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社会課題に立ち向かうイノベーターたち① – Learning for All

今、日本の子どもの7人に1人が貧困状態にあるといわれています。このような日本における「子どもの貧困」は「相対的貧困」と呼ばれ、国民を可処分所得の順に並べ、その真ん中 の人の半分以下の所得の状態を指します。具体的には、親子2人世帯の場合で月額所得がおよそ14万円以下(公的給付含む)の状態です。このような家庭の子どもたちは、毎日の衣食住に事欠く「絶対的貧困」とは異なりますが、経済的困窮を背景に教育や体験の機会に乏しく、地域や社会から孤立し、様々な面で不利な状況に置かれる傾向にあります。 今回は、この「子どもの貧困」問題に早くから取り組み、コロナ禍で深刻さを増す状況の中で、社会に大きな動きを起こそうと奮闘している団体をご紹介します。

Learning for All

NPO法人Learning for All (以下LFA)は「子どもの貧困に、本質的解決を。」をミッショ ンに、2010年から、のべ9,500人以上の子どもに支援を行ってきた団体です。子ども食堂、無料学習支援、居場所づくりなど6~18歳の子どもたちに対する包括的な支援を行っており、新型コロナウイルス拡大下では、宅食支援や家庭訪問支援なども行ってきました。代表理事を務める李炯植氏は、兵庫県尼崎市の出身で、周りに困難な家庭環境の子どもが多かったことから貧困問題の解決に関心を持ち、LFAを設立されたそうです。

貧困問題の現状

日本で生活するこどもの7人に1人が相対的貧困状態にあり、その数は全国で約260万人にものぼります。経済的な苦しさの中にある子どもたちが抱える問題は複雑で、LFAの調査によると生活保護、ひとり親世帯、発達障害、不登校などの属性を2つ以上持っている子どもの数は全体の8割を占めるそうです。

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LFAが対応した、2人の子どもの事例

一人目は小学3年生のAさん。生活保護家庭の6人兄弟の一人として育ち、両親の体調不良で食事を摂れないことが度々ありました。欠食は学校での勉強に支障をきたし、学力にも影響 が出ています。スクールソーシャルワーカーの紹介で月に一度、子ども食堂に通っていますが、味覚が発達しておらず中々ご飯が食べられないという状況です。Aさんのように、食事を決まった時間に摂れない、歯磨きができない、虫歯治療を受けていない、など基礎的な生 活習慣が不足している子どもは少なくないそうです。

二人目は中学3年生のCさん。精神疾患を患う母親と二人の、母子家庭で育ち、現在はヤングケアラーとなっています。Cさん自身にも発達障害の疑いがあり、不登校の経験もあります。進路の相談先がなく、学力的にも進学が難しい状況にあります。このように貧困の連鎖が生まれ、さらに新型コロナウイルス感染拡大防止の影響で学習機会が失われたり、児童虐待の発見件数が増えたりと、子どもを取り巻く問題は深刻化しています。

また別の問題として、貧困状態にある子どもを取り巻く家庭・学校・地域の大人たちへの負荷が大きく、疲弊しているという現状があります。学校の先生たちは日々の業務が忙しく、ケースワーカーも1人で100世帯以上を担当しているような場合があり、困難な状況にある子ども一人一人に対して丁寧に対応することは非常に困難です。また、子ども食堂や学習支援を行っている団体も、支援リソースやネットワークの不足で対応しきれない場合がありま す。

LFAのアプローチ

LFAでは、目の前の子どもに寄り添うこと、社会の構造そのものを変えていくことを目指し、次の3つのアプローチを採用しています。
①1人に寄り添う:各地域で子どもたちに必要な支援活動を行う
②仕組みを広げる:支援のノウハウを全国に広げて、良い取り組みを増やしていく
③社会を動かす:政策提言を通して、世の中の当たり前を作っていくこのようなアプローチで、今を生きる子どもたちや未来の子どもたちが困らないような社会を作っていくことを目指しています。

