でやればいいじゃん」という考えに行き着いてしまうなと思ったので、それだったら非営利の領域で何かやってみたいなと。

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藤田:スローガン㈱で経営されていた頃は、最初から上場を目指していたのですか?

伊藤:全く目指していなかったですね。起業当初から「上場したいと思ったときに上場できるくらいの会社にしたいな」とは思っていたのですが、それはいわゆる“会社を私物化しない”という思いからです。なので上場を目指すという考えは当時は全くなかったです。

ただ、10年ほど経営したタイミングで、「10年やってこの程度なんだな…」と自分の能力への限界を感じました。そう思ってしまった時に、「じゃあいつまでやるんだろう」と。

スローガン㈱の事業と自分のライフミッションは非常にマッチしていたので、意義のある事業をやっているという自負を持っていましたし、今でもそう思っています。それだったら60歳まで経営に携わってもいいし、なんなら半永久的に…とも思ったんですけど、会社にとって果たしてそれが良いことなのかや、自分の成長のために良いのかと考えると、長くやりすぎないほうが良いのかなとも考えて。

そう考える中でサクセッションしている人について色々と調べてみると、バトンパスをしようとして会長になったはいいがまた社長に返り咲くみたいなパターンも多いことを知りました。それだったら、サクセッションは難しいことだけど、40代でやってみるというのはチャレンジングなのかなと思い、それを目指し始めました。

そして、サクセッションするなら、きちんとパブリックな存在である上場企業の社長というポジションを用意すれば誰かが手を挙げてくれるかなと。もし僕が大株主として残る未上場の会社だとしたら、誰も社長をやりたがらないだろうなと思ったので。そういう意味でも公開企業にするのが必然かなと考えて上場を目指したという感じですね。

もう少し正確な理由を言うと、スローガン㈱は人材ビジネスをやっていて、かつ若い人材の才能を引き出して新しい産業に繋げていくということをやっていたんです。だから、“人の可能性を引き出す”ということをミッションとしてよく言っていたんですね。“人の才能を引き出す”って僕自身が言っているのに、60歳まで「やっぱり僕が社長やんなきゃダメでしょ」なんて言うのは可笑しな話で(笑)、幹部や経営人材の可能性を引き出せていないという大きな自己矛盾があるなと気づきました。

だから、僕が40代のうちに一回りくらい年下の社長にバトンパスしたほうが、“人の可能性を引き出す”とミッションで掲げている会社にふさわしいんじゃないかと思ったのが一番大きかったですね。

藤田:実際に上場した時はどんなお気持ちでしたか?

伊藤:なんというか、プロセス的な感じでやっていたので上場したからといってはしゃぐみたいなことは全くありませんでした。上場した当日もめちゃくちゃ無表情だったので、社員たちから「何かトラブルでもあったのか」と心配されました(笑)。僕としては必要なプロセスを踏んだだけという気持だったんですけどね。

辞めてみると、どんどん仕事が集まってきた

伊藤:でも、いざ退任するとなると「あれ、でもこれから自分は無職だな。来年から仕事なくなるし、収入ゼロになるの嫌だな」と思い始めて、正直やや焦りました(笑)。本当に何も決めていなかったので、「辞めました」って色んな人に言っていたら、「じゃあこういうのやってみる?」とか「手伝ってくれない?」とお声がけいただくことが意外と多くてありがたく感じました。

現在は『東大創業者の会ファンド』、スタートアップ向けのアドバイザーを5社、それから社外取締役を2社やっています。それと、マネックスグループの松本大さんとお話しする中で意気投合したのがキッカケで『ルビ財団』の代表理事もやっています。

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藤田:私たちPA inc.のスターター・サポート事業のクライアント第一号が『ルビ財団』でした。

伊藤:ルビ財団の代表理事も成り行きで決まりました(笑)。松本さんから「こういう活動をやりたいんだよね」っていうお話を聞いて、僕も「それめっちゃいいと思います。やりましょうよ」という流れで藤田さん達(PA inc.)にも協力してもらって設立したんですけど、当初僕が代表理事になるとは思っていなくて。設立準備を進める中で松本さんに「代表理事は伊藤だろ?」と言われて「僕ですか⁉」と(笑)。そういう経緯でルビ財団の代表理事をやっていますね。

藤田:PA.incが『ルビ財団』のスターターサポートや運営に当初から関わらせていただいているのですが、一緒にやってみていかがでしょうか?

伊藤:率直に、非常に助かっていますね。相談事に対してもすごく柔軟に対応してもらっていますし、本音でのコミュニケーションがしやすいです。僕らも財団をつくるとなった時に全くわからないところからスタートしているので、気軽に相談できるパートナーとして心強いです。

PA inc.はアウトソーシングというより、一緒につくっていくというスタイルなので、仲間としてご一緒できているのはありがたいですし本当に頼もしいなと思っています。PA inc.がいなかったらここまで上手く運営できていなかったんじゃないかなと思います。

営利と非営利、両方の視点で社会課題を見つめなおす

藤田:現在の伊藤さんは、非営利の社会活動やフィランソロピー活動に没頭されている印象がありますが、実際にやってみてご自身に何か変化は起きましたか?

