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諸藤周平さん 新時代の成功ルート開拓へ。キーワードは『調和』



プロフィール

諸藤 周平(もろふじ しゅうへい)

1977年生まれ。九州大学経済学部卒業。「(株)エス・エム・エス」の創業者、社長として同社の東証一部上場、アジア展開などを牽引し、退任。2014年に「REAPRA(リープラ)」をシンガポールにて創業。アジアを中心に、社会課題を解決する産業の創造に向けた支援をおこなう。2015年に、教育を通じて人々がイキイキと生き続ける力を引き出し、社会の健全な発展に貢献する「一般財団法人活育財団」を共同代表理事として設立。2021年に、9世代先を見据えた社会づくりを模索する「一般財団法人雲孫財団」を代表理事として設立。

36歳で自身が創業した「(株)エス・エム・エス」代表を退いた後、「産業ができる構造や、人の内面構造にも興味が湧いた」ことで「世代をまたぐ社会課題の解決」に取り組もうと営利・非営利を問わず活動を続ける諸藤さん。

社会構造を変えることを視野に入れつつ、長期的かつ持続的な幸せの形を模索する諸藤周平さんに、お話を伺いました。

諸藤さんの過去のインタビュー(2022.7.21)はこちら

諸藤さんの飽くなき探究心はどこから湧いてくるのでしょうか?

ー 新しい産業を創出するために、既存の社会システムがどのように揺らいでいるのかを知りたい

僕が根源的に持っているテーマは、「既存の社会システムがどういう風に揺らいでいるのかを知りたい」というものです。
なので、営利なのか非営利なのかとか、短期的なリターンが見込めるのか等はあまり重視しておらず、単に実験しているだけのような感覚で投資したり株式会社や財団の運営をしたりしています。正直に言うと、自分が立っている土俵において「どうして短期的なリターンが必要なのか」ということも、よくわかっていないような気がします。

というのも、何をやるにも足元にセーフティーネットを敷けるわけではないのだからそれならリサーチの方にまず資金を投じれば良いのでは、とシンプルに思っているだけだからです。ただ、将来含みで自分の活動がリターンとして増えると直感しているので純資産を投じてやっているだけですね。

生きていく上で、諸藤さんが指針にされていることは何ですか?

自分の内面を見つめることで、新しい成功法則のルートが見えてきた

現代の傾向として、資産をつくった人たちが皆一様に「自分たちの資産を守るために増やさねば」と執着することが、僕にとっては不思議です。これらの行動原理はおそらく西洋略奪型のパイオニアスピリッツからきていて、元々は宗教観から来るものであり、同時にキャピタリズムが並行して成長を続けたからこそ、空気を吸うように当たり前なものとして「インパクト拡大主義」という発想が定着しているのではないかと思います。そしてこの価値観に基づく行動自体は全然悪いことではないと僕は思っています。でも、成功の価値観が「インパクト拡大主義」に基づくものばかりでバラエティーに乏しい今の世界の状況に少し違和感を感じます。

一方で、当初は同じようにパイオニアスピリッツを持ってアフリカから出てきたはずなのに、島国から出られず落ち着いたのが日本人であって、「調和」しながら生き延びるしか方法がなかったわけです。僕は、今まで日本人としての帰属意識を全く持っていなかったのですが、どうしてもアメリカ人のようにユニークになれないのは日本に育ったことが一因としてあるんだろうなと最近つくづく感じています。要するに、西洋的価値観に浸食されたキャピタリズムに違和感を覚えると同時に、「調和」を生存戦略にせざるを得ない東洋的価値観が刻まれている自分は「無意識に次の世代から追い出される恐怖心に駆られていたんだな」と内省を深めることで気づきました。

でもそんな現代の状況の中で、次の世代くらいまでのことを考慮した「プラネタリーヒューマンウェルビーイング」に「調和」の意識のもと取り組めば、従来の西洋的キャピタリズムとは別のルートが拓けるのではないかと思っています。その領域で日本人がリーダーシップを取ることは非常に合理的です。なので、僕は長期の視点で「リターンを意識しない投資実験」を行い、ここに埋もれている可能性を探りたいなと思っています。

「REAPRA(リープラ)」では、どういった活動をしているのでしょうか?また、何を目指しているのでしょうか?

