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社会課題に立ち向かうイノベーター達②株式会社ヘラルボニー

アートに特化した福祉施設が日本全国に200施設程度ある中、その内の31の社会福祉法人とアートのライセンス契約を結び、障害のあるアーティストの作品を様々なもの・こと・場所に落とし込むという事業を展開しているのが株式会社ヘラルボニーです。ヘラルボニーの目的は障害のある人の賃金を上げることだけでなく、障害と聞いたときに「欠落」というイメージではなく「違い」「個性」と捉えられる社会になって欲しいという想いがあります。それぞれの個性に合わせた仕事ができるようになり、障害のある人が働きやすく、生きやすくなっていくこと、そうした中で個人個人が尊重される社会を目指しています。

ヘラルボニーの原点

ヘラルボニー代表・松田崇弥氏と副代表・松田文登氏は双子であり、現在はそれぞれが本社・岩手と支部・東京の二拠点に別れて活動しています。ヘラルボニーの原点には、代表・副代表の4歳年上の自閉症という知的障害を持つお兄さんの影響があります。幼い頃からお兄さんを見ると「障害者だから可哀想」と周りに言われることが多く、松田兄弟は違和感をおぼえていました。副代表が小学4年生の時には作文に「お兄ちゃんだって同じ人間なんだ」というタイトルで作文を書いています。皆と同じ感情を抱き普通に過ごすお兄さん対して、社会からは卑下や同情の声が上がること、それを変えていきたいと思っていたそうです。

今、日本には、障害のある人が936万人います。松田兄弟は彼・彼女らのアート作品を最初に見た時感動を覚え、支援や貢献の文脈に乗せない、彼・彼女らのアートの世界観を生かしたビジネスがしたいと思ったと言います。障害のある人もビジネスパートナーとして捉えられ、当たり前に賃金が彼らにバックされていくモデルを作りたい。そうした想いが根底にあるとのことです。

ヘラルボニーは現在、3期目が終わったところです。今は障害のある人たちに向けられる社会の目線を変えることに注力していますが、今後障害のある人たちが個人としての幸せを追求できるように、それを達成できる会社にすることを目指しています。

ヘラルボニーが作る優しい世界

「ヘラルボニー」という言葉は元々、代表・副代表のお兄さんが、よく自由帳に記していた謎の言葉でした。お兄さんに意味を聞いても「わからない」と答えていますが、言語化するのが難しいだけでお兄さんにとっては何かしら意味がある言葉なのではないかと副代表は言います。元々ヘラルボニーを会社名に決める前、インターネットで検索をかけたところ検索結果は0件だったそうです。今、ヘラルボニーで検索をかけると1590万件ヒットするようになっており、「兄の生み出した謎の言葉が、社会を優しくする言葉になってきているということだと思います」と副代表は話しています。

また、お兄さんに関する興味深いエピソードとして、このようなお話しもされていました。
「昔、レンタルビデオショップで毎週決まった時間に戦隊ヒーローのDVDを借りる、ということが兄のルーティーンでした。ある時そのビデオ屋が潰れてなくなってしまうことになって、自閉症の兄やその周りの自分たち家族とっては毎週のルーティーンがなくなるということで大問題になりました。母親はずっと『レンタルショップがなくなってしまうんだよ」ということを必死に兄に刷り込んでいました。閉店の前日店に行くと、もう店内がほとんど片付いてしまっていて、ビデオが借りられなさそうな状態。兄がパニックになる、と身構えたのですが、戦隊ヒーローものの一角だけそっくりそのまま店側が残してくれていました。毎週兄が来ることを知ってくれていての行動だったと思います。まだまだ障害のある人の家族は、彼らの存在を隠すべきだと思っていたり、外に出て行きづらかったりするけれど、地域に兄を出すことで社会に優しさが生まれたこの事例のように、もっとオープンにすることで障害のある人たちが暮らしやすくなるんじゃないかと思っています。」

障害のあるアーティストたち

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ヘラルボニーは現在、北は青森から南は沖縄まで、2,000点以上のアート作品のアーカイブが全国から集まり、それを使った事業を展開しています。福祉施設の月額平均賃金が16,369円と言われている中で、それを打破することを目指しています。ヘラルボニーのメンバーにはこれまで福祉領域を勉強してきた人はほぼいない一方で、自分の身近に知的障害の人がいるというメンバーが多く、福祉の領域をどうボトムアップしていけるのかを重要な事業展開の課題として捉えています。

