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新型コロナウイルスに取り組む「新しいフィランソロピー」1 ー米国財団の取り組み (前編)ー

このシリーズでは、米国におけるフィランソロピーの担い手たちが、未曽有のパンデミックにどのように対応したのか、見ていきます。

まとめ

□ビル&メリンダ・ゲイツ財団が従来からワクチン開発を支援していたことで、超短期間での新型コロナウィルス用ワクチン開発が実現した。
□米国内では、主要財団が極めて迅速かつ機動的な意思決定で、NPOや低所得者層を支援した。

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2020年は新型コロナウィルスの感染拡大が、世界に深刻な影響をもたらした1年でした。
感染者の大量発生により医療機関は疲弊し、人びとの移動制限やレストラン・商業施設の営業規制により経済は深刻な打撃を受けました。特に、保健医療施設が整備されてない低所得コミュニティへの影響は深刻で、さらに失業や収入減が追い打ちをかけ、改めて格差や差別の問題が浮き彫りになりました。

こうした状況のなか、矢継ぎ早に対応を打ち出しその存在感を示した欧米の「新しいフィランソロピー」の担い手たちにフォーカスし、それらの新型コロナウィルスに対する取り組みを、これから複数回にわたりご紹介します。第1回目は、米国の助成財団の事例です。

はじめに、新型コロナウィルス対応で改めて存在感を示した世界最大規模のビル&メリンダ・ゲイツ財団の事例を紹介します。もともと、グローバルな公衆衛生の課題に取り組んできたゲイツ財団は、いち早く新型コロナウィルスへの取り組みを開始しました。

現在、日本でも接種が開始されたファイザー社とBioNTech社の共同開発ワクチンは、mRNA技術という新たなワクチン開発技術を利用しています。実はゲイツ財団は2014年からこのmRNA技術を使ったマラリアとHIVワクチンの開発に取り組んでいました。このようなゲイツ財団の研究・開発の蓄積があったからこそ、今回の新型コロナウィルス向けワクチンの開発が、通常では考えられないほどの短期間で可能となったのです。

さらに、ゲイツ財団は、様々なワクチン開発に資金を提供する「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」に創設メンバーの一員として2017年に参加し、資金提供を続けています。CEPIからの資金提供のおかげで、現在、世界各国の主要製薬会社が新型コロナウィルス向けワクチン開発に取り組むことができているという事実があります。

ビル・ゲイツ氏の2021年頭書簡によると、これまでにゲイツ財団は新型コロナウィルス対策に17.5億ドル(約1,838億円)を提供しています。金額もさることながら、こうしたゲイツ財団の未来を見据えた先駆的な試みが、今回のようなグローバルな危機に際して迅速でインパクトのある効果を発揮しました。まさに未来への先行投資を行う「新しいフィランソロピー」モデルと言えるでしょう。

米国では、グローバル分野だけでなく、新型コロナウィルス感染拡大で疲弊した国内のNPOや低所得コミュニティへの支援も進められています。2020年6月には、ドリス・デューク慈善財団フォード財団W.K.ケロッグ財団ジョンD.&キャサリンT. マッカーサー財団アンドリュー W. メロン財団の5財団が、今後3年間で17億ドル(約1,785億円)以上の資金提供を行うという共同声明を発表しました。米国NPOの多くは、6ヶ月分程度の運営資金の蓄積しかないため、新型コロナウィルスによる収入途絶で存続の危機に直面する恐れがあり、この緊急支援は、こうした非営利セクターの運営を支えています。

この記事は後編に続きます。

多摩大学社会的投資研究所 小林立明
SIIF藤田淑子、小柴優子

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