ー  「調和」を主軸とした産業創出を目指すカタリストになりたい


(出典:REAPRA

リープラでは世代をまたぐ社会課題を解決する産業を生み出す起業家支援をしています。
長期的な視点での社会課題の解決について考えた時に、今後アジアがリーダーシップを取っていけるのは全て「ウェルビーイング」に帰する領域ではないかという仮説を立てています。今後は「ウェルビーイングに資するような領域でビジネスをやらないと許されませんよ」という流れが起こるのが不可逆だと僕は思っているので、東洋的な「調和」を主軸とした産業創出を目指すカタリストになりたいと思っています。

そういった仮説の元、リープラのビジョンの一部を「プラネタリーヒューマンウェルビーング*に紐づく、世代をまたぐ社会課題を解決する産業の創出」と定めました。この分野の産業の創出において2043年までにグローバルリーダーになることを目標に、フェローシップを募る活動等をここ1年ほどでスタートしています。

なぜ「プラネタリーヒューマンウェルビーイング」なのかというと、「世代をまたぐ社会課題」の解決に執着している人と共に新たな産業創出を目指すということは既に顕在化していたりこれから顕在化するであろう次世代にも関わる社会課題に向き合うことであり、それらは突き詰めると「ウェルビーイング度を上げること」で解決すると思っているからです。そして、人と地球は相互に関係し合っているので、人だけ・地球環境だけと切り離さず、お互いのウェルビーイングを高め合うことが重要なので「プラネタリーヒューマンウェルビーング」と枠を定めました。ただ、非常に抽象性が高いことをやろうとしているので、この領域でメソッドを編み出すにはそれなりのデータや共同学習が必要になってきます。共同体としてこういった課題に取り組む際に、出資関係であることがベストなのかどうかについてはまだ答えが出せていないのですが、投資という形でも引き続き向き合っていきたいと思っています。

*プラネタリーヒューマンウェルビーイング(Planetary Human Well-being)
地球と人間は切り離せないという前提のもと、地球環境の健康と人間のウェルビーイング(幸福感、心身の健康)を同時に実現していく考え方。単に個人の幸福だけでなく、地球全体の持続可能性を考慮したウェルビーイングを追求する概念。 

「一般財団法人 雲孫財団」は9世代先を見据えた超長期の取り組みですが、どういった目的で活動しているのでしょうか?

雲孫世代にわたる持続可能な社会体制の構築を目指したい


(出典:雲孫財団)

「雲孫」とは自分から数えて9世代目(約300年)の孫を表わす言葉です。面白いことにこれ以上先の孫にはこういった名前が付いていません。なので、昔の人は9世代というレンジに何かを感じていたのかもしれないなと思い「雲孫財団」としました。僕は「既存の社会システムがどういう風に揺らいでいるのかを知りたい」と思っているので、「雲孫」という超長期の枠の中で財団運営をすることで、新たな可能性が芽を出すのではないかと考えています。

福岡県・糸島を拠点に選んだのは、元々海で釣りをすることが好きで、昔からたまに通っていたからです。人と自然が程よく交わる糸島で、プラネタリーヒューマンウェルビーイングを意識した雲孫世代にわたる持続可能な社会体制の構築が可能かどうか興味があります。そして、非営利でやることで関わる人々がそれぞれの動機で「自分らしさ」のパフォーマンスを最大化し、世代をまたぐ持続可能な社会体制構築の鍵となる新たなムーブメントが起きるのではないかと思っています。