伊藤:はい、すごく起きている実感がありますね。ルビ財団が一番わかりやすいと思うんですけど、この財団のミッションはシンプルにルビ、つまりふりがなを広めることなんです。この背景には教育や文化の面での社会課題に向き合いたいという志があります。その解決手段としてルビに着目しているんです。

スローガン㈱も元々は社会課題の解決を志して創った会社なんですけど、設立当時は時代が少し早かったというか、「(そんな事業は)儲からなさそうだ」とか「NPOでやったら」とか散々ボロクソに言われていました(笑)。つまり、僕にとって”志”のような要素は昔から持っている大事なものなので、志に忠実に非営利側に身を振ってみたいと思うようになったのが大きな変化でした。

藤田:『ルビ財団』という名前を最初に聞いたとき、直球でびっくりしました(笑)。

伊藤:ルビをテーマにした活動でビジネスを起業すると言ったら、きっと多くの人から「どうやってマネタイズするの?」とか「スケールできないでしょ?」と大反対されていたと思います。でも、財団として非営利でやることで「マネタイズやビジネスモデルはこの活動にはいらないんです。松本大さんの寄付で当面は活動するので収益モデルは必要ないんです」という理屈が許される。

世の中にはあまりにも『マネタイズ』などの資本主義的な言葉で潰されちゃっているアイデアがいっぱいあるなと、この活動を始めてより実感しました。実は収益モデルを描きやすいものって(社会課題の解決における)スコープが狭いので、その外側に“より社会がよくなる可能性のあるもの”が本当はたくさんあるんだということにお恥ずかしながらやっと気づくことができましたね。

これまでスローガン㈱で17年間資本主義的なところにどっぷりと浸かっていた自分としては、(財団の運営を通して)そういった多くの気づきがあった1年だったなと思います。

藤田:逆に財団の運営で、難しさを感じることはありませんか?

伊藤:ビジネスとは違って、売り上げや利益などの“わかりやすい指標”がないので、自分たちの活動が適正かどうかのセルフチェックをするのが難しいなとは思いますね。その辺りも含めて試行錯誤しながら進んでいます。

各団体のテーマや活動によってアプローチがそれぞれ変わると思うので、模索しながら進むのが少し難しいなと感じながらやっていますね。

藤田:非営利での社会課題解決を目指す上では、ある程度目途を立てて始めるというよりは、実際にやっていくうちに方向性が見えてきたという感じでしょうか?

伊藤:そうですね、そういう部分はすごくあると思います。

例えば、ルビ財団の活動で少年院の見学に行ったのですが、もしもこれがスローガン㈱時代だったら「会社としてどういう効果があるんだろう?」と考えて行かなかったかもしれないなと思うんです。でも、そういう思考から解き放たれて、純粋に“自分の知らないことを知りたい”という知的好奇心に従って行動することが、この一年ですごくできるようになってきているので、世界が広がったような実感があります。

そして、そうやって得た知識も最終的には全て自分の活動に着地するという感覚は持っているので『営利』と『非営利』の両方のアングルからモノを見るということはすごくいいんじゃないかなと思っていますね。

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これからフィランソロピー活動を始めようとしている方へ

藤田:最後に、これから社会貢献活動を始めようと考えている方に、ぜひアドバイスをお願いします。

伊藤: 僕自身もそうだったのですが、社会貢献やフィランソロピー活動をしたいなという漠然とした思いだけだと、間接的に足を突っ込むレベルで終わっちゃってそれ以上にはならないように思います。やっぱり起業する時と同じように独自のアングルで“見つけちゃった”テーマを追うことが大事なように思います。

そういった起業家的な独自の仮説が、ある時にカチッとハマる瞬間がある気がしていて。そのピースが見つかると、すごいエネルギーが生まれ始める。だから、社会貢献やフィランソロピーの分野においても「この仮説を実現出来たら面白いだろうな」という視点が必要かなと思います。

逆に、社会貢献やフィランソロピー活動を片手間でやっている人は、カチッとハマるピースが見つかっていないだけなんじゃないかなと思いますね。自分にとってモチベーション高くできるシナリオが見つかれば、営利と非営利のたとえ両方でもやり続けることができると思います。

それと、他の人が手を出していないようなことを見つけるのも、熱を上げていく上で必要だと思うので、そういうところを模索していく人が増えればいいなあと思っていますね。

藤田:“見つけちゃった”という言葉が印象的だなと思いました。見つけようとするのではなく、色んなことをやる中で見つけちゃったものがカチッとハマる瞬間が来る。そうなるにはそれなりの時間もかかると思いますし、真剣にやればやるほど面白いものが見えてくるのかなと思いました。

伊藤さんが実践されるフィランソロピー活動を、これからも追っていきたいと思っています!今日は貴重なお話をありがとうございました。

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