ヘラルボニーは会社のミッションに、「異彩を、放て。」を掲げています。普通じゃないということを「可能性」として捉え、それを全国へ放っていくことで障害の概念を変えていこうとしています。そして「才能は、披露してはじめて、才能になる。」という考え方の元、才能を披露する場を積極的に設けています。ビジネスモデルとしては、ヘラルボニーがアートデータ管理、契約手続き、企画編集、自社事業を行い、クライアント・代理店から企画費とアート使用料をもらって、そのアート使用料を福祉施設や個人に直接支払うという形をとっています。支援や貢献という文脈を対外的に出さないようにして、アーティストの皆さんをビジネスパートナーとして位置づけるとともに、水準より高い賃金を渡せるようにしています。

ヘラルボニーの事業

ヘラルボニーは大きく分けて、アートライフブランド事業とアートライセンス事業を行っています。

<アートライフブランド事業>
アートライフブランド事業では、日本の職人とアーティストを掛け合わせてプロダクトを作り出すブランド「HERALBONY」を展開しています。「障害のあるアーティストが作ったから買う」ではなく、「この商品が欲しいから買う」という購買行動を促し、ブランド・各アーティストにファンがつくようにすることが、大きな目標です。岩手の川徳百貨店への出店からスタートして、全国の百貨店を中心とした商業施設に店舗の展開が進んでいます。現在、関東では横浜のNEWoManに店舗があり、今後は渋谷スクランブルスクエアや日本橋三越への出店も決まっています。

「障害」という言葉は「安い」商品を連想することがあります。百貨店などでハイブランドの中に混じって出店することで、障害に対するイメージがグラデーション的に変わっていくこと期待しています。支援的な文脈ではなく、HERALBONYのアーティスト達の作品が買ってくれた人の日常に彩りを与えていくという状態を作っていくことを目指しています。

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また商業施設側からも、ヘラルボニーがあることで障害のある人が当たり前に施設を訪れるため、自然とダイバーシティの体現につながっているという声が上がっています。松田副代表は「ヘラルボニーが存在することで、本当の意味で誰でも来られる場所を増やしていける」と考えています。現在ではD2Cも強化され、世界125ヵ国への販売が可能になっています。
他にも、ブランドとのコラボレーションを行っています。アパレル・TOMORROWLANDと組み、障害や福祉という言葉を出さずに発売した商品は、ZOZOTOWNの「ハンカチ・タオル部門」で月間売上ランキングの1位を獲得しました。また、天童木工と組んでインテリアの事業を行ったり、ホテルの内装プロデュースをヘラルボニーのアーティスト達が行っています。

ヘラルボニーが目指すのは、ヘラルボニーという名前からヘラルボニーの柄が連想されるようにしていくことです。原画・複製画を販売するアートギャラリーも新設し、既に数十万円で取引される作品もあります。

<アートライセンス事業>
アートライセンス事業は根幹として、2,000以上の作品を通じたアートライセンス事業を展開しています。ビールメーカーと組んでラベルにヘラルボニーのデザインを使ったり、パナソニックのオフィスにアートが散りばめられていたりします。ノベルティ事業として、オリパラ期間中はJR東日本・東北支社は社員全員がヘラルボニーのマスクを着用するなど、企業姿勢の一つとして採用されることもあります。海外向けのクラフトジンのパッケージ、プロバスケットボールチームのユニフォーム、サバ缶のデザインなどにも使われています。その他にも、みずほ銀行の本店ビルの建て替え時に建設現場の仮囲いをソーシャルアートのミュージアムにしたり、岩手県花巻や東京都吉祥寺など駅舎自体をアートで彩ったりなどの取り組みも行っています。アート、福祉、障害という言葉に排他感を覚えてしまう人が多い中、公共の場所にヘラルボニーのアートが存在することで、興味のなかった人にも刷り込まれていくというプロセスが重要です。

障害=欠落、を変えていく

「この国のいちばんの障害は『障害者』という言葉だ」という強いメッセージを掲げ、弁護士会館の国会議事堂の前に初めてヘラルボニーとして意見広告を出しました。「桜を見る会」の招待者名簿をシュレッダー処理した問題で安倍首相が「担当は障害者雇用の職員」と答弁は、「スタッフが障害者雇用であった」という事実が国民に向けた言い訳として成立すると判断したのではないかと推測しています。「障害=欠落」という連想が多い中で、ヘラルボニーは「障害=違い」に視点が変わっていくことを望んでいます。「障害者という言葉には現状ネガティブなイメージが大きいため、そこにアクションを起こしていける会社でありたい」松田代表は、優しくそして強く締めくくってくれました。

SIIF 小柴優子
SIIF インターン原田百々恵

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