「雲孫」とは「概念」でしかなく抽象性が高いので、設立から数年間はあえて時間をかけて、雲孫財団の拠点を整備したり糸島を中心に地元の方々との関係構築を図ったりして具体的な方向性を模索しました。その甲斐あって、いくつかのプロジェクトが形になりそうです。例えば、国内アーティストを巻き込んだプロジェクトを行ったり、2026年にはコロンビア大学と協働でサマープロジェクトを開催したりする予定です。このような活動を通じて「雲孫財団」に関わる人々がそれぞれの「雲孫」を体現して、正の循環が起きると良いなと思っています。

今年で設立10年目を迎える「一般財団法人 活育財団」ですが、どのような活動をしているのでしょうか?

 「活育」という概念を広く波及するために、「事業」・「資金提供」・「ネットワーキング」を実施


(出典:活育財団)

「活育財団」は「社会とともにイキイキと生き続ける力を引き出す」をミッションとしています。主に18歳までの公教育を含んだ多くの人たちを対象に、カリキュラムを波及させたいと思って活動しています。何をもって「イキイキと生きている」と言えるのかというと、「ウェルビーイング度が高いこと」でその状態がデータに表れるのではないかと僕は思っています。そして、これを体現するには社会との何らかの接点も必要だと思うので、リーダーシップの意識を持ちながら取り組める人たちを育んでいきたいです。

現在の活動内容は主に「事業」、「資金提供」、「ネットワーキング」の3つに収れんしています。一つ目の「事業」は、イキイキと生きる人を実際に輩出する目的での学校運営です。学校法人を取得したので、これから実際に運営を始める予定です。二つ目の「資金提供」は、この目的に準じたプログラムをつくっている機関や、そういったデータを取ろうとしているアカデミアの支援です。具体的には、OECDが支援するチャイルドウェルビーイングをアジアのパートナーとして共に表彰支援したり、一部活動を社会に打ち出したりしています。そして三つ目の「ネットワーキング」が、チャイルドウェルビーイングに取り組んでいる人たち同士の交流です。こういった取組みを行う人の多くが単独での活動になりがちなので、なるべく横の連携を生み出すためにネットワーキングしています。

学校運営に関して言うと、単一で「イキイキと生きる人を輩出する学校」として運営するのではなく、学校マネジメントや校長マネジメントを行い最終的に広く波及するための取組みです。最終的な理想形は、ほぼ何もしなくてもそういった人を育む連鎖が起きることです。「活育」も「概念」なので、具体的にこれをしたから活育であるというものではなく、あり方としてこれを体現できていれば良いのかなと思っています。そして、子どもたちはもちろん大人たちも含めて、関わる人みんなが本当の意味で「イキイキと生きる」ことができるように、客観的事実としてきちんと計測を行いたいと思っています。これからの数年間は、この目標を汲んだ学校を10~20校程度まで増やすことです。そうすればデータも取れるし、今後波及しやすくなるのではないかと考えています。

最後に、諸藤さんが大切にしているのはどういったことでしょうか?

 ウェルビーイング度の高い人が、自分らしく社会で活躍すること

「既存の社会システムがどういう風に揺らいでいるのかを知りたい」と考えるうちに、次第に人の内面や学習の構造にも興味が湧いてきました。そして改めて「幸福」について自分なりに再定義する中で、「持続的幸福」つまり「ウェルビーイング度が高いこと」が重要ではないかとの仮説に辿り着きました。
これがどういう条件のもとで成立するかというと、未来も含めた社会変動があってもそれを前向きに捉えられるとか、時代背景を理解しているとか、自己理解を深めているとか――様々なことを理解した上での「自分らしさ」に納得していることだと思います。

このことを理解した上で「世代をまたぐ社会課題を解決する産業を創り出す」ために、ウェルビーイング度の高い人がリーダーシップをもって社会で力を発揮したり、それをサポートしたりする活動を今後も続けたいと思っています。

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