KNOWLEDGE
このシリーズでは、米国におけるフィランソロピーの担い手たちが、未曽有のパンデミックにどのように対応したのか、見ていきます。
この記事の前編はこちら。
まとめ
□アマゾンCEOの元妻のマッキンジー・スコットさんの寄付はその額と思慮深いアプローチゆえ、ひときわ注目を集めた。
□そのアプローチは、支援を決定した団体には、使途に一切条件をつけない資金を一括払いで提供するというもの。
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今回は、新型コロナ・ウィルスに取り組む超富裕層の個人寄付を取り上げます。
2020年の新型コロナウィルス関連寄付総額は全世界で202億ドルでした。中核的な役割を担ったのは企業の寄付・助成ですが、超富裕層の寄付も58億ドルと全体の27%にのぼりました。集計対象の寄付者はわずか48名ですから、1人あたり平均寄附額は約1.2億ドルになります。超富裕層が、新型コロナウィルス感染拡大という未曾有の危機に直面していかに巨額の寄付を行ったかが分かります。なお、このデータは、寄付者の名前が公開された5万ドル以上の寄付のみが対象で匿名寄付は含まれていません。このため、実際にはさらに巨額の寄付がなされたと思われます。
前編では、アマゾンのCEOジェフ・ベゾス氏の元妻であるマッケンジー・スコットさんは、新型コロナウィルス関連への新しい寄付のスタイルについてご紹介しましたが、寄付先の決定プロセスと寄付手法も革新的でした。
マッケンジー・スコットさんは、フィランソロピー・アドバイザー・チームを通じて支援先候補団体に厳格な寄付前調査(デュー・ディリジェンス)を行いました。ガバナンス、コンプライアンスから、財務状況、活動内容、過去のトラックレコードなどが徹底的にチェックされたのです。その上で、支援を決定した団体には、使途に一切条件をつけない資金を一括払いで提供しました。
現在のフィランソロピーでは、インパクト最大化と不正利用防止のため、資金使途を限定し報告義務を課すのが一般的ですが、あえて彼女はこの常識を無視したのです。この決断の背景には、厳格なデュー・ディリジェンスを経た団体なのだから、寄付先の団体を全面的に信頼し、資金の使い方は一切任せるべきだという彼女の信念があるのでしょう。これはまた、新型コロナウィルス感染拡大のような未曾有の危機で刻々と状況が変化する中では、現場の団体のみが最適な決断を下すことができるという合理的な判断もあると思います。
2020年12月、マッケンジー・スコットさんは、全米50州の384団体に寄付を決定しました。支援決定後、彼女のチームは1団体ずつ個別に電話をかけて寄付を伝え、何の条件もつけずに一括で資金を渡すので自分たちが最善と思うやり方で使ってほしいと伝えました。この電話を受けた団体の多くは、これを聞いて電話口で感謝の涙を流し、自分たちが支援活動をはじめるに至った個人的なストーリーを語ってくれたそうです。
マッケンジー・スコットさんは自身のブログで次のように語っています。
「私たちは、寄付勧誘などしない団体を全面的に信頼し、彼らに無条件で寄付するという新たな手法を開拓したかったのです。データを重視した厳格なリサーチを行ったお陰で、寄付プロセス自体は人のぬくもりを感じさせる柔軟なものにすることができました。」
今回の彼女の試みは、新型コロナウィルス感染拡大という枠を超えて、新しいフィランソロピーの次のモデルを提示しているのかもしれません。
多摩大学社会的投資研究所 小林立明
SIIF藤田淑子、小柴優子
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