①1人に寄り添う

LFAでは「地域協働型子ども包括支援」を通じ、居場所支援・学習支援・食事支援・保護者支援など、子どもたちを包括的に支援する拠点作りに加え、地域の様々な立場の大人がネットワークを作ります。過酷な環境にいる子どもほど支援に繋がりにくいという現状があり、行政・学校の方々とLFAのスタッフが顔を合わせて、支援の必要な子どもを見逃さずに繋げています。そして成⾧段階に合わせた支援を切れ目なく行います。支援現場を作る+地域の大人のネットワークを作る、の両方に取り組むのがLFAの特徴です。

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LFAでは子どもたちの状況や地域の実情に応じて、幅広い支援内容を展開しています。学習支援では、学校内の支援に加え、公民館を借りて不登校などで学校に通うことにハードルがある子どもや個別対応が必要な子どもにも支援が届くようにしています。居場所づくりの支援も子どもの年齢に合わせて、小学生を対象にした生活習慣の学び直しを目的とした学童のような拠点や、中高生を対象にした安心安全な環境を提供するための居場所など、多彩な支援を展開しています。

また、ボランティアの育成にも力を入れています。LFAのボランティアは、事前に独自開発のeラーニング研修を40時間程度受けることになっています。これは、子ども支援、特に困難を抱える子どもの支援には、そのノウハウを学んだ上で入ってもらうべきと考えるためです。子どもたちの中で常に起こるアクシデントに、周りの大人がどう対応するかで、子どもの考え方や行動は、良い方向へも悪い方向へも変わっていきます。そのため、学習支援においても、指導のノウハウを学んでもらうようにしているそうです。

さらに、支援の成果を評価することにも力を入れています。「地域協働型子ども包 括支援」において、子ども成⾧指標、(子ども家庭)環境指標、地域協働体制指標、子どもの中⾧期の成⾧指標、という形で4つの領域に区切り、支援の評価指標を設定しています。

「子ども包括支援 実践報告書2020年度版」

ダウンロードフォーム:https://forms.gle/ZzQd7vA7oZAqoNZT7

②仕組みを広げる

LFAでは過去10年間子どもたちを支援を通じて得たノウハウを広げるため、全国の 「子どもの貧困」対策に取り組む団体に向けたネットワークを展開しています。 ノウハウ展開事業として、子ども支援のためのeラーニング研修を受けられるサービス、各団体に合わせた集合研修、対応の難しい子ども向けの支援教材などを提供しています。子ども支援の現場において困り事があったときに対応できるよう、ノウハウ共有のプラットフォーム「こども支援ナビ」も立ち上げました。

参考:「こども支援ナビ」https://childsupport-navi.com/

また、全国に子ども支援団体が多くあるにも関わらず活動基盤が整っていない団体が多いという現状から、ゴールドマンサックスと、パブリックリソース財団と共に基金を立ち上げました。支援を必要とする子どもたちのニーズに対して供給が不足し、受け皿となる団体がもっと必要であると考えており、この基金を通して3年間で1.2億円を17団体へ援助するとともに、LFAが伴走支援もしていくそうです。

参考:「ゴールドマン・サックス地域協働型子ども包括支援基金」https://learningforall.or.jp/gschildfund/

③社会を動かす

LFAは「子どもの貧困」という課題に向き合ってきた経験を生かし、メディア発信、企業での研修などを通して、課題の啓発活動を行っています。また、学生ボラ ンティアの受け入れを通して、様々な業界でそれぞれのアプローチにより貧困解決に携わるリーダーの輩出も行っています。

そして、全国の子ども支援団体と共に政策提言をすることで、省庁や国会議員と連 携し、子どもの貧困を解決するための政策づくりにも取り組んでいます。


このように、LFAは、一人一人の子どもに寄り添いながらも、「子どもの貧困」を 取り巻く課題解決に向けて日本の社会全体を大きく動かそうとしています。

SIIF小柴